自分らしく生きて、社会を変える

10年後のじぶん・しゃかい~ポスト3・11の『若者たちの神々』

第1回

安田祐輔 NPO法人キズキ理事長

「つまづいても必ずやり直すことができる」と信じられる場所を作る  ~不登校・高校中退の若者のための大学受験塾を主催


(5) これから拓いていきたい未来は・・・

左:インタビュアー 開沼博氏 右:安田祐輔氏(NPO法人キズキ理事長)
左:インタビュアー 開沼博氏 右:安田祐輔氏(NPO法人キズキ理事長)

お金のない子どもたちを支援したい。いずれは政策にもアプローチしたい

 

開沼:今はNPOという形で運営されていますが、安田さんの中では、営利法人ではないというのはどのような位置づけなんでしょうか。

 

安田:三つ理由があります。一つ目にお金のない子たちの支援をしたいと思っているからです。これは、自分の中で絶対にやっていきたいことでした。今は受益者負担、つまり生徒の保護者から授業料を頂いているのですが、だんだん寄付をつけたりしてお金のない方の支援もできるようになってきました。そういうことをしようとすると、どうしても営利法人では厳しいところがあったので。


そしてもう一つが、行政と仕事がしたいということです。一人一人を支援することも大事ですし、それも続けていきますが、多くの人にアプローチする方が社会が変わります。そろそろ基盤が出来てきたので、多くの困っている人に私たちのサービスを届けるような仕事がしたいと思っています。これが二つ目ですね。


そして三つ目は、審議会の委員等になって、いずれは政策にアプローチしたいと思っています。政策を変えるなら、政治家になるか学者になるか、NPO経営者になるかだと思っていました。学者だと教授になるまでに時間がかかるし、官僚とかは組織の中でやっていくのが難しいだろうなと思っていたので、若くして社会を変えられるのはNPO経営者なのかなと思いました。これは二番目に近いかもしれません。

 

開沼:なるほどー、面白いですね。僕が高校生の頃なんて、社会で大きなことをしたければ政治家になる、社長になるみたいなイメージしかなかったです。NPOなんて言われてもボランティアとの区別もよくつかなかった。今の高校生はその点どうなっているのかわかりません。もしかしたらNPOってなんなのか、もう少し具体的なイメージがついているかもしれません。でも、それがともすれば、政治家や社長、学者と同じか、それ以上に社会的に大きな影響を与えるポジションになりつつあることを知っている人は、大人でも少ないかもしれませんね。

 

 

パレスチナには今でも関わりたい。今ならもっと支援できる

 

開沼:そういった意味では、今、事業を始めた中で、イスラエル、パレスチナの話、当時持っていた問題意識は、その後どうなっているんですか?もしかしたらその人が生きる上での「尊厳」を大切にするという点で、両者はつながっているのかもしれませんが。

 

安田:僕は、「尊厳」の問題って日本だけじゃなく世界に共通していると思っています。イスラエルに関しては、たまたま2005年に日本に招いたイスラエル人が、イスラエル国内でNPOを作って、ITを使った就労支援をやっていました。この前、久々に現地で会ったら、職員も100人以上、事業所も国内に10個以上ある大きなNPOに成長していました。この前会った時、「一緒にパレスチナでITを使った就労支援をやろう」って言われたんです。イスラエルは、移民や貧困世帯が多いので、ITを使えないために、仕事に就けないという問題があるんです。パレスチナでもITを使った就労訓練は需要があるはずだから、一緒にやろうと言われているんです。


パレスチナで働いてくれる人さえいれば、僕は今からでもやりたいです。現在まで事業をする中で、自分なりに問題を見抜く目というのが養われたと思うんですよ。何が問題なのかということをしっかりアンケートを取って分析するとか、活動をすることによって社会がどう変わるかを論理的に組み立てるとか。直観でこうなんじゃないかと思ったことをしっかりとデータを取るとか。当時は、日本に来たあの12人しか変えられなくてフラストレーションがあったのを、今だったら違う形で変えていけると思うので、ぜひチャレンジしたいと思っています。

   

開沼:その問題を見抜く目というのは、何によって鍛えられたと思いますか?

