From the Hub of Asia ~シンガポールから考えた高校・大学の学び

村田幸優くん シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)

第6回 「国内で感じる安心感」も「海外大に行け」も、疑って、考えて、そして見に行ってみる

前回に引き続き、今回は海外大学視察合宿を振り返っての座談会編です。

今回は、すでに世界で活躍しながら、シンガポールには普段訪れないという3人の大学生に、中高生に今伝えたいことを語ってもらいました。

 

●座談会参加者

高島崚輔くん:2015年春に東京大学入学、同年9月に米ハーバード大学入学。NPO法人グローバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ理事長(※1:後述参照)。ハーバード大学3年生。

 

張 惺くん:株式会社チームボックス取締役CCO (Chief Creative Officer)・ 講談社 第一事業戦略部 クリエイティブディレクター。慶應義塾大学環境情報学部2年生。

 

矢倉大夢くん:2015年筑波大学入学。株式会社チームボックスCTO・ 産業技術総合研究所研究員。筑波大学3年生。

 

柳津 聡くん:灘高等学校2年。生徒会、模擬国連など校内外で精力的に活動(当時の取材記事はこちらhttps://www.milive.jp/live/170601/07/)。 柳津君の感想は次回!

 

[学年は2017年12月現在] 

日本の抱える「中途半端に強かったが故のジレンマ」

一同:お疲れ様でした~

 

村田:では早速三日間の振り返り。まずシンガポールって国について、来てみてどうでした?

 

高島:一番印象に残ったのは、歴史博物館かな。海外をどのように受け入れたかがシンガポールにとっての運命の分かれ目やったんやなって思った。

 

村田:どういうこと?

 

高島:歴史博物館での展示では、シンガポールはイギリスによる占領を割とポジティブな歴史として捉えている印象があったんだよね。正直、植民地支配を受けていた中で、反発も大いにあっただろうけど、自由港政策による経済発展をはじめ、イギリス植民地時代の出来事が今に繋がっている、という意識があるのかもしれないね。

 

逆に日本は、自分たちでできることは基本的に自分たちでやろうという文化がある気がする。しかもある程度できてしまうからこその難しさ、誤解を恐れずに言うならば「中途半端に強いが故のジレンマ」ってあるんじゃないかなと思うし、もしかしたら今も続いてるんちゃうかなって。国の規模も、日本って相対的には大きく感じるけど、実際どうなの、と。

 

:確かに。中国は内需だけでも十分すぎるけど、日本の人口の1億人って、ビジネス対象としては中途半端な数字かもな。

 

矢倉:そういう話だと、Grab のビジネス展開の話を聞いて、視点の違いを感じたわ。シンガポールを拠点にビジネスしたら、東南アジアやインドも、当然市場として視野に入ってくるし、全部まとめると20億人の市場ってなるのは、めっちゃいいなあって思ってた。日本を拠点にすると、どうしても1億人の内需と、そこからグローバル展開という間に、大きな段差ができてしまう。それに対して、シンガポールでは、内需だけで成り立つサービスが限られているからこそ、複数の言語や文化圏に対応することへのハードルが低いし、初期の段階からそれを前提としたプロダクト設計やデザイナーの雇用までしてるね。

 

:シンガポールで人を雇うと、インドネシアにしろマレーシアにしろ、すぐに近くの国で働ける人が多いよね。東南アジアの首都みたいなイメージ。

 

村田:ビジネスに限らず進路の話でも、「国内か国外か」みたいな選択肢を持てていたのは、日本は平和やったんやなあ。

 

「海外行くべき!っていう話が、気づかないうちに選民思想になるのが怖い」

村田:教育の話に移ろか。3日目の話で、外資系金融やコンサルのキャリアパスを進んでこっちに住んでいらっしゃる方が口を揃えて、「子供は海外で教育を受けさせたい」と言っていたのは示唆的やった。結局、子どもの教育も大学院も会社も、日本より海外なん?みたいな。

 

:でも俺としては、海外行くべきだという話が、気づかないうちに選民思想になるのが怖い。「優秀な人は海外で育つ」みたいな。

 

高島:いわゆる『ノブレス・オブリージュ的』思想の話よね。人から多く投資を受けている者は、社会にどうそれを返していくかを考えることは必要じゃないかとは思う。ただ、「偏差値の高い学校にいるから、誰もが世界で活躍しなければならない」みたいな話は、僕自身違うと思ってる。例えば、離島の医療に関わるお医者さんがこれからもっと出てきてもいいと思うな。大事なのは、ひとりひとりが自分はどのような舞台で生きたいかを考えることなのでは。

 

:そうやねん。今、グローバルじゃないとイケてないみたいな雰囲気がめっちゃあるけど、その雰囲気を一番感じてしまうのは高校生だと思う。「海外こそは」という圧力に引いちゃって、逆に海外に行けなくなる子も絶対出てくる。自分は、高校時代からけっこう名前を知られていたから、人から「なんで海外行かんかったん?」っていつも聞かれるけど、ちゃんと残る理由があって選んだし、海外で学ばないとグローバルに活躍できないっていうのは、少し考えれば詭弁であることに気づくはず。

 

例えば、ハーバードの学生が全員世界レベルで活躍しているわけじゃないからね。海外に行くことによって、かえって潰れてしまう才能だってあるはずだってことに気づくべきだと思う。特に、僕の世界はグローバルビジネスとは違って、アイデアでしか評価されないから、というのもあるのかもしれないけど、どんな分野であってもとにかく海外へ!という煽り放題の人には気をつけないといかんね。

 

唯一の正解はないし、時間は巻き戻らないから、「もしあそこでああしていたら…」みたいな考えには意味がない。だから、本当に海外に行きたいと思ったなら、障害を解決して行けばいいし、海外は違うなと自分で思ったなら行かなければいい。そこにエラいもエラくないもない。そう思ったな。

