身の回りの「国際問題」を見つけ解決のための提案を!

SGH甲子園(全国スーパーグローバルハイスクール課題研究発表会)

自分たちが学んでいること・できることを使って、今現在社会で起きている問題を解決することはできないだろうか…。そんなふうに思ったことはありませんか。自分たちの身の回りの小さな「国際問題」を発見し、解決のためのPlan→Check→Do→Actionに取り組んだ高校生の取り組みを、SGH甲子園(※)の発表からご紹介します。

※全国スーパーグローバルハイスクール課題研究発表会 2017年3月19日@関西学院大学

 

 

外国人の保護者に日本の小学校の行事を紹介。日本での子育ての疑問や悩みに答える!

愛媛県立松山東高校 芝田想さん、隅田莉央さん(1年)

愛媛では、日本人と外国人の相互理解が十分ではありません。そこで、外国人の保護者とその子どもを対象に、松山の小学校の行事の紹介と、疑問に答えるワークショップを行いました。ワークショップを通して、外国人の保護者は、小学校に対する疑問や悩みを抱いていますが、相談する機会があまりないことがわかりました。また、相手が知りたいことは何か、自分たちの伝えたいことは伝わったかなど、相互理解に関する考察も行いました。

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■取り組み内容

 

私たちは、「グローバル化」は地方の国際化の集合型であると考え、地元である愛媛の国際化に取り組みました。私たちの考える理想のグローバル化社会とは、互いの文化を理解しあえる社会・個性を認め合える社会です。愛媛をこのような社会にするためにどんなことができるか考えた結果、私たちは、親の仕事など大人の都合で来日した子どもたちのケアに着目し、本格的な集団での学習が始まる小学校での生活について、外国人の子どもとその家族の不安やストレスを解消しようと考えました。

 

そこで、外国人家族のニーズに応える活動にするため、ワークショップを開きました。主に、中国とインドネシアから来日した愛媛県在住の外国人と、外国人のサポートに携わる日本人を含む、大人15名、子ども12名に参加していただき、日本の学校行事について、プレゼンをしたり実際に体験してもらったりして紹介をしました。そしてフリートークの時間を設け、国ごとのブースに分かれて私たちも加わりディスカッションを行い、不安や疑問などを共有しました。私たちがワークショップを開く前に考えていたことと、フリートークで出てきた各ブースの声から私たちの視野の広がりや改善点を分析しました。

 

このワークショップを通じて、3つの国際化のキーワードを得ました。それらは具体的には、

(1)「言語」だけでなく、「文化」に配慮する

(2)身近な当たり前の事こそ先にきちんと伝える

(3)「わかる」ではなく「できる」ようになる説明の工夫

です。

 

これらのキーワードをもとに、愛媛県在住の外国人のサポートができるパンフレットを作成することにしました。基本的な学校生活の「給食・掃除」「1日の流れ」「登下校」「休み時間」「授業」に加えて、理解が不十分であると感じた「宿泊研修」「運動会」、そして日常生活の中での細かな「外国との違い」の8つの項目に分け、私たちが活動から学んだ「相手を思った伝え方」に気をつけながら、日本語版と英語版のパンフレットを作成しました。

 

パンフレットを、松山市内で最も外国人の受け入れの多い小学校(21人)を含む全8校に配布しました。パンフレットの作成にあたっては、ワークショップの参加者だけでなく、外国人支援に関わる人や、小学校の先生からもコメントを頂きました。そのコメントを分析し、より外国人家族のニーズにあった内容にしました。

 

■取り組みを始めた理由や経緯を教えてください。

 

近年、愛媛県在住の外国人は急激に増加していて、様々なところで外国人のための政策が行われていることは知っていましたが、大人の仕事の都合でついてきた子どもたちのケアまで目が行き届いていないのではと考えました。授業としては1週間に2時間、研究のまとめは各自が家庭で作成し、6か月かかりました。

 

■苦労した点や、工夫した点はありますか。

 

自分たちにとっては当たり前の事を、外国人の立場に立って伝え方を考えることが難しかったです。工夫したのは、各国の人たちから出た質問や不安に対してきめ細かく分析したことや、アウトプットの活動のはじめとして、友達・親同士で聞きやすくコミュニケーションを増やすための、パンフレット作成をしたことです。

 

 

発展途上国の女子生徒の出席率の向上は、まずキレイなトイレから!

