哲学者 木田元先生<中央大学名誉教授>執筆「ふたたび廃墟に立って」(『今こそ、学問の話をしよう』)再録、ステキな装丁の本に

『対訳 技術の正体 The True Nature of Technology』

木田元 著 マイケル・エメリック 訳

株式会社 デコ


「第二次大戦敗戦のとき私は16歳、広島県の江田島にあった海軍兵学校の一年生だった。8月6日に広島への原爆投下を間近で目撃し、10日後に敗戦。父はシベリアに抑留され、家族は中国に残留していたので、私は一人で廃墟となった戦後の日本に旅立ち…(後略)。」 (本書「ふたたび廃墟に立って」より)

すべての価値観がくつがえされた戦後の廃墟から、たった一人で生きるため・学ぶための歩みを踏み出した少年は、絶望の底で読んだドストエフスキーに惹かれ、やがて日本を代表する哲学者になりました。中央大学名誉教授の木田元先生です。現代西洋哲学の主要な著作を、易しい言葉で読みやすく紹介するだけでなく、鋭い批評で現代社会に警鐘を鳴らし続ける姿勢は、「哲学の研究者」よりもまさに「哲学者」というのがふさわしい、稀有な存在です。

「私が問題にしたいのは、技術は人間が、あるいは人間の理性がつくり出したものだから、結局は人間が理性によってコントロールできるにちがいないという安易な、と言うよりも倨傲(きょごう)な考え方である。どうやら技術は理性などというものとは違った根源をもち、理性などよりももっと古い由来をもつものらしいのだから、理性などの手に負えるものではないと考えるべきなのである。」(本書「技術の正体」より)

これは今から約20年前、日本がまだ「明るい未来」に希望をつないでいた頃、木田先生が書かれた「技術の正体」の一節です。20年経っても色あせず、むしろ、震災後の現代の状況を言い当てていることに驚かされます。

 

東日本大震災で崩れ落ちた原子力発電所の映像に、誰もが大きなショックを受けました。

 

絶対安全で高性能と信じられていた科学技術の粋が、突然歯をむいた時、私たちは文字通りなすすべもなく立ち尽くすしかありませんでした。あれから間もなく3年。当時の不安感は薄れつつあるものの、首相の「(原発の)汚染水は完全にブロックされている」「コントロール下にある」という世界に向けての発言にも、どこか後ろめたさを感じてはいないでしょうか。

 

人間は技術を手に入れることでより豊かで快適な生活を実現し、技術の発達によって、現在よりも未来の方が幸せになれる…と、私達は信じてきました。その技術が、いつの間にか人間の手を振りほどいて暴走を始め、技術の方が人間を駆りたてる側にいます。原発だけではありません。インターネットも、遺伝子操作も、ほんの数十年前には夢でしかなかったことを次々と手に入れさせてくれました。しかし、同時にそれらが作り出す闇もまた際限がありません。 

「技術のこの正体を見きわめることが、哲学のこれからの重要な課題になるであろうが、しかしそれは、これまでのように単に技術をいかにコントロールすべきかとか、科学知の論理と技術の対比とか、技術と経済構造の関係を問うといったところにとどまっていてはなるまい。技術の人類史的な意味や、技術と芸術の同根性とその差異といったことまでも根源的に問い、畏れるものは恐れるだけの節度をわきまえたそうした技術論の展開が目指されなければならないのである。」(本書「技術の正体」より)

この「技術の正体」が、美しく格調高い英訳のついた対訳本として発行されました。平易でありながら研ぎ澄まされた言葉で、「技術とは何か」を問いかけます。これからの社会を担う全世界の高校生に、ぜひ読んでほしい、そして思いを共有してほしい一冊です。

 

※「ふたたび廃墟に立って」は、木田先生が「東日本大震災」復興と学び応援プロジェクト 「今こそ、学問の話をしよう」http://www.wakuwaku-catch.jp/ouen_pj/のためにお書きになったもので、『対訳 技術の正体』に再録されました。
 

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