高校部活での津波研究から東北大学工学部へ

新家杏奈さん 東北大学工学部建築・社会環境工学科/福島県立磐城高校OG
~高校での部活動を振り返る

天文地質部で津波の研究 ~ハザードマップの作製

大学の実習の野外調査で
大学の実習の野外調査で

私が高校に入学したのは2011年の4月。東日本大震災から1ヵ月後でした。いわき市は海に面しており、津波による被害を受けました。私の家は被災を免れたものの、自分の知っている地域が津波によって変わり果ててしまったことにショックを受けるとともに、このような被害を無くしたいという思いを持ちました。そこで高校では、天文地質部に入り、津波の研究をすることにしました。

 

高校1年生の時の津波被害調査のための巡検
高校1年生の時の津波被害調査のための巡検

研究を始めてすぐに行ったのは、いわき市の津波被害について調べる野外調査でした。津波被害の調査自体は大学や行政でも行っていましたが、全被災地を網羅する必要のない高校生だからこそできる、精度の高い調査を行うことを目的に、市の沿岸部を徒歩で調査しました。調査は約1年間行い、歩いた距離は60㎞以上になりました。調査の中で大変だったのは、沿岸部の調査だったため、冬場がとても寒かったことと、調査は住民の方々への聞き取りがメインだったため、数百人に及ぶインタビューのデータを集約することでした。

 

研究を始めた当初は、堤防や防潮林といった沿岸の構造物で津波の被害を防ぐことを考えていました。しかし、野外調査のなかで津波によって破壊された家屋を見たり、実際に津波被害にあった方にお話を伺ったりするうちに、構造物のようなハードの対策だけでなく、効率的な避難や津波避難においての正しい知識の普及等のソフト面での対策も必要ではないかと思うようになりました。そこで、福島県いわき市四倉町を例にとり、津波の人的被害を減らせるようなハザードマップの作製を行うことにしました。


苦手な物理も興味があるなら楽しい

津波の痕跡を調べています。震災直後でないと痕跡が消えてしまうので、巡検は高校1年の時(2011~12年)に集中的に行いました。
津波の痕跡を調べています。震災直後でないと痕跡が消えてしまうので、巡検は高校1年の時(2011~12年)に集中的に行いました。

ハザードマップの作製は、野外調査の結果から避難の範囲にあたりをつけ、模型を用いた補足実験をして範囲を決定するという方式で研究を行いました。模型を用いた補足実験に際して、水理学の知識が必要だったので勉強しました。私は物理が苦手で、高校の内容ですら苦労していましたが、実験をするためには必要な知識で、かつ自分の興味がある分野だったため、それほど苦にならず勉強できました。勉強したのはほんの一部分ですが、津波についての研究論文が勉強する前よりもわかるようになって、うれしかったです。

 

高校3年生の時、総文祭で発表
高校3年生の時、総文祭で発表

高校での部活動では、自分の興味があることにとことん取り組めました。機材も時間も十分な学力もないけれど、高校生だからこそできる研究をするということにこだわって、調査も模型の作製も考察も、部内で話し合って行いました。自分たちが主体になって活動したからこそ、3年生で部活動を引退したときにやりきったという充実した気持ちになれたと思います。また、水理学の勉強にしても、自分が興味のある分野を勉強することはとても楽しいということが分かりました。

高校の部活動では、誰かにやらされるのではなく、自分で活動することの大切さを学ぶことができたと思います。また、やりたいことをやらせてくれて、時にはアドバイスを下さった顧問の先生にはとても感謝しています。

 

津波の被害を抑えたい。そのための文系から理系への進路変更

私は現在東北大学工学部建築・社会環境工学科で勉強しています。私がこの進路を選んだのは、津波の研究がとても盛んに行われているからです。津波の研究の中でも、津波の被害を減らす方法について研究が行われているところが決め手になりました。


