自分らしく生きて、社会を変える

10年後のじぶん・しゃかい~ポスト3・11の『若者たちの神々』

第2回 

徳田和嘉子 株式会社cross fm 取締役副社長

人生のピークは60歳でいい。大事なのは、「次にどうしていこうか」ということ


(3) 就職してはじめてわかった、「学生時代に何をしたか」が通用することと、しないこと

外資系の一流企業は24時間臨戦態勢


開沼:就職してからは、社会人であることに何を期待していて、どんなことを感じましたか?恐らく、学生の中には入社する前は純粋に、「成長できる環境に身を置いて、自分を高めたい」っていうことを思っている人も多いと思うんですが。

 

徳田:世界一流ってどういうところだろうという期待と、そこにいる自分に酔いたいというのもあったと思います。実際に、一流の仕事の仕方はすごいと思いました。とにかく、無駄がない。会議は30分以上やらないし、それから何をやるにも常にプロフェッショナル。言い訳は一切通用しないし、いつまでにやれと言われたら、血を吐こうが何をしようが絶対にやります。

 

開沼:例えば、企業同士の買収とか合併とか、いわば「会社同士の結婚」をする際に、その間に入って交渉の手助けをするのが徳田さんが就職した外資系金融機関の役割なわけですよね。具体的な仕事の仕方はどんなものでしたか。

 

徳田 : 入るチームにもよるんですが、平日は朝9時から朝5時まで働いて、シャワー浴びて、仮眠してすぐ出社しての繰り返しで、土日も日中は、ほぼ会社に行っていました。いくら儲かっているのかという数字の分析表を見て、さらにそれを分析して、将来この会社はどう伸びていくだろうかということを、計算式で表していくという仕事をしていました。私の部署は、会社と会社の結婚や離婚を扱っていた部署で、結婚相手を分析するんです。こういう会社同士の結婚では、動かすお金は最低でも100億円以上ですね。そして、うまく結婚できれば、私たちの会社にはその仲人代が入る、ということですね。

 

開沼:目の前で何100億円、何1000億円というものすごい巨額のお金が動くことって、普通の人にはなかなか想像ができないわけですが、どんな感覚でした?楽しいんですか?

 

徳田:人によると思います。先輩によく聞いた話だと、日経新聞の一面に、どこそこの結婚が決まったという記事がバーンと出ると、自分のやった案件だということで、すごい達成感はあるみたいです。

 

開沼:給料は、業界でだいたいどのくらいもらえるものなんですかね。例えば、20代のうちに一千万円いけるとか。

 

徳田:公では言っちゃいけないことになっていますが(笑)、一千万はいけますね。

 

開沼:そうですよね、外資系金融機関の一般的な話ですが、日本の一般企業の40、50代でもらえる給料であるとか、公務員だと50代でいけるかという報酬の水準に、20代で到達できるという業界が「ガイギン(外資系金融機関の通称)」なんですよね。そういうところでの高揚感みたいなものはあると思うし、それと引き換えになっているものもあるんではないですか?

 

徳田:私が就活をしていた時に、先輩に聞いたら、「やっぱり、遊ぶ時間とか、家族と過ごす時間は犠牲になりますよ」と。外資系金融だと、24時間戦闘態勢が当然なので。

 

転職して出会った、自分に本当に合っている仕事


開沼:でも、それを知りながらも入っていった世界だったわけですよね。それはずっと続けようと思っていたのか、あるいは後はほかのことをしたらいいやと思っていたのか。

 

徳田:長く続くものではないと思っていました。でも、次何をしようかは、実際に入って体験してから考えようと思っていました。


そして入ってみて、やっぱりプロフェッショナルってこういうこと、というのはすごく身に染みました。すべてにおいて、効率がいいんです。仕事を邪魔する環境はないし、できる人には報いるし、できない人は「さようなら」だし。非常に勉強になりました。ただ、職場としては私には向いていなかったのかもしれません。頑張ったのですが、半年くらいで心身のバランスが取れなくなって、働けなくなりました。働けなくなった自分を責めて責めて、本当に辛かった。


今思うと、会社を選ぶ時に、自分の適性もあるけれども、就職先を、時流とか見栄とかで選んでしまったかな、と思います。結局、2009年の3月に退職しました。その後は、しばらく休んでから、その会社を退職した人同士作った環境エネルギー事業会社に入って、環境エネルギーをビジネスにするという事業をやりました。

 

開沼:なるほど。その時期はやはり迷ったり、いろいろと考えたりすることも多かったんでしょうね。

 

徳田:確かに、次に何をしたいかを探す時期で、迷いはかなりありましたね。

 

開沼:そして現在、その迷いはなくなりました?

