グローバル化、ソーシャルビジネス、そしてIT

-若者たちが主役になって、社会を動かし始めた!!

私たちみんなの生活を支えている「仕事」。人は誰でも仕事をして生きていくわけですが、その仕事は「産業」を生み出すと同時に、「産業」の変化とともに変わっていきます。あなたはそんなことを、考えたことがありますか?

 

その産業のあり方が、ここにきて大きく変化してきています。皆さんは、その大変化のまっただ中にいるのです。そして、これからの日本と、日本の産業の将来は、若い皆さんの肩にかかっているのです。

 

この大変化をもたらしたもの、そしてそのまっただ中で息づいているもの。それはいったい何でしょう? 

 

グローバル化という転換期の日本

 

産業は、科学技術の進歩によって農業・鉱業(第一次産業) から工業(第二次産業)、そして商業、サービス業(第三次産業) へと広がってきました。

 

日本は、安い資源を海外から仕入れて加工し、価値の高い製品を作る、という「工業」を大きな柱として発展してきました。その意味で、科学技術立国といわれ、自動車や電化製品などの分野で、世界有数の企業も育ってきました。

 

けれど、そのあり方は今、大きく変化しつつあります。アジア諸国など海外に、生産から販売の多くの仕事が移されつつあるのです。

 

工業は、新しい技術の「研究」から、その成果を生かした製品の「設計」「製造」という、主に理科系出身者が担ってきた仕事を軸に、それを支える資材の「調達」、製品の「流通・販売」、また会社の「経理」「人事」という文科系出身者が多く担ってきた仕事、さらに理科系・文科系ともに関わる「情報システム(※)」「経営」と、その仕事は多岐にわたります。その中で、「研究」「経営」などの一部の仕事以外は、海外の拠点で行う企業が増えています。産業のグローバル化が進んでいるのです。それに伴って社員も、留学生など外国人が多く採用されるようになっています。

 

高齢化による産業構造の変化

 

従来からあるサービス業・商業は、皆さんにも身近なコンビニ、ファミレス、レンタルDVD 店などを中心に、この20 年間急成長してきました。しかし、ここへきて国内での拡大はゆるやかになっています。

 

一方、新たな社会的サービスの仕事、医療や介護さらには健康などの仕事が、高齢者の増加と共に増えています。これらの就業者数は、この10 年で200 万人増加し、現在600 万人。10 年後には800~ 900 万人(全就業者数は約6000万人) とも予測されています。

 

※情報システム

ネットワークに接続された個々の情報機器が連携しながら、全体としてまとまりを持って動くことで、大量の情報の処理を可能にする仕組み。

 

社会を構成する「業種」「職種」とその動向

ソーシャルビジネスという新機軸

 

このような、医療をはじめ福祉、教育、環境保全、人権・平和、国際協力など、従来は政府や自治体が中心に担ってきた仕事のあり方に、大きな変化が起きています。これらの課題を市民が解決しようという考え方(「新しい公共」) が生まれ、このような事業や活動を担おうとする企業や、非営利の組織NPO(Non Profit Organization) も登場してきました。これらはソーシャルビジネスと呼ばれ、新たな産業としても、新たな働き方としても注目されています。

 

マスコミ・流通・農業が変わる!?

 

さらに、多くの産業のあり方、多くの製品やサービスの変革を促し、その中心で息づいているのがIT(情報技術、注参照) です。

 

テレビはデジタル化したことで、データ放送、さらにインターネットも利用した双方向化など、多様な情報提供やコミュニケーションを可能にしつつあります。新聞やテレビニュースに頼っていた日々の情報をインターネットで得る人も増えてきました。書籍は、紙から電子書籍に広がってきました。SNS(Social Networking Service) は、今やコミュニケーションツールとして不可欠なものになろうとしています。

 

