いちばん苦しかった時出会った大道芸が、世界への扉を開けた

大道芸人ナツ

「関西高校生フェスタ」で見事なジャグリング(ボールや輪などを巧みに操る曲芸)やダンスを披露した大道芸人ナツ。実は大道芸を始めてまだわずか2年で、そのきっかけは意外なことでした。プロの階段を駆け上がって世界を目指す彼に、話を聞きました。

本名:上坊卓海(じょうぼう・たくみ)くん。芸名を決める時、友達にいくつか呼びやすい名前の中から選んでもらったら、「お前ナツっぽい」と言われたので「ナツ」に。

--すばらしいパフォーマンスでしたね。小さい頃からやっていたのですか。

まだ本格的に始めて2年くらいです。去年高校を卒業して、1年間プロとして大道芸人をやっていました。この4月から大学でまた勉強します。

 

--2年でこんなにできるようになるってすごいですよね。始めたきっかけは何ですか。もともとすごく器用だったとか…。


いや、運動神経は平均以下だと思いますよ。実は、僕はけっこうな進学校の特進コースにいたのです。それが、ある時勉強も部活も挫折して、学校に行けなくなってしまいました。本当に鬱(うつ)でした。でも、その時僕の友達が支えてくれたんです。「お前のことを信じてるよ、待ってるよ」って。それが僕にとってものすごく幸せでした。そんな時、たまたま動画サイトで大道芸を見て、こんなふうに僕を支えてくれる人や目の前にいる人に笑顔になってもらいたい、こんな楽しいことが仕事にできたらいいな、と思ったのがきっかけです。

--最初はどんな練習をしたのでしょうか。


最初は何もできなかったので、まず百均でボールを買ってきてお手玉をやってみました。それからだんだんできるものを増やしていきました。全て独学です。親にいきなり「大道芸をやりたい」と言っても反対されることはわかっていたので、「僕はこんなことができるようになった。だから、やりたいんだ」ということをアピールしました。

僕の練習方法は、基礎練習をしてから難易度の高いものをするとか、できないことを何回でも繰り返してやるというのではなく、「こんなパフォーマンスがしたい」ということを考えてから必要な技を、1時間とか2時間とか時間を区切ってやってみる、というやり方です。いろんな技に挑戦してみますが、やってみてできなければ、きっぱり諦めて次のものを探す。ムダなことはしないで、できるものの完成度を高めていくようにしています。学校にも、できるだけ行きながら練習しました。


初めて人前で披露したのは、練習を始めてから4か月くらいの時。近所のデイサービスセンター(昼間に日帰りで利用できる、通所の老人介護サービス施設)のお年寄りの前で、風船細工やジャグリングをやらせてもらいました。見てくださった方が心の底から楽しんでおられるのを見て、本当に嬉しかったです。

 

--新しいパフォーマンスは、どうやって身に付けていくのですか。


とにかくいろんなパフォーマンスをいっぱい見て、使えそうなものを「盗んで」います。大道芸だけでなく、ダンスやコントなんかも見ます。依頼ごとにその場に合わせたストーリーや動きをゼロから作っています。今日やったダンスは、1か月くらい練習しました。

--ナツさんの得意な技は何ですか。
  

バランス芸ですね。不安定なローラーの上に立つバランス芸では、日本ではトップレベルの高さができます。 ただ、使う道具が複雑になると、どうしてもやることのバリエーションが限られてきてしまいます。そうなるとパフォーマンスがどうしても作業っぽくなってしまって、やっていても楽しくないんです。だから、バランス芸でなら食べていける自信はあるけど、一度捨てて原点に戻って、これからはお客さんの反応を見ながら喜んでもらいながら、というパフォーマンスがしたいですね。

 

昨年の高校生フェスタで披露したバランス芸
昨年の高校生フェスタで披露したバランス芸

--これからの目標を教えてください。


僕は、作業のように頻繁に、やり慣れているいつものショーをするのがあまり好きではないんです。より大きなステージで、よりたくさんの観客の方々に観ていただきたい。純粋に腕のみで評価していただける場所で勝負したいと思うので、海外でのパフォーマンスを目指したいと思っています。

 

ニューヨークのアポロシアターの、若手のパフォーマーの登竜門と言われる「アマチュアナイト」で10代のうちに年間チャンピオンになるのが目標です。だから、今年はそれに懸けてみようと思っています。そして、パフォーマーとしてワールドツアーをして、いろいろなところで僕のパフォーマンスを無償でみんなに見てもらい、たくさんの人とつながっていきたいです。


もう一つは、大学では高校教員の免許を取りたいと思っています。パフォーマーは、年をとるとどうしても制約が出てきます。自分が高校時代悩んだ経験があるからこそ、子ども達を教えたい、向き合いたいというのが夢です。これからは、ショーのスキルアップにも本腰を入れて頑張っていきたいと思っています。


僕がいちばん悩んでいたとき、友達が励ましてくれたのは本当に幸せでした。そして、もしあの時大道芸と出会わなかったら、高校をやめて旅をしていたかもしれません。でも、そうなったら学校には戻れなかったと思います。悩んでいる中で、これ以外ないというものに巡り会ったことで、今の僕があります。そんなことも、子ども達に伝えられたらと思っています。

ナツさんのパフォーマンスを見たい人はこちら

・動画のリンク
 https://youtu.be/jB-FaGcZAwk
・出演依頼・メッセージはこちらから
 performer-natsu@cpost.plala.or.jp

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