巡検でにお世話になった住民の方々へ御礼もこめて、発表会を行いました
巡検でにお世話になった住民の方々へ御礼もこめて、発表会を行いました

この進路を決めたのは高校1年生の夏です。高校入学時、私は文系に進むつもりでした。理由は文系教科の方が得意だったことと、当時なりたかった職業が文系の職業だったからです。しかし、津波の研究をしていくなかで、津波被害を抑制する方法を見つけるという新たな目標ができたため、進路を理系に変更しました。私は理系教科ができなかったので、高校2、3年での勉強は苦労しましたが、自分のやりたい事のために変えたことなので、後悔はありませんでした。現在も正直適性がないと思われる分野の勉強に苦労していますが、興味があることなので頑張れています。

 

文理選択も進路選択も、自分のやりたいことに合わせて選んだほうが悔いはないように思えます。自分が苦手な分野でも、興味や目標があれば頑張ることができ ます。偏差値や知名度ではなく、自分の興味で大学を選ぶということもひとつの選択肢としてはありなのではないかと思います。

 

大学では自分の決断、自分からの行動が大切

大学では、まだ1年生なので専門的な勉強はしていませんが、高校の頃に持っていた疑問が大学に来て解消されたり、逆に高校では何の疑問も持たなかったところが疑問に思えるようになったりと楽しいです。

大学では高校よりも自分で決めるということが求められると感じています。自分の生活も様々な部分が自由なので、高校のうちから自分で決める習慣をつけておく必要があると思います。特に進路の最終決定は自分で行うことが大切です。大学は入学前のイメージと違う部分もありますが、自分が選択したことだとがんばれます。


また、大学では自分から行動することが大切だと感じました。例えば、興味がある研究室があったら自分からアポイントをとったり、英語が出来るようになりたければ、自分から留学生に話しかけたりといった感じです。目的があって入学した大学なので、積極的な行動を心掛けています。

大学は通過点だと思います。大学受験が終わりでなく、むしろ大学に入ってからのほうが自分から勉強する姿勢が求められるので、高校生のうちから能動的に行動することが大切だと思います。また、大学を決める際には、偏差値だけでなく自分の勉強したい分野が十分に学べるかという点も大切にしてほしいです。興味があるだけでモチベーションの維持が楽になります。私は科学オリンピック入試という方法で大学に入学しました。志望大学の入試形態のリサーチも大切だと思います。高校生の時の部活動の経験が私の今の大学生活につながっています。何かしらの活動に全力で取り組む経験も大切だと思いました。


春休みの今、私は仙台で第3回国連防災世界会議(※)で、テクニカルサポートプロジェクトスタッフ(運営のボランティア)をしています。ボランティアを通して、防災に携わっている様々な年齢、国籍、所属の方々と交流することができました。「世界の防災」が今、まさに変わっていることを直接感じることができ、いい経験になったと思います。災害の被害を少しでも抑制し、少しでも多くの人が助かるような研究ができるよう、努力していくつもりです。(※2015年3月14日~18日)

震災後の日本でどう学ぶかディスカッション

新家さんは、磐城高校1年生の時、書籍『ポスト3・11 変わる学問』(河合塾編)の企画で、本田由紀先生(教育社会学・東京大学)、信岡尚道先生(海岸工学・茨城大学)、開沼博氏(『「フクシマ論」原子力ムラはなぜ生まれたか』著者・磐城高校出身)と、「震災後の日本社会においてわかものはどう学び、どう生きるべきか」をテーマに、ディスカッションをしています。

『ポスト3・11 変わる学問』河合塾編/朝日新聞出版

写真は当時、津波の被害を調査している信岡先生と意見を交換する新家さん。将来は津波工学の研究者になって、できるだけ人が死なないようにしたいと語りました。

2014年総文祭では後輩たちが発表しました

◆福島県立磐城高等学校 天文地質部
津波による人的被害をより抑えるためのハザードマップを、さらに強化する
「津波の被害を抑制するための都市構造の研究~いわき市四倉地区を例に~」

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