IC カードは、電子マネーとしてお金や切符の代わりとなり、チケット購入やホテルの予約は、インターネットでもできるようになりました。ネット販売は、卸売業から店舗販売までの機能も担っています。しかも、その情報技術は世界共通でもあるので、世界規模でのサービスも生まれてきています。

 

スーパーやコンビニでは、POS システムで仕入れから販売まで管理するようになり、各店長は、そこに集まるデータから売れ筋を読み、商品の売り方を工夫できるようになりました。農業では、個人の農家がITを使うことで消費者と直接つながったり、また栽培でも、センサーと連動させ、生産管理したりできるようになりました。

 

環境問題やエネルギー危機が叫ばれる中、IT を駆使すれば、実はエネルギー使用の無駄が相当に省けるということもわかってきました(スマート家電やスマートシティなど)。

 

今やどんな仕事に就くにしても、IT を知る必要がある時代に突入してきているのです。

 

 

※IT

Information Technology / 情報技術。コンピュータやネットワークなどの情報処理に関する技術。IT と同義的な言葉として、ICT(Information and Communication Technology /情報通信技術) という表現も一般的になりつつある。IT に比べ、ネットワーク通信による「コミュニケーション」に着目された表現といえる。

 

 

新たな「情報ビジネス業」も台頭

 

そんな変化は、IT に特化した産業も拡大させています。携帯電話サービスに加え、検索やオンラインゲームなどネット上でさまざまなサービスを繰り広げる産業も生まれました(情報ビジネス業)。さまざまな業界の情報システムの開発を行う会社も大きな産業になりました(情報サービス業)。このような直接IT に関わる産業の就業者数は、今後10 年間で1.5 倍になると予測されています。

 

次なる注目は「大規模データの活用」

 

IT は、「実験」を主な研究手段としていた大学など学問・科学の世界に「コンピュータシミュレーション」という研究手法を提供し、研究に大変革をもたらしました。それが今、新たに「大規模データの収集・保管と分析」という技術と手法で、さらに別の学問・科学のあり方を生み出そうとしています。そしてそれは、製品開発からビジネス、行政をも巻き込もうとしています。

 

現在、インターネットをはじめとした情報通信ネットワークを通じて、利用者の情報は蓄積されています。例えば、あなたがかけた電話の履歴情報、定期券などで使われる無線IC タグやセンサーなどからの情報、ネット上の口コミサイトや動画サイトへの投稿……。スマホとアプリが急激に広がる中、今、爆発的な勢いで、情報の集積化が起こっているのです。

 

そして集積された膨大なデータは分析され、それによって画期的な活用が実現されつつあります。

 

事故や災害防止としては、例えば埼玉県の試み。GPS が記録した全国100 万台の走行データ(1日に地球700周分)に注目し、県内の道路の急ブレーキをかけたと思われる場所を抽出したのです。そこにスピードを落とさせるために白線を引くなど、事故防止に活かそうとしています。

 

ネット上の口コミやつぶやきも分析対象です。証券会社はTwitterのつぶやきから企業情報を整理し、株購入の参考にするサービスを開発しています。大規模データの活用が企業の命運を握る時代になってきています。

 

IT とアイデアがお年寄りも救う!?

 

すでにIT は社会の隅々にまで導入され、私たちの生活を支えるものとなっています。しかし、もっと便利になる、効率化する、コストが下がるなど、IT を活用する余地は、アイデア次第でまだまだありそうです。

 

例えば急速に広まっているタブレットPC やスマホ、それに連動する無線ブロードバンド通信(無線LANなど) を利用した、ネットワークによるIT 資源の共用(注参照) は、IT に縁遠かった人たちにも、さまざまな可能性を広げています。

 

その一例に、徳島の「葉っぱビジネス」があります。これは、日本料理の飾りなどに使う葉っぱの生産で注目されるお年寄りたちによるビジネスですが、農作業の現場でタブレットPC を使い、受注生産をしています。従来のPC やFAX と違い、注文が入ったことが作業中にわかるので、臨機応変に対応できます。見やすい画面で、お年寄りにも扱いやすくしたのがポイントでした。過疎の集落は今、IT の力で活気を取り戻しています。