 

徳田:今は、ほとんどなくなっています。その会社を一緒に立ち上げた人から、「あなたに向いている会社がある」と言われ、いまの投資会社に移ったんです。


ここの会社を勧められた理由というのが、普通の投資会社のように投資先にお金を出したり、アドバイスをしたりするだけではなく、「ハンズオン」といって現場の社員になって、元からいた人たちと一緒に再建していくという、お節介な方法を取るんです。デスクの上で数字を計算しているだけではなくて、現場に行って、一緒に働くというのは、確かに私に向いている仕事かなと思いました。

 

開沼:以前のように数字を前にして苦闘することもあるでしょうが、それ以上に人とのコミュニケーションがある仕事が自分に向いていると。

 

徳田:最初から役職が高い立場で乗り込むと、中の人にとっては敵が来たようなもので、当然反発します。それを、みんながどうやって同じ方向を向いて一緒に頑張るかということと、プロフェッショナルな部分で財務状況をどう立て直していくかということの両方が求められるんです。財務管理だけじゃなくて、現場と一緒にやっていくことは、確かに私に向いていて、やっていて楽しいと感じました。

 

開沼:なるほど。徳田さんにとって、けっこう満足感や充実感で満たされている状況ですか?

 

徳田:満たされています。会社全体で目的が達成できた時とか、利益が出た時、それを細分化していくと、戦略が正しかったり、現場の士気が高かったり、情報の伝達がうまくいったとかいろんな要素があるのです。数字だけでは表れない、躍動感や臨場感が体感出来ます。

 

私の人生のピークは60歳でいい

 

開沼:今やっている仕事はどれくらい続きそうなんですか?

 

徳田:cross fmはいま減収減益になっているので、それをV字回復させるところまでやるので、あと2年か3年ですね。

 

開沼:しかし、経営が軌道に乗ったら「お役御免」でもあるわけですよね。また次の事業再生をすべき会社に向かうことになるのでしょう。これからビジネスのマネージメントのプロとして、いろんなところを渡っていくかもしれないし、ビジネス以外でいま蓄えている力を生かしていくということも充分考えられるし、そのあたりはどのように考えていますか。

 

徳田:今は取りあえずスタートラインに立ったという感覚なので、cross fmをやり切ってから、見えたものに従って行動すると思います。でも、緒方さんの言葉にもあるのですが、女性のピークは男性と同じに見なくてもいいと。緒方さんは30代、40代はずっと研究をしていて、国連難民高等弁務官になったのは60歳を過ぎてから。私も、自分のピークは60歳とか70歳でいいのかなと思っています。女性は男性より長生きするし、出産、子育てして男性と同じペースで行くというのは男性に失礼ですよね。それだったら、焦らず自分のペースを守っていくのがいいと思います。ただ今回、副社長の仕事を頂いたことは幸運だし、プロとして妥協なくやっていくつもりです。

 

開沼:人生設計で、「60歳でピークを持っていく」というのはなかなか言えないことだし、そう聞いてみれば女性ならではの発想なのかもしれませんね。男性だと、20代の就職で一つのピークに持っていく感じだと思いますが。

 

徳田:両方あると思います。でも、男性も就活を乗り切れば社会人デビューだと思っても、社会に出たら、世の中で経験値があることがいかに大事かわかると思います。30代前半でオレはいけると思っても、40半ばくらいで本当に脂がのってきて、60代でピークになる人がいると思います。


私自身のピークは60歳でいいと思っています。でも、そう思うようになれたのは、ごく最近ですね。昔は、ギラギラして20代のうちに何か成し遂げてやると思っていました。でも、例えば、今働いている会社って、一人の力では動かせないんです。特に副社長だと、いかにまとめて、それぞれにリーダーをつくって責任を持たせるかということが大事なんです。