神戸市立葺合高校 小瀧志織さん、高城晴夏さん(2年)

世界には学校にすら安全なトイレがない地域があります。私たちが訪れたフィリピンのパヤタス地区もそのような地域の一つで、近くには長年投棄されたゴミが山のようになっている「スモーキーマウンテン」があるスラム街です。学校のトイレの数は生徒数に対し極端に少なく、衛生面・安全性共に確保されていません。このようなトイレの現状も、女子生徒の登校を妨げる要因の一つです。今回は、女子生徒の出席率向上を目標に現地の方へのインタビュー結果を通して、学校のトイレの環境を改善する方法を提案します。

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■提案内容

 

世界には、多くの子どもたちが学校に通うことができないでいます。私たちはそのような子どもたちの状況を改善するための研究をしたいと強く思い、今回はフィリピンのパヤタス地区に注目しました。パヤタス地区で子どもたちが学校に通うことができない理由として挙げられるのが、貧困と教育への意識の低さです。私たちは、この状況の改善のために自分たちにできることは何かないかを考え、学校の衛生環境に目を向けました。現在女の子が学校に行けない原因の一つでもある、学校のトイレの劣悪な環境を変えることを提案しました。これを第一ステップとして、子どもたちの出席率を向上させることを目指すことにしました。

 

現地の方は、学校に行く大切さをあまり感じていなかったり、トイレなど衛生状況が学校へ行けない原因の一つであるという認識が低かったりするので、NPOや現地で教育活動などをしているソルトパヤタスにお願いをして、まずは現地の人たちの認識を変えるための教育が必要だと思いました。

 

■この提案に至った理由や経緯を教えてください。

 

フィリピンへフィールドワークで訪れた際、パヤタス地区の子どもたちと話す機会がありました。その時、一人の女の子が「学校に行って夢をかなえたくても、多分無理だ」と言った言葉に強い衝撃を受けました。学校に通えない子どもたち、特に女の子たちの状況を改善するために、何か自分たちでできることをしたい、と思ったことからです。テーマを決めてから、1週間あたり6時間、1年かけて研究しました。

 

■苦労した点、工夫した点を教えてください。

 

日本のことではなかったので、調べたりするのに苦労しましたが、実際に行ってわかったことなどを織り混ぜ、SGH甲子園での発表では、見る人にもパヤタスのことを知ってもらえるように工夫しました。(小瀧さん)

 

「トイレをきれいにする」と「女の子の出席率を上げる」という、一見関係のないことを結びつけたことに注目してください。(高城さん)

 

 

日本を訪れるムスリム観光客に、安心して「食べること」を楽しんでもらうために

東京学芸大学附属国際中等教育学校 管林輝眞くん、菊田悠世くん(3年)

私たちは、「ムスリム(イスラム教徒)観光客が日本で過ごしやすい環境を作るには」という研究テーマで研究を進めてきました。2020年の東京オリンピックを控え、近年では東南アジアからの訪日観光客が著しく増加しています。多くの東南アジアからの訪日観光客はイスラム教徒です。しかし、日本はイスラム教になじみが深くないために、礼拝所の設置やハラール(※)認証の取得などが進んでおらず、ムスリム観光客を受け入れる体制が整っていません。そこで、ムスリム観光客を受け入れるためにはどのような課題があり、どのような対策を講じればいいか研究で明らかにしました。

 

※ハラール:「イスラム法で認められたこと(もの)」を意味するアラビア語。おもにイスラム法上で許される食べ物をさす

 

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■提案内容

 

課題として1つ目に日本人のイスラム教への理解度の低さが挙げられます。日本にはムスリムの方々が約10万人程度しかいないため、とてもなじみの薄い宗教です。そのために以下の2つ目と3つ目の課題を解決して、ハラール対応した店や商品を増やせば、認知度や理解度は上がるでしょう。

 

2つ目に日本食のハラール認証の数の少なさや値段の高さが挙げられます。日本最大のムスリム向けグルメ検索サービス「ハラールグルメジャパン」や自治体が作成している「ムスリムおもてなしマップ」に掲載されている日本食店の割合はとても少ないです。大多数はトルコ料理店、インド料理店など外国の料理店が占めています。

 

また、ハラール対応した日本食の値段の高さが挙げられます。その原因として、ハラール対応の設備を整えるための費用やハラール対応の食材費、ハラール認証にかかる費用などが挙げられます。料理をよりリーズナブルな値段で提供することが、ムスリム観光客のおもてなしのカギと言えるでしょう。

 