 

※IT 資源の共用

ネットワーク上のハードウェアに、データやソフトウェアなどを置き、使いたい時だけ使うことが、近年クラウドコンピューティング (クラウドが意味する雲のイメージで概念図化される) とも呼ばれ、注目されている。

 

 

情報系学生のアルバイトから事業が

 

タブレットPC をレジ代わりに使うシステムを開発した若いベンチャーもあります。小規模店舗にとって、レジ専用機は高価で負担です。そこで、タブレットPC にアプリを入れ、それをレジ機代わりにしてデータはクラウド上に格納、レシートはタブレットPC とプリンタをつないで打ち出すという、安くできるサービスを作りました。タブレットPC は忙しい店舗の最前線でも便利で、美容院など導入する店舗が増えています。

 

実は、このシステムを開発した人は、情報系の大学時代に店員のアルバイトをしていて思いつき、卒業と同時にこの事業を立ち上げました。たとえ資金がなくても、自分たちでアプリが作れれば、事業が起こせるのです。

 

実際、ソーシャルビジネスのサービスには、IT を学んだり慣れ親しんだりした若者によるサービスが出てきています(表1)。IT の知識・スキルを身に付けた若者が、今までの社会を変えられる可能性は、大いにあるのです。もっと優しく快適な社会へ。若者への期待がふくらみます。

 

「読み・書き・IT」の時代へ

 

IT の進歩とその活用の急速な広がりを受け、従来の「読み・書き・そろばん」ではなく、「読み・書き・そろばん・IT」が学習の基本だ、とする考え方も出てきています。実際に韓国などでは、生徒が自然にIT に触れることで、より実践的で創造的な学びができるような教育改革を、他国に先駆けて進めています。

 

日本の社会人が就職した後に「高校時代に学んでおけばよかったと思う教科」の上位に挙がるのがITだ、というデータがあります(ITを学んでおきたかったとするのは36%)。

 

皆さんが高校で、また卒業後進学先でもIT を学ぶことは、これからますます重要になり、言い換えれば、あなた自身の「未来」への可能性を広げることにもなるといえるのです。

 

 

 

【表1 大学生など若者が始めた新ビジネスの例】

◆ある趣味の指導を受けたいと登録すると、指導者を紹介してもらえて、家庭教師やテレビ会議システムで指導を受けられるサービス【ニーズとサービスの仲介】
「プライベートコーチのCyta.jp(咲いたジェイピー)」http://cyta.jp/

 

◆聴覚障害者向けに手話の翻訳を、スマホとテレビ会議システムを活用して行うサービス【福祉支援】
「シュアール」 http://shur.jp/

 

◆テレビ会議システムでフィリピンの大学生が日本人に英語を教え、その収益をフィリピンの子どもの教育費に充てるサービス【遠隔教育支援】
「WAKU WORK ENGLISH」http://wwenglish.jp/

 

◆サイト上で、自分が行きたい旅行ツアーを提案し参加希望者を募り、一定の人数が集まったら実施するサービス【広域のスケールマーケティング】
「トリッピース」
http://trippiece.com/?x=human&utm_expid=45969343-40.tiUhnqgtSPu8xncE3Rn7BA.1&utm_referrer=http%3A%2F%2Ftrippiece.com%2F%3Fx%3Dhuman

 

◆求人サイトだが、採用が決まるとサイトは報酬を受け取り、求職者は「祝い金」がもらえるサービス。東証一部上場の最年少記録(25歳) を作る【付加価値付き仲介サービス】

「ジョブセンス」http://j-sen.jp/

 

◆空き店舗を使いたい人に貸し出す、サイトによるシェアサービス【付加価値付き仲介サービス】など
「軒先.com」http://www.nokisaki.com/

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