みやぎ総文2017 自然科学部門

中学時代から追いかけ続けた塩の不思議な結晶の生成のメカニズムに迫る

【化学】埼玉県立大宮高校 自然科学部 化学研究班

■部員数 14人(1年生3人・2年生6人・3年生5人)

■答えてくれた人 増田拓海くん(3年)

 

逆トレミー塩(仮称)における諸相

食塩の結晶に魅せられ、観察を続けた中で偶然見つけた不思議な形

塩化ナトリウムの結晶と言えば、立方体をしたものを想像する人が多いかもしれません。しかし、化学的、物理的な条件によって、平面状、球状に十二面体状まで様々に形を変えます。私が実験をしているとき、偶然中が空洞のピラミッド状(中空の四角錘)の塩が生成しました。この塩について調べると、同様の形をしたトレミー塩と呼ばれる食塩があることがわかりました。

 


しかし、今回確認したピラミッド状の食塩は、一般に知られているトレミー塩とは「温度」、「成長方向」、「生成する位置」などで様々な違いが確認できました。そのため、単にこれをトレミー塩と呼んでいいのか疑問に思い、頂点の向きが上下逆方向に成長することから、この研究では「逆トレミー塩」と仮に呼ぶこととして、この塩の

・生成過程

・生成条件

・生成原理

の3つの観点について調べました。

 


生成過程~他の晶出塩と関係がありそう?!

まず逆トレミー塩の生成過程です。スライドのような装置を使い、一定時間ごとに写真を撮影し動画にまとめました。

 

これは動画の様子を模式図に表したものです。

 

まず、棒から這い上がるように塩が成長しています。これはクリーピング現象と呼ばれるもので、この研究ではクリープ塩と呼ぶことにします。また、水面上に無数の塩が浮かび上がってきます。これはトレミー塩です。そして、その後棒の付近から広がるように塩が成長するのが確認されます。これが逆トレミー塩です。

 

逆トレミー塩は、同じく生成されたトレミー塩やクリープ塩と何らかの関係があるのではないかと考えられます。

 

生成条件~晶出には塵が必要だった!

次に逆トレミー塩の生成条件です。

 

・棒…棒の形状や材質、棒の傾き

・容器…容器の径

・温度…乾燥機内温度

・溶液…飽和食塩水の水位・体積

・塵…アルミホイルを軽く被せたかどうか

・振動…振動吸収剤があるかどうか

の6つの条件について調べました。このとき、逆トレミー塩が生成するというのは、棒から広がるように塩が生成されたことと定義しました。

 

結果です。注目していただきたいのは、スライドの黄色の部分、すなわち塵がないと逆トレミー塩が生成しなかった点です。このときは、クリープ塩もトレミー塩も析出しませんでした。

 

また、棒の径が小さい方が逆トレミー塩の形が整いやすかったり、高温なほど錐の傾斜が緩やかだったり、振動のない方が逆トレミー塩が生成するまでの時間が早かったりしました。

 

生成原理~なぜこの形になるのか

次に生成原理です。生成原理を調べるに当たって2つ疑問点を持ちました。

 

a.逆トレミー塩はすぐには成長を始めず一定時間経過してから成長を始めました。その成長を開始するための条件とは何か。

b.また、頂点を上向きにした四角錐という形状で成長するのはなぜか。

 

この2点について調べました。

 

まず、生成した逆トレミー塩を棒から外して観察しました。その際に傘の裏側に注目すると、大部分は滑らかな表面になっていますが、ちょうど棒の付近に凸状の結晶が確認されました。ここから、この凸状の結晶が起点になっているのではないかと考え、特に生成過程においてトレミー塩やクリープ塩が関わっているのではないかと考えたことから、次のような実験を行いました。

 

先ほどの生成過程で、クリーピング現象によってクリープ塩が発生してトレミー塩が浮かび上がったビーカーからクリープ塩のついた棒を取り出し、トレミー塩の浮かんでいない新しいビーカーに移し変えました。その環境で逆トレミー塩が生成するか調べました。

 

しかし、トレミー塩が析出するまで放置したところ逆トレミー塩は析出せず、クリープ塩が太くなっただけでした。ここから、クリープ塩だけでは逆トレミー塩は生成しないことがわかります。

 

次にトレミー塩自体から逆トレミー塩が生成するかどうか調べました。クリープ塩のついた棒をトレミー塩の浮かんでいるビーカーから取り出し、クリープ塩のついていない棒を代わりに入れました。

 

すると、すぐにクリーピング現象が始まってしまうため生成はしませんでした。しかし、クリープ塩が生成されたのちには逆トレミー塩の生成が確認されました。ここから、トレミー塩だけでは逆トレミー塩は析出しないことがわかります。

 

これらの結果から、逆トレミー塩の生成には、クリープ塩とトレミー塩の両方が関わっていると考えました。

 