 

矢倉:今回の合宿で、みんなが当たり前と思っているものを否定してくれる人、つまり「日本がいい」という人の話も聞きたかった。そういう意味では、「海外は正解じゃない」という張がいて良かったな。

 

高島:まさに。留フェロ(※1)をやっててもいつも感じるけど、海外進学は全ての人にとって絶対解ではない。日本の大学に行ったほうが良い人もいるし、そうでない人もいる。それは人それぞれ。だからこそ、海外進学をしている人が偉いという風潮には、僕自身も反対だな。覚悟がないのに、それだけを理由に海外進学しても、進学してからが大変なんじゃないかな。

 

海外の大学は、生半可な気持ちではやっていけないし。ただ、少なくとも海外の大学進学を含めた「日本の外」を選択肢に入れた状態で自分の将来を考えてほしい。海外を「選ぶ」ことは唯一正しい解じゃないけど、海外を「知る」ことは、唯一正しい解って言ってもいいんじゃないかなあ。

 

 

※1 留フェロ:高島くんが理事長を務めているNPO法人「グローバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ」。海外進学という切り口を通して、文部科学省や全国の教育委員会と協働し、世界に通じる学びを提供している。

http://ryu-fellow.org/

 

次の一歩 –結びにかえて–

村田:結局これからどうする?こういう合宿、やっていけそうやと思う?

 

:うちの後輩に限らず、中高生全体に対して、多分ここにいる全員が、「最終的にどんな判断を本人が下すにしても、判断には十分に俯瞰した情報が必要不可欠。だから、何かしらの形で早いうちに海外を見たほうがいいよね」ってところまでは、意見が一致してると思う。

 

一同:うん。

 

:たださっきも話したけど、俺が問題提起したいのは、少数しか来られない合宿でいいのか。俺は自己責任主義じゃないので、どうすればフラットにみんなの実力や視点を上げていけるかを考えたい。例えばもし、今母校で海外合宿することになっても、結局アンテナの高さで来る子が決まる選抜合宿になるし、きっと周りが彼らを持ち上げるでしょ?

 

矢倉:確かに模擬国連に行くような子は参加しそうやけど、パソコン部の人は行かなさそう…。

 

村田:どうやって中高生全体に機会保障するかは難しいけど、全体を置き去りにした議論が危険なのも、確かにわかる。だから留フェロが、全国でキャンプとキャラバン(※2)を両方実施してるのがいい例かも。

 

高島:あとは、タイミングの問題も大事やと思う。例えば高2とかで海外見ても、実際は「あ、そういう道もあるんや。でも日本の入試勉強で余裕ないから、ちょっと無理かな」ってなっちゃう人が多いと思う。何とかして、中学生とか、ある程度若い層にアプローチしたいな…。

 

矢倉:それは親御さんの理解を得ることがかなり大事そう (笑)。生徒には、学校からどこかで時間もらって課外授業みたいなことしつつ、親御さんにも届く配布物にうまく記事載せるとか? 

 

高島:実際どれもできそうやな。学校に聞いてみて、春からやってみよか。

 

村田:じゃあ、次の春に学校にまた集まるかもということで、今回はお開きにしましょか (笑) 

 

一同:お疲れ様でした!

 

※2キャンプとキャラバン:留学フェローシップが主催している2つのイベント。キャンプは海外大学志望者を対象に、「自分」について書くパーソナルエッセイをツールとし、自己分析と自己表現に取り組む4泊5日のサマーキャンプ。キャラバンは、全国の教育委員会や中学高校と連携し、海外大学生とともに主体的な自分の進路選択をともに考えるワークショップ型のセミナー。全国の中高生に海外進学を選択肢の1つとしてもらい、主体的に進路選択をしてもらうことを目標としている。

 

[メッセージ]

高島:シンガポールの感想としては、高度に課題解決をし続けている文化だと感じた。空港も、マリーナ地区も前はなかったし、10年前と全然違う。最近中国がどんどん勢いを増しているのは知っていたけど、シンガポールは見落としていたなあと。国全体がシンクタンクっぽくて、ここでいろんな実験ができるのは楽しいと思った (笑)。

 

ただ、シンガポール特有の活気があるかはよくわからない。ボストンでもスタートアップは多いし、若い人は多いし、PDCAサイクルも早い。高校生に伝えたいこととしては、海外が全てじゃないということ。どちらかというと自分にとって不利な環境に行くことの方が大事!

 

:月並みだけど、言語の壁の大きさを感じた。英語中国語を使いこなせるという点で、シンガポール人が一番世界で会話できる人数が多い。
今本気で一つ(日本語以外の)言語をちゃんと喋れるようにならんと、ほんまにやばい! シンガポール人全員に負けてるで!

 

矢倉:日本って、独自の文化が育っていて、産業が回せるだけの内需があるので、ぼんやりした悲観論を聞くことはあっても、心の底では”ある程度将来もどうにかなる”でしょという気持ちに支えられている気がする。でも、その安心感に甘んじていると、自分の目指せる範囲に無意識的に枠を作ってしまうと思うし、その枠の外にどう出ればいいかというイメージも湧きにくいと思う。だからこそ、自分を取り巻く根拠のない安心感に「本当かな?」という気持ちを持って、海外を見てみるのは中高生にとって重要だと感じた。

 

連載つづく・・・

村田幸優(ゆきひろ)くん:東京大学教養学部からの交換留学で、シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)に留学中。高校2年生の時、模擬国連大会の日本代表として国際大会に出場。中高時代はワンダーフォーゲル部に所属して各地の山を渡り歩く。料理の腕前は誰もが認めるところ。

 

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