3つ目に、認証費用の高さや基準の相違点が挙げられます。ハラール認証は大まかに3つの種類があります。1つ目は、外国の認証機関による認証。2つ目は、日本の認証機関による認証。3つ目は、ムスリムフレンドリーです。1つ目と2つ目の問題点として主に、認証基準が厳格で取得が非常に難しいことや費用が高いので、日本料理店がハラール認証取得を躊躇したり、高い値段で日本食を提供しなければならなくなっています。そのため、最適なハラール対応は「ムスリムフレンドリー」であると結論付けました。ムスリムフレンドリーの料理店は、ハラール認証を取得はしてないが、豚肉やアルコールを使わない料理を提供したり、ムスリムではない人たちとは別の食器で料理を提供したりしています。つまり、ハラール認証の基準が緩和されているとみることができます。

 

本来ハラールはムスリムにとって唯一無二のもので、簡略化されるべきものではないという意見もあり、実際、ハラール認証があればムスリム観光客はそれらの飲食店を利用しています。しかし、ムスリム観光客は日本がイスラム国家でないことを知っているため、ムスリムフレンドリーを十分に評価しているのが現状です。つまり、日本の自治体はハラール認証推進よりも、ムスリムフレンドリー推進のほうに力を入れるべきであると思います。

 

■この提案に至った理由や経緯を教えてください。

 

このテーマを選んだ動機は、去年のニュースで日本のレストランがイスラム教徒の人に誤って豚肉由来の材料が入った食品を提供してしまったと報道されていたからです。残念なことに、日本ではイスラム教徒を受け入れる体制が整っていないことが浮き彫りになる形となってしまいました。そのため、彼らに安心して過ごせる環境をどのように整えればよいかを研究することにしました。

 

■提案をまとめるに際して、どんなことに苦労しましたか。

 

私自身イスラム教に対して無知であったため、何冊もの本を読みイスラム教の知識を学びました。また、日本には、ムスリムフレンドリーに対する資料がほとんどないため、ムスリムの方が書いた本を探したり、ハラールエキスポやモスクに行って、実際のムスリムに話を聞く必要がありました。

 

 

京都vs.隠岐 都市と地方の街作りを比較することから見えてくるもの~まちづくり甲子園に参加して

江ノ畑龍一くん、田中優羽くん、嶌本千紘さん、村瀬里帆さん、吉田詩子さん(2年)

隠岐の島は島根県の日本海沖合に位置しています。私たちが今回研究した島前地域は3つの町から成り、人口は約5900人。過疎や少子高齢化など、日本の超課題先進地域(他の地域がまだ直面していないレベルの問題をいくつも持っている地域)です。私たちが住む京都を「都市」、島前地域を「地方」として、都市と地方のまちづくりの関連性を調べました。

 

■活動内容

 

7月中旬に島根県立隠岐島前高校が主催する「まちづくり甲子園」への参加がきっかけです。まちづくり甲子園は、隠岐島前高校と全国の高校生が、少子高齢化や過疎化、外国人観光客が来ても英語で対応できない、などの隠岐島の島前地域の様々な問題について一緒に考え、課題解決に挑戦するものです。全国から30人の生徒が集まって開催されました。

 

参加した高校生は、漁業、図書、教育、観光、福祉、環境の6つの班に分かれ、各班に1つずつ島前の課題に対するミッションが与えられました。私たちは、地域の人の話を聞いたり、現場を見に行ったり、班のメンバーで話し合ったりして解決策を考えました。

 

島前と京都は人口や面積、知名度は大きく違いますが、少子高齢化という問題は共通しています。

 

そして、6つの班に与えられたミッションには、いずれも「人がいない・人が少ない」という問題があります。これを解決するために、地域を活性化して多くの人に隠岐の島の良さをアピールし、人が増えることによっていろいろな問題の解決につながるのではないかと考えました。

 

一方、京都は観光客が集中して多すぎる、ということによる問題があります。地方の魅力がアピールされて観光客が分散することは、都市の問題の解決にもつながると思いました。そのアピールの方法は、都市から地方に伝えて行くべきだと思います。

 

また、話し合いの中で、「地方の人は他の地域から来た人にもあたたかいが、京都の人はプライドが高くて排他的だ」「地方の人は自分の地域の魅力を語れるけれど、京都の人は京都について知らない」という意見も出てきて、都市の持つ課題にも気づかされました。

 

地域社会の問題は、「自分のところ」と「よそ」という線引きで考えられてしまいがちですが、この活動を通して、地方から都市、都市から地方の双方がともに学ぶことがある、ということがわかりました。そして、超課題先端地域である隠岐島前の課題に対する挑戦が、世界の問題解決につながるかもしれないと感じました。

 

■今回の取り組みではどんなことに苦労しましたか。

 

比較する上で、私たちが住む京都は「内」も「外」も両方わかりますが、島前については、「外」から見たことはわかっても、「内」=現地の人たちが実際どうなのかを導くのに苦労しました。信憑性をはかるのもたいへんでした。

 

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