もう一つは、会社の中で一番私が若いんです。20代は私だけで、他の社員は30~50代。自分の親に近い年代の役員の男性たちに、指示を出したりとかするんです。だから、いかにみんなが20代の私の方を向いてくれるかを考えなくちゃいけない。さらに、もともと外から来た人間でよそ者扱いなので、一番上ほど一番働くというところを見せなくちゃ、と。これを30年後の59歳になった時に同じようにやったら今よりもどれほどやりやすいか、ということを考えたら、ピークは今じゃないなと思ったんです。

 

過去は過去。今は「次にどうするか」の方が大事

 

開沼:とは言え、あえてそういうかっこいい話を相対化しておきたいわけですが(笑)、今までの話だけだと、「成功者の言葉」に聞こえちゃうところがあると思います。つまり、徳田さんの経歴を振り返れば、文武両道で、東大法学部に入って、在学中に本を出版して世界一周旅行をして、外資系金融機関に入って、現在20代・女性ながらメディア経営をしている。このシナリオだけ見れば、絵に描いたような「成功者」なわけですよ。でも、そんな「表面上の成功」だけで徳田和嘉子を捉えられたら困るっていう思いはあるわけですよね。ある面では自分との戦いに専念していればいい受験と違って、社会には、自分の力だけでは解決できない問題ばかりが転がっているのかもしれない。「成功者」としての「強い言葉」と、そこには必ずしも現れない複雑な思いと。その二重性を聞いてみたいと思うんですが。

 

徳田:それは伏線でいろいろ聞いていたよね(笑)。周りから成功してきたように見られる以上に、つらい思いの方が多いです。自分が壊れるんじゃないかと思うくらいまで追い詰められたことも何度もあります。


仕事をしていておもしろいのは、ぱっと見で仕事ができるように見えない人が、実はすごくできる人だったりすることです。そういう人は、処世術をわきまえています。私の場合は逆に武器が丸見えで、女性とか若いとか、学歴とか過去の職歴とかに最初に注目されてしまう。実は、それはすごく不利なこともあると思います。


新しいところに来て、今ちょうど3か月経って、「20代」「女性」というプレミアも通用しなくなるので、これからが実力で評価されると思っています。

 

開沼:なるほど。それは、読者も「みんな同じなんだな」って安心するポイントかもしれません。学校に通う長い時間を終えて社会人になって5年。何が最も大きく変わりましたか?

 

徳田:学生時代にいろんなことをしたのは、いい肥やしにはなったと思うけど、今さらどうこう言うつもりはないですね。過去は過去であって、今は次にどうしていこうかということの方が大事かな。学生の時は、過去の経験や背伸びしてでも自分が何をやっているのかということで勝負をしようとしていましたが、現在は、今の自分本来の力で勝負することに集中するようになりました。だから、在学中に本を出したことも、世界一周旅行に行ったことも、外資系に勤めていたことも、今の仕事には関係ないと思っています。

 

高校生へ。高いレベルを目指せば、出会いも大きい


開沼:その通りですよね。目の前にある仕事や周りの人々に対して、過去がどうこうということをもって下駄を履いたり、言い訳をするわけにはいかない。その点では、この記事の読者の高校生からしたら、「学歴って将来役に立つのか」ということについても気になる話だと思うんですが、実感としてどうですか?

 

徳田:一つは、自分を鍛える訓練になるから、できるだけ高いレベルを目指した方がいいと思います。後々のベースの体力になります。それから、周りにいるおもしろい友達、例えば開沼君みたいな(笑)人と、出会う確率も大きくなります。

 

開沼:それが一番の財産ですよね。周りがすごい能力がある人、他にない発想力を持っている人だらけになると、「すごい」が「普通」に、「他にない」が「よくある」になってくる。バッティングセンターに行って速い球をずっと見せられていると、普段だったら相当な速さに感じるはずの球の動きが物凄く遅く見えることがあるのと同じで。自分の中の「すごい」のラインが下がってきて、すごいものがすごいと見えなくなってきますよね。

 

徳田:あとは、まわりといっしょに高いレベルを目指すうちに、自分のレベルも上がっていると思います。そして、就職の時にどうなのかみんな気になると思いますが、正直役に立つと思います。資料を作らせたり、プレゼンさせたりした時に、やっぱり速い球の環境で育ってきた人はカンがいいので、いいものを出してくるんです。もちろん、それと人格とは別ですが。

 

開沼:そうですね。もし仮に、10数年前の高校生の自分が今ここにいて、成功しているように見える10歳上の徳田さんに対して何かアドバイスを欲しがっていたら、何を言いますか?

