みやぎ総文2017 自然科学部門

ハエととことん付き合うことで解明した青色光の殺虫効果

【ポスター部門/生物】山梨県立韮崎高校 生物研究部

■部員数 9人(1年生3人・2年生3人・3年生3人)

■答えてくれた人 平田 匠くん(3年)

 

青色光によるハエの死亡原因は本当に酸化ストレスなのか

青色光には本当にハエの殺虫効果があるのか?

地元山梨の名産、サクランボの代表的な害虫の一つに、オウトウショウジヨウバエがあります。現在、薬による駆除が行われていますが、長時間の散布が必要であることと、食の安全への不安という2つの問題があります。それらの問題を解決するために、短波長光である青色光による殺虫効果に注目しました。

 

東北大学大学院農学研究科の堀雅敏先生らによって、短波長光のエネルギーによってハエの体内に活性酸素を発生させ、酸化ストレス状態になることによって死に至ると報告されています。しかし、酸化ストレスを受けた生体がどのような経路で死亡するのか、青色光を吸収する物質は何なのかなど、詳細なメカニズムは明らかにされていません。本研究ではそのメカニズムを探りました。

 

初めに、本当に青色光によってハエが死亡するのかを調べました。ハエのさなぎに青色LED光を照射し、さなぎの死亡率・羽化率を全暗と白色光の場合と比べると、青色光の場合は死亡率が他の約2倍であり、青色光に殺虫効果があることが確認できました。

 

青色光の受容体は何か?

ハエの青色光感受性物質として知られている物質にはクリプトクロムとロドプシンの2つがあります。これらの物質が、本当に青色光を受け取ることに関わっているのかを調べました。実験には、この2つの物質を持っている野生型と、それぞれの物質を持っていない変異型を使いました。

 

すると、どちらの物質の変異型についても全暗の場合と比べて死亡率が約2倍となり、野生型とほぼ同じ結果が得られました。このことから、ハエの青色光受容に関わるのはクリプトクロムとロドプシンではないことがわかりました。

 

青色光によるハエの死亡のメカニズムは?

これまでに、青色光によるハエの死亡要因は酸化ストレスであると報告されています。酸化ストレスとは、細胞に高いエネルギーにさらされて傷ついた時に、修復するために酸化物が集まってきますが、細胞に過剰に傷がつくと、集まってくる酸化物が多すぎて逆に細胞が傷ついてしまう状態を言います。

 

酸化ストレスの原因となるROS(Reactive Oxygen Species:活性酸素)を除去する酵素であるSOD(Super Oxide Dismutase)の活性を調べました。

 

白色光と全暗の場合と比較して、青色光の場合のみSOD活性が大きいことがわかりました。ここから、青色光の時に酸化ストレスが顕著であることがわかりました。

 

また、青色光を当てた場合、SOD活性は青色光照射後0~9時間に上昇し、9時間から徐々に減っています。

 

この結果を、ハエの死亡率と時間経過の関係と照らし合わせました。

 

2つの結果から、0~9時間後の間は酸化ストレスに対してSODが応答するように放出されるため死亡率が低いが、9時間後から酸化ストレスがSODに徐々に勝り始めるため死亡率が少し高くなり、18時間後には酸化ストレスがSODに完全に勝ることで死亡率が高くなっていることがわかりました。

 

アポトーシスは起こっているのか?

また、酸化ストレスによる死亡のメカニズムをさらに詳細に明らかにするために、アポトーシスが起こるかを調べました。アポトーシスとは、ROS(活性酸素)がCaspase3(蛋白質分解酵素)の活性を高めて細胞が破壊される、あらかじめプログラムされた細胞死のことです。

 

白色光と全暗の場合と比べて、青色光ではアポトーシスの誘発が2倍となっていました。この結果から、青色光によりアポトーシスが誘発されていることがわかりました。

 

また、アポトーシスが起こるのにかかる時間を計測しました。アポトーシスによって、クロマチン繊維が特異的に185ベースペアに切断されるという特徴を利用し、青色光照射からの時間を変えて実験を行いました。

 

すると、0~6時間後ではアポトーシスが起こらず、9時間後以降にアポトーシスが誘発されていることがわかりました。

 

今後の目標は実用化とさらなる詳細究明

これらの結果から、青色光照射は固体の酸化ストレスを上昇させ、その結果アポトーシスによる細胞死が促進され、高い殺虫効果を示すことが示されました。青色光は可視光線であるため、環境にもやさしい安全な害虫駆除が可能です。

 

今後は、果樹試験場と協力して実証実験を行いたいと思います。また、今回明らかにすることができなかった青色光受容性物質を明らかにしたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

初めは、韮崎高校生物研究部の伝統のハエ研究の継ぎ手がいないということで研究を始めました。しかし、研究をしていくうちに、きっと何かに応用できるはずだと考え、調べたところ、山梨県で生産が盛んなサクランボの害虫、オウトウショウジョウバエの駆除に青色光が使えるのではないかと知り、本格的に研究を行いました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1週間あたり18時間で18ヵ月(H28年1月から)

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

一番はハエの世話です。2週間に一度は、培地(餌 兼 飼育場)を変えないといけないので、一人で行うのは大変でした。さらに、蛹を使うのであらかじめ逆算して卵を産ませなければならず、ヒトがハエに合わせるという生活だったのも大変でした。おかげでGWは全部実験で終わりました...。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

実験の仕方を工夫しました。部活なので活動時間が定められており、ずっと実験というわけにはいかないので、時間をうまくずらすなどして、一つのデータにまとめました。

 

見てほしい所は、データの量です。苦労して実験をした甲斐があって、多くのデータを得ることが出来ました。データは多ければ多いほど、結果の精度があがるので、信頼できる数値だと考えています。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1) 「東北大学プレスリリース」2014年12月10日

 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2014/12/press20141209-02.html

2)「明るさ計算」

 http://tomari.org/main/java/hikari.html

3)「昆虫に対する短波長可視光の致死効果 」

 Lethal effects of short-wavelength visible light on insects(Nature)

4)「The Cryb Mutation Identifies Cryptochrome as a Circadian Photoreceptor in Drosophila.」Ralf Stanewsky  Jeffery C. Hall ほか (1998 Cell Vol. 95, 81-692 )

5)「Phototransduction mechanisms in Drosophila microvillar photoreceptors.」(ResarchGate)    Ronger C Hardie(2014)

 Phototransduction mechanisms in Drosophila microvillar photoreceptors.

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回、生物にとって酸化ストレスがいかに有害かということがわかったので、今後は酸化ストレスが原因で起こる様々な疾患(アルツハイマー病など)のメカニズム解明に向けて、分子生物学的に研究していきたいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

後輩にハエの飼育指導をしたり、学園祭の科学部としての出し物、近隣の学校の子どもたちとの科学交流会などの企画や補助などをしたりしています。

 

■総文祭に参加して

 

総文祭には1年生の時に先輩に連れてきてもらいました。以来、ずっと憧れだった舞台に立てて本当に嬉しかったです。周りの発表を聞き、やはり全国のレベルは高いと感じました。そんな中で、まさか文部科学大臣賞をとれるとは思ってもいなかったので、驚くと同時に、研究に関わっていただいたすべての人への感謝の気持ちがこみ上げてきました。最後の最後に、良い経験ができて本当に良かったです。

 

※韮崎高校の発表は、ポスター・パネル部門の最優秀賞・文部科学大臣賞を受賞しました。

 

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