 

安田:この事業をやっていることが大きいと思います。問われるんですよ、他のNPOや行政からも支援して下さる方からも。そのために自分でロジックを作って、データを分析して、ということをずっとやってきたことは大きかったと思います。それって会社辞めた時に思っていた、「正しいことをしたい」という思いを突き詰めた形だとも思っています。

 

開沼:そんな思いが具体的な形になりつつある現状の中で、安田さんは、将来についてどんな展望を持っているのでしょうか。例えば、もっと国際的な視野も含めながら、大きなものを描いているのか、あるいは、目の前にあることを取りあえずやっていく中で見つけていくのか、というところを

聞かせてください。

 

安田: 国際的な視野を含めながら、事業を行っていきたいと考えています。学生時代は海外をフラフラしていたわけで、日本に定住するようになってから、海外と関わりがないことにはフラストレーションを感じています。日本にはある精神的ケアとかが途上国ではまだないので、世界でやれたらなというのは思っています。ただ、うちに通ってくる子たちにも同じことを言ってますけど、「俺も『やりたいことがない』とか『将来どうしていいか分からない』(笑)」。10年前と今考えていることとは全然違うわけで、3年前だって違います。だから野望はありつつも、余り思いつめないようにしています。僕の場合、たまたま紛争とかに興味があって、発展途上国を支援したいと思っていましたけど、形はかなり変わってきましたからね。

 

 

「やりたくないこと」の中に、進路を探るヒントもある

 

開沼:先は見えないけど走りだしてみる。そうすると必ず見えてくるものがある。僕自身もそういう感覚は強いですね。でも、そうは言っても、焦ってしまう部分ってあると思うんですよ。高校生の自分を振り返ってみると。全てが差し迫っているように見える。「やばいもう、20歳になっちまうよ」みたいな今からみたらどうでもいいレベルの焦りがあって、結果的に全然おいしくない選択をしそうになったり。特に、将来の職業選択については、安田さんも僕もそうであるように、ある程度の方向性を持っておいたほうがいいのかもしれない。その方向性を探している子にはどう声を掛けてあげればいいのか、何か考えはありますか?

   

安田:確かに、方向性は決めていかなきゃいけないですよね。尊敬するNPO経営者の方から教わった言葉で、「Riceワーク、Likeワーク、Lifeワーク」っていうのがあるんです。Riceワークは飯食うために、家族を養うためにやる。多くはこれですよね。そしてLikeワークは自分の好きなことをやる。そして、Lifeワークは、人生をかけて成し遂げたいミッションをやる。それで、夢を追いかけろとか言われると、みんなLikeワークとか、Lifeワークになってしまう。

 

でも、実際世の中ってそんな人は少ないと思うんです。1年前からここへ通っている中学生の子が、「やりたいことがないから高校に行く気がおきない」って言うんです。話していたら、ヤンキー系が苦手って話になって。「それだったらヤンキーがいない学校に合格するのを目標にしたら」って言うと、「え?そんなんでいいんですか?」って返してくる。「じゃあ、そういう学校に行くためにはどうしたらいいだろう、偏差値50はないと厳しいよね、じゃあ50目指そう」って言ったら、学校に行けるようになったんですよ。

 

人間って、「やりたいこと」にとらわれていると身動きがとれない人もいるけど、そうじゃなくてもいいと思うんです。僕が今の仕事に就くようになった動機だって、さっきも話しましたがスーツを着たくないとか、そういうレベルですもん。そういう話をすると、みんなホッとするんです。

   

開沼:なるほど。「やりたいこと」は見つからなくても、「やりたくないこと」は多分あるはずだと。

 

安田:そうですね。長時間働きたくないから、とかオレは体力ないし根性ないからトラックの運ちゃんは無理だな、っていうのが一番デカかったりするんですよ。

 

開沼:たぶん、高校生がやりたいことがなくて、そのことでものすごく焦る理由って、「こうなっちゃだめだろ的な像」が見えているからなんですよね。

 

安田:でもそれでいいんですよね。無理に「こうならなきゃ」っていうイメージがなくても。逆にやりたくないことってたくさんあると思うんです。その中から進路を探してもいいと思うんです。


第1回 安田祐輔 NPO法人キズキ理事長

「つまづいても必ずやり直すことができる」と信じられる場所を作る  

~不登校・高校中退の若者のための大学受験塾を主催

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