自分らしく生きて、社会を変える

女子力アップセミナー

第1回

『ハリー・ポッター』シリーズ出版を実現した松岡ハリス佑子さんの「女子力」

松岡ハリス 佑子 (同時通訳者、翻訳家)


(3)考え続ければ、次のステップが開ける。進路も、学ぶことも。

---まだ海外経験のなかった大学1年時に、史上最年少で運輸省(当時)の通訳案内士免許を合格されたとうかがったのですが、英語の勉強法を教えて頂けませんか?

 

松岡:「この方法でやると絶対に」というのはないです。「成果はかけた時間に比例する」と言うのが、私の考え方です。私の場合は、人一倍勉強しました。それは英語に限らないんです。ただ、英語は他の学科と違って中学1年生からなので、始めるのが遅いですから、ほかの科目よりも力を入れて勉強をしないとものにならないでしょうね。かけた時間も、かけた情熱も、英語は非常に多かったですね。英語の勉強法に関してはそれしかないです。


大学について言えば、高校の英語の先生から、「あなた英語が出来るのだからICU(国際基督教大学)に行くといい」と言われて、「そうだ、私はICUに行くべきだ」と思ったのが運命を決めて、ICUに行きました。


実は、両親は私をお茶の水女子大学に入れたくてしょうがなかったんです。母がお茶の水を受けて失敗していたので、そのかたき討ちで(笑)。それで、お茶の水に受かったという印を母に渡して、「すみませんけど」と謝ってICUに行きました。


他にICUを選んだ理由としては、「女子高から女子大に行くのでは人生が偏るんじゃないか」という気持ちがあったのと、それからやっぱり英語が好きで、未知のものにまた挑戦してみたいと思ったからです。それでICUを選んだのですが、おかげでそれまでの精神構造をひっかきまわされましたよ。


松さんと橋本さんが小学校時代に読んだ「ハリー・ポッター」の本にサインをしていただきました
松さんと橋本さんが小学校時代に読んだ「ハリー・ポッター」の本にサインをしていただきました

---ICUではどうして日本史を選択されたのですか?

 

松岡: ICUには、リベラルアーツ、つまり教養学部しかないです。その中に、人文科学、自然科学、社会科学、言語学の4つの専攻があったんです。私は英語が好きだから、最初は言語学に入りました。


でも、英語だけっていうのは、ものを考える人間にとってはちょっと食い足りないところがあったんです。大学の時に出会った結婚相手がフランス哲学の専攻で、彼とのやりとりもあって、いろいろ考えることがあり、語学だけを勉強することに飽き足らなくなって、日本史に専攻を変えました。人文科学と社会科学の中間で、interdisciplinary(多分野にわたる、学際的な)というのですが、そこに歴史学があったんですね。日本史の中でも、近代日本政治思想史を選びました。


でも、大学時代に勉強したことがあとで役に立つかと言えば、そんなものでもないですよ。私は50歳になってアメリカの大学院に入り直して、国際政治学の修士号を取りました。でも、学問を究めるためというより、「アメリカ人ってどういう勉強をしているんだろう」と、その方法論を知りたかったんです。その時は学生として勉強しながら、客員教授として教えて、そして通訳もやりながら…大変でしたよ。で、肺炎になって、1カ月抗生物質を飲んで、咳をしながら教えて…。抗生物質に耐性ができて、効かなくなっちゃったことがあるんですよ。さすがに、それは当って砕けた口かな(笑)。

 

---日本とは、学校や、学生の勉強の仕方とか、違うのですか。

 

松岡:授業中でも、学生は黙っていないです。黙っているとバカだと思われますから、バカな発言でもしたほうがいいんです。それと、先生を権威だと思わず、たたき台と思っています。だから先生になれば、学生の質問を受けて立たなきゃいけないし、学生になれば先生にチャレンジしなきゃいけない。それは日本とちょっと違いますね。おとなしく黙って聞いて、ノートを取ってという感じではないです。

 

---学ぶ側と教える側、両方経験されて、何か感じたことや、ご自身の中で変わったことはありますか?

 

松岡:そこで政治学を体系的に学ぶことで、考えが「より」体系的に…前は全然体系的じゃなかったとは言いたくないので(笑)、より体系的になったと思います。国際政治学に対する知識も増えたと思います。知識が増えるって、とってもおもしろいことです。考える視点が多くなるってことですからね。


それから、先生として教えてみて、教えることは大変なことだと改めて思いました。特にアメリカの学生、アメリカで学んでいる日本人の学生を含めて、教えるのは、大変なことです。同時に学科長を任されて、通訳科の事務管理もしたし、学科長会議にも参加しました。そこで、大学、あるいは大学に限らず教育というのはビジネスだということを、身を以て知りました。むしろ、学生として単純に学ぶことのほうが楽しかったですね。

 

---高校を卒業する人たちは、これから人生の大きな変化を経験することになります。そういう若い学生たちに何かアドバイス、何かメッセージをいただけますか?

 

松岡: 高校を卒業すると、だいたい18歳ですよね。日本では、成人は20歳ですが、多くの国では、少なくともスイスでは、18歳で成人なんです。18歳になれば、一人で考え、一人でやっていける歳だと思われているわけです。選挙権ももちろんあります。しかし、スイスでもそうですけど、18歳では、まだ考えが熟さないのですよ。ですから18歳で全てを決めるのは無理だと思います。


だから大学に入って、考える時間をもらい、その間に勉学にいそしむとか、アルバイトにいそしむとか、4年間の猶予期間をもらうことはいいことだと思います。その意味では大学に入る為の勉強をすることはもちろんいいことです。


ただもっと大きな目で見ると、大学だけが進路の全てではないですし、日本の大学だけが進路の全てじゃないです。オプションが昔よりも増えている現代にあって、もしも可能なら、高校のうちに、本当に自分がやりたい道を行くには大学に行くのがいいのか、手に職をつけるという選択をするのがいいのか、いろんな選択肢の中から自分が一番いいと思える道に進めるように考えることですね。大学に行くにしても日本の大学に行くのがいいのか、外国の大学に行くのがいいのか。高校のうちに選択肢を十分に親とも先生とも相談し、常に考える事です。

それで、その中で大学を選ぶとすれば、先にも言ったように4年間、また短大なら2年間の猶予という貴重な時間をもらえることです。学費を出してもらえるんだったら、出してくれる人に感謝して行くことですね(笑)。

 

プロフィール

松岡ハリス 佑子さん
松岡ハリス 佑子さん

松岡ハリス 佑子(まつおかはりす ゆうこ)

同時通訳者、翻訳家

 

国際基督教大学卒業後、通訳者として活躍。1999年、まだ無名だったJ.K.ローリングの「ハリー・ポッターと賢者の石」と出会い、日本語に翻訳し出版。原作の世界をみごとに再現したシリーズは大ベストセラーとなり、「ハリー・ポッター」ブームをひき起した。全7巻の総部数は2400万部を超える。上智大学講師、モントレー国際大学院大学客員教授として、通訳教育の経験も深い。株式会社静山社会長。

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