10年後、今ある「仕事」が消滅する?!  頭のいいロボットが人間の仕事を奪う

~東大に合格するロボット研究~

国立情報学研究所 新井紀子先生

新井紀子先生
新井紀子先生

2021年、ロボットが東大に合格する?!


皆さんは、ロボットは東大に入れると思いますか?「人工頭脳はどんどん発達しているから、東大は無理でもセンター試験なら何とかなるんじゃない?」「将棋のソフトがプロ棋士に勝ったんだから、東大に入れるロボットだってできるかも」…。

 

では、東大に合格できるほど「頭のいい」ロボットができたら、世の中はどうなるのでしょうか。2011年にスタートした人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のリーダーの新井紀子先生の講演を聞いてきました。

 

東大入試に挑むのは、人工知能搭載のロボット「東ロボくん」。ミッションは、2016年度までに大学入試センター試験で高得点を取り、2021年度に東大入試を突破することです。現在の「東ロボ君」の成績は、あるマーク式の模試では、科目数の少ない私立大学型なら、全体の7割の大学で合格率80%以上だというから驚きです。東大に特化した模試の数学では、問題文の言語処理で一部人の手を借りたものの、偏差値60を取りました。

 

 

見たことのないものは、判断できないという弱点があった


だからといって東大に入れるロボットがすぐできるかというと、それはちょっと早計です。ロボットに問題を解かせるためには、問題を何らかの形の「計算可能な関数」で表わさなければなりません。言い換えれば、関数で表せない問題は解けないのです。だから、「正しいものを選べ」という問題には答えられても、「間違っているものを選べ」はダメなのです。

 

意外な弱点はまだあります。東ロボ君は音声認識ができるので、英語のリスニング問題はほぼ完璧に聞き取ることはできたのに、正解できませんでした。「ケーキをクリームとブルーベリーでデコレーションする時、それぞれをどう飾るか」という会話を聞き、正しいイラストを選ぶ、という問題でした。しかし東ロボ君は、ブルーベリーとクリームで飾ったケーキを見たことがなかった! 人間なら生まれて初めて見たものでも判断できますが、ロボットはデータがないものはお手上げです。つまり、現在のロボットは、できること・できないことの差が極端なのです。

 


 人間と機械の仕事を切り分けるために、「機械にできないこと」を見つける


でも、この研究の目的は、「東大に入れるほど優秀な人工知能を作り出すこと」ではありません。どんな作業を機械にさせて、人間は何をするのが効率的か、「ロボットと人間の仕事の切り分け」を考えるために、研究は行われています。

 

先ほどのケーキの問題では、ロボットは、英語の意味はわかってもイラストを選べません。しかし、ロボットが正確に訳せば、イラストを選ぶだけなら小学生でもできます。ロボットだけ・人間だけでやるよりも、ずっと効率がよくなるのです。

 

このようなことはすでに実現しています。例えば、ネット販売のAmazonの配送工場では、知的作業の多くが機械化されている中で、注文された品物を宛先別にかごに入れる作業は人間が行っています。商品の入れ替わりが激しいので、いちいち機械のプログラムを変更するより、人間が臨機応変に対応する方が、今のところはずっと効率がよいからです。

 

「東ロボ君のプロジェクトで目指すのは、機械と人間の仕事の線引きを決めるために、『計算では答えが出ないこと』とは何かを見極めることです。そのためには、問題を計算で表現することの限界を探すことが必要になります。それが『東大に入れる』プログラムの精度を上げることから明らかになってくるのです。


これからの産業は、『すべてを機械化しよう』とか、逆に『人間たるものはいかに働くべきか』と考えていてはダメで、機械と人間の切り分けをきちんと見極め、線引きを明確にしたところが勝つことになるでしょう(新井紀子先生)」

 

 

コンピュータが人間の仕事を奪う未来を生きるために


「コンピュータの発達で、人間の仕事はどんどん機械に取って代わられています。いずれ人間に残されるのは、より高度な知的労働か、逆にコンピュータの下請け(=教育を要しない低賃金労働)のどちらかになるでしょう。

 

ある意味、これは教育の根本を問い直すことになります。翻訳ロボットが訳してくれるのに、なぜ英語を学ぶのかという問いに、明確な答えは出ていません。同時に、『より高度な知的労働』を可能にする教育の整備は、技術の発達に比べてあまりに遅れていると思います。

 

コンピュータの発達は、人間の生活を便利で豊かにしてきました。しかし、コンピュータが人間の仕事を奪い、既存の職種や業態をつぶすという事態が起きつつあります。今ある仕事が10年後には存在しない、というのも脅しではありません。皆さんは、そういう世界に生きています。だからこそ、コンピュータの下請けにならない仕事とは何か、下請けにならないための能力は何なのか。将来の学びや仕事を考える時、しっかり考えてほしいと思います。(新井先生)」

 

※この記事は、2013年12月18日に実施された、慶應義塾大学教養研究センター主催の講演シリーズ「情報の教養学」で、新井先生が、話された内容をもとに作成しました。
情報の教養学講演シリーズのバックナンバーはこちら

http://ice.lib-arts.hc.keio.ac.jp/

 

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