 

徳田:そうですね、何も言わないと思います。そのまま悩んで、もがいた方がいいよって言いますね(笑)。


ただ、努力は必ず報われるということは言いたいかな。頑張っても結果が出ないこともあるけれど、頑張らないと結果は来ないので、頑張ることをやめてはいけない。頑張る気力がなくなったら、ちょっと休んでまた頑張ればいいと思います。

 

開沼:今進路が決まらない子たちは、どんな意識を持っていけばいいでしょうか。

 

徳田:何となく大学に行くというのはよくない。やりたいことが見つからないのであれば、それを見つけることを目的にして、勉強して大学に入ればいいと思います。広い世界が見たいのであれば、別に大学に行かなくても、バイトしてお金を貯めて世界一周すればいい。ただ、自戒を込めて言うと、人と違うことをするということは、その責任も自分に返って来るので、そこを乗り越える自信がなければ、自分の人生をクリエイトしていけないと思います。

 

開沼:ありきたりな質問ですが、高校生って「何で勉強しているのかな」って言う思いが常にあると思います。大人になったら、それなりに必要性が分かるわけですが

 

徳田:何で役に立たないと思うんでしょうね。役立つことばかり勉強したいんでしょうかね。勉強が何かに使えると思うのでなく、自分の訓練だと思った方がいいと思います。例えば数学を理解することは訓練だと思ってやる方がいい。それを自分の将来に結び付けて考えると、むしろ続かないと思います。

 

自分で考えて乗り越えていく責任を。そのためには自分を好きになって

 

開沼:自分の将来に結び付けながら今の努力の意味を考えるというのは重要ですよね。その点、もう少し絞って、女性の視点から、女子高生に対して、どういうことを意識して生活をしたら、あるいは大学に入ったらいいと思いますか。

 

徳田:まずは、社交術を学ぶのがいいと思います。女として生きていくとか、女のグループで生きていくこととか。女の子のグループが嫌だったら、男の子と仲良くやるやり方でもいいから、その中で、自分の立ち位置を意識した方がいい。あとは、変に群れないことですね。

 

左:インタビューアー 開沼博さん 右:徳田和嘉子さん
左:インタビューアー 開沼博さん 右:徳田和嘉子さん

 

開沼:女性であることを有利にできる場面もあれば不利になる場面も当然多い。ただ、自分の振る舞い方と意識次第で有利にできることもあるということでしょうかね。そういった点でも「女性だからダメだ」とか「学歴がこうだからダメだ」っていう固定観念に縛られるのはもったいないことですよね。就職もそうでしょうが、それ以上に受験は残酷で希望した大学に行けなくて、ずっと後悔する人もいると思います。例えば、何年も数学がどうしてもできない自分を責めちゃってという人もいるかもしれない。そこで、どう次につないでいくかと観点を持つにはどうすれいいんですかね。

 

徳田:冷静に振り替えると、実は私の目標もコロコロ変わっているんです。自分への理屈付けがうまいのかなあと思います。でも、決断に対する責任は持っています。


高校生くらいだったら、自分を好きになるのがいいと思います。高校生を教えていたり、大学の友達の話を聞くと、親との関係で悩んでいる子が多いですね。それを引きずっていくと、負のスパイラルが出来てしまって、どこかで甘えてしまうんです。それは本当に不幸なことだけど、乗り越えるには高校生ではもう親は当てにならない。その人自身で考えて乗り越えるしかない。そのためには、友達や予備校の先生、カウンセリングの人に助けてもらってもいいと思います。自分自身に愛情が向いてくることで、明るく前向きになることできます。

 

開沼:なるほど。一見極めてスマートに生きてきたようにも見えながら、実際は常に揺れ動き迷いながら生きてきた徳田さんの話を聞いた上で、そういう原理原則が提示されると腑に落ちるアドバイスだと思います。とても良いメッセージになると思いました。これからも大変なお仕事頑張ってください。今日はありがとうございました。

 

 

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