また、クリープ塩のついた棒に水面を漂うトレミー塩が固定されたとき逆トレミー塩の生成が始まるのではと考えました。この仮定は生成条件の結果とも矛盾しません。

 

 

生成過程をモデル化してみる

次に、トレミー塩が上向きの中空の四角錐で成長する理由です。トレミー塩を起点にして成長すると仮定すると、トレミー塩は四角錐なので、それに沿って四角く成長することは想像がつきます。そして、それが中空の錐になるのは、トレミー塩が同じ形に成長することが関係しているのではないかと考えました。

 

トレミー塩が生成される際に、まず核として微細な塩が析出します。

 

その塩は、成長するにつれて重みで沈んでいきます。

 

しかし、水面方向には成長が顕著であるため水面部分に塩が析出していきます。

 

そしてまた塩は、成長するにつれて重みで沈んでいきます。

 

これが繰り返されることによって錐を形成していきます。

 

この現象を、ベクトルを用いて考えていきます。塩は成長するにつれて沈んでいき、核から見た水面は上昇していきます。また、水面方向に塩は析出していくため、上方向と横方向の成長のベクトルが合わさり、スライドの図の赤の矢印の方向に成長が進んでいき、最終的にこのような形になると言い換えることができると思います。

 

この考え方を逆トレミー塩に応用します。トレミー塩が起点となるという仮定に基づくと、水が蒸発するにつれて水面は低下していきます。また、水面方向には顕著に塩が成長するため、結果赤の矢印のような向きに塩は成長していくため、中空の四角錐になると考えました。

 

つまり、トレミー塩の四角形に沿って斜め外向き方向に塩が成長していき、それによって中空の上向きの四角錐になると考えられます。

 

まとめと今後の課題です。先ほど、トレミー塩が起点となって逆トレミー塩が成長すると述べましたが、カメラでははっきりとその様子を捉えられていません。そのため、高解像度のカメラを用いて直接付着するかどうか調べていきたいと思います。また、逆トレミー塩が析出しても重みで落下してしまうものも見られます。なので、落下しにくい条件を厳密に調べたいと考えました。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

中学生のときに、鉱石など結晶が立方体や正八面体などとても整ったシンプルな形をしているのが綺麗で感動し、中和によって様々な塩を作る研究をしていたのがきっかけでした。高校に入っても塩の研究を続けたところ、塩化ナトリウムの不思議な形の塩ができたことから、詳しく調べていきたいと考えました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2年の春からこの研究は始まりました。部活動は基本週3日でしたが、部活のない日にも日単位で成長する塩の様子を見に行きました。そのため、日によって大きくばらつきはありますが、1年半の間、1日あたり30分~2時間ほど行っていました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

まず、今回研究した塩「逆トレミー塩(仮称)」が既に発見されているのかを調べるのに苦労しました。最終的には、食塩の第一人者ともいえる先生と連絡を取り確認していただくことで解決ができました。また、この実験は長時間静置させることが必要なので、装置の設置に失敗すると長時間無駄にしてしまいます。それを避けるため細心の注意を払う必要があり、大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

主に2点です。まず、塩の成長していく過程をカメラで撮影した点です。このカメラをなかなか用意できず、最終的には携帯ゲーム機のカメラ機能を使用しました。

 

もう一つは、前述の通りこの塩は存在するかどうか、また、なくてもそれに関係する先行研究を見つけるため、積極的に食塩の関係者に連絡を取った点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

日本海水学会誌の村上正祥氏の論文は全般的に参考になりました。今回の研究での考察は彼の理論を基になされています。また、先行研究ではありませんが、食塩研究の第一人者の橋本壽夫氏(元海水総合研究所所長)にも助言を頂きました。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

これからもこの研究を続けていこうと考えています。大学の専門的な機材を使うことでさらに研究を深めていければと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

科学の楽しさを知ってもらうため、科学館のボランティアを行ったりしています。

 

■総文祭に参加して

 

まず自分の研究についてですが、やはり研究は人に伝わって初めて研究になると思いました。特に私は個人研究であったため、研究をしているときは、研究自体も個人的なものという感覚がありました。しかし、今回大勢の方々が発表を聞いてくださり、助言や面白いという声をかけていただき、大事なのは、研究成果自体ではなく、それをみんなで共有することだと強く思うようになりました。

 

次に様々な研究発表を聞いて、発表の数だけ研究の題材、方法、そして着眼点などに非常に広がりを感じると同時に、その中でも似ている研究があり、共に研究を高めていけるとても良い機会となったと感じました。私たち高校生が研究しているだけあって、題材自体は知っているものがほとんどでした。しかし、それを私のまったく思ってもいなかった観点から切り込んでいき、それが素晴らしい研究成果につながっているものが多く、とても感銘を受けました。それは自分と同じような研究についても同様でした。

 

この総文祭を通して、自分の研究の見方は変わったと思います。これをばねに、さらに良い研究ができたらと思います。

 

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