地球時代、今を生きる学問

オトナになる~ちきゅう学で考える

第3回

続・大人になる日

丸山 茂徳(東京工業大学理工学研究科地球惑星科学専攻教授)


(2)- 2 時代はボーダーレス

 

歴史は繰り返さない。『歴史が繰り返す』というのは間違いである。見かけ上、繰り返すように見える場合があるが、それは『人間の心理、権利欲、名誉欲、金銭欲、性欲が時代を超えて普遍だから』生じる見かけの現象だ。人間社会を支配する『社会の構造と広がり』が時代と共に一方向に変化して繰り返さない限り、『歴史が繰り返すことはない』のである。社会の一方向性を支配しているのは、科学が生み出す発明である。それが新しい革新的な技術を生み、その製品が経済の源泉となり、経済は国家を潤し、国民の生活の豊かさを創りだす。それが文化を豊かに開かせる。その科学の進展に限界がない。故に社会の歴史は無限に進歩という名の下に進み、疲れた国家が敗残者として歴史から消えてゆく。

 

21世紀の具体的な未来を考えるために、まず身近な例の解説から始めよう。明治時代や、それ以前の日本史や世界史と比べて、21世紀は何が決定的に違うのか?科学と技術が驚異的に発展して、現代では、コンピュータを通して、全世界の人間が瞬時に(1)情報と(2)お金(電子マネー)を交換できる時代になったからである。我々を囲む空間が家族レベルからグローバルになったからである。個人が自分のコンピュータを持ち、いつでもどこでも世界中の情報を瞬時に把握できる時代になった。

 

更に(3)人と(4)モノがグローバルに動く新時代になった。今や誰でも外国に旅行する時代になり、日本製品は世界中に広まった。しかし、日本の位置は急速に縮退しようとしている。逆に中国が世界の最強国へと邁進し始めた。日本は21世紀の革命的時代の空間の中でどこに向かうのか。中心はアメリカにあり、日本は中心から外れようとしているが、まだ落ちこぼれてはいない。

 

この革命を誰が支配しているのか?中心から外れた国はどうなるのか?それらが完全に理解できれば、日本の運命が見えてくる。そして自分の運命を切り開くことができる。それらをこのシリーズでわかりやすく解説しよう。

 

(2)- 3 新しい夢


神様は平等に能力を与えたのではないが、それに不満を言っても仕方がない。そうではなく、与えられたものが何かを自覚して、それを生かせる工夫をしよう。その為には激しく急速に変化する未来をどこまで見抜き、そこに先手を打って出られる能力を身に着けよう。革命を生き抜く力は知性だけではない。勇気が最も大事な能力だ。変化をチャンスと捉え、未来に先手をとろう。先手をとる能力をどうやって磨くのか?

 

ソニー、トヨタ、パナソニックなど、日本が誇る永遠の巨大企業だと考えられてきた企業が今おかれている試練を眺めたらいい。これらの企業さえ今、崩壊の危機にさらされているのだ。世の中に、どれ一つとして永遠に安定なものなどないだろう。現代は、その変化が、極端に早くなっている時代なのだ。それは危険に満ちているが、君たちの殆どは守るべきものなど何もない成金候補なのだ。君たちのビッグチャンスの時代が始まったのだ。克服すべき最大の問題は君たちの中にある保守性だ。

 

(3)親が可哀そうになる日


現代のような時代は人類史の過去にはなかった。急速に変化する時代の中で、君たちの両親はついてゆくのが精いっぱいで、コンピュータに支配された社会構造の原理どころか、日常的な生活にも支障をきたしているだろう。それに比べて、君たちコンピュータ世代の優越感は、どの家庭においても日々大きくなっているだろう。

 

数学の『集合』という概念を学んだだろう。子供の頃は、自分は小さな円だった。親のサイズの1/100以下の小さな円だった。今はその半径が数倍に大きくなり始め、親よりも大きくなりそうな気がする。俺の円の中に親の小さな円がすっぽり入った気がすることがある。こんな大きな社会の中で、社会の底に這いつくばって家族の為に、なりふり構わず、世間から俺をかばって、育ててくれたのだ。俺は家族に無償の愛で育ててくれた気がする。ありがとう、というしかないな。

 

住む世界が家族や学校を超えて更に広く大きくなると、突然、親が小さく見え始める。そして、家族や自分の為に無償の愛を注いでくれた親の存在に気が付き、感謝の念が芽生え、終わりが見えてきた親の運命に感動の情念が湧いてくる。親が可哀そうに見えたとき、その時が、君が大人になった瞬間だ。 

プロフィール

丸山 茂徳(まるやま しげのり)

東京工業大学理工学研究科地球惑星科学専攻教授


1949年生れ。専門分野は 野外地質学、変成岩岩石学、惑星テクトニクス、地球史。従来のプレートテクトニクス理論に対して、マントル全体の動きを仮設する「プルームテクトニクス」を提唱し、地質学界に衝撃を与えた(1994年)。最近は、惑星の地殻変動と生物進化の歴史を関連付けたり、人間の文明や戦争の歴史を、地学の立場から見直したりなど、学際的な研究も行っている。『ココロにのこる科学のおはなし』 (数研出版)、『46億年 地球は何をしてきたか?』(岩波書店)など、中高生向けの著書も多い。

 


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