土砂災害検知システムの開発

今までの研究を防災に役立てる挑戦 ~広島土砂災害の悲劇を繰り返さないために

広島市立広島工業高校3年 岡本真美さん

<大学の先生が集まる学会[情報処理学会]で研究の過程と成果を発表>

私が通っている広島市立広島工業高校は、広島市南区にあり、通称「市工」といいます。近くにはカープの本拠地のMAZDA Zoom-Zoomスタジアムが、西には世界遺産の原爆ドームがあります。市工には学科が6科あって、私は情報電子科に属しています。

 

センサー開発を通して環境データの見える化に取り組む

近年、地球温暖化が進むことで、様々な異常気象が発生しています。昨年の夏、東京都心では35度以上の猛暑日が8日間続くということも起きています。そのため私たちは、環境に対しての意識を高めるために、環境データの見える化に取り組んでいます。

 

昨年度までの先輩が取り組んだ研究内容について、簡単に紹介します。 

左上がCO2の見える化を目的としたポータブルのCO2センサーです。右上が、デジタル百葉箱の「SWEES」、右下が無線式電力測定器の「EGG」、そして左下が、昨年開発された、植物生育センサー、「ECO Planet」です。これは、植物が植えられたビニールハウス内のCO2濃度と温湿度を測定して、自動で調節するセンサーになっています。今年は、土砂災害検知センサーユニットと、熱中症対策ユニットの研究と開発に取り組みました。

 

土砂災害の実態を降雨データから解明する

まず、土砂災害検知センサーユニットの開発を紹介します。

 

おととし2014年8月19日夜から20日の明け方にかけて、広島市を中心に猛烈な雨が降りました。そのために、広島市北部の住宅地で大規模な土砂災害が多発し、多くの方が犠牲となりました。

被災から約1年が経ち、全国各地からのご支援により、日々復興しています。私たちは広島の高校生として、ボランティア活動や、生徒会を中心に募金活動をしました。その他にも何かできないか検討を重ね、私たちがこれまで学習して研究開発している技術を、防災や減災に役立てる挑戦を始めました。

最初に災害をもたらした大雨を、高大連携で設置した環境センサーで検証してみました。平成16年に設置した研究用環境センサーは、広島市西部の広島市立大学、広島市中心部の基町高校、広島市東部の市工の3箇所。環境センサー間の距離は、広島市立大学と基町高校間は約7km、基町高校と市工間は約5kmです。

上図の赤い帯のエリアが、土砂災害が多発した地域です。この気象レーダー画像は、気象庁によるおととしの8月20日2時のものです。土砂災害をもたらした猛烈な雨は、局地的に降っていたことがわかります。

上図の3つのグラフは研究用環境センサーにおける雨量の変化です。グラフの表示には縦軸の雨量スケールを合わせています。左上のグラフに注目してください。検証して驚いたのは、被災地にに比較的近い広島市立大学のデータです。土砂災害の起きた20日の1時から4時に断続的な大雨が降っています。右下のグラフである市工では、同時刻、ほとんど降っていないこともわかりました。

上図のグラフは、積算雨量の変化です。左上のグラフに注目してください。前日の19日も、多くの雨が降っていたところに、20日の明け方に局地的な大雨が降っていたことがわかります。このグラフは日付が変わるとリセットされ、ゼロからの積算になる処理をしています。今回のような場合には改善が必要だとわかりました。検証してみて、局地的な気象情報や環境情報の収集が重要だと感じました。

 

被害が出る前に避難を呼びかけるための検知センサーを作る

そして、先輩たちは大規模土砂災害のメカニズムを知るために、土砂災害研究調査団で調査を行った、地盤工学の専門家である、広島工業大学の熊本直樹教授と、センサーネットワークの専門家である、東京大学の江崎浩教授にご教授いただきました。

 

検討した案として、スマートフォンやゲーム機のリモコン等に使われている3軸加速度センサーもついた、土砂崩れ検知システムです。概要としては、土砂災害が起きる可能性の高い警戒区域等に、土砂崩れ検知センサーユニットをグループ化して設置し、傾斜を測定してインターネットにアップロードします。そして、測定時の傾斜と設置時の傾斜に大きな差があったり、データの送信が途絶えたりすると、土砂災害など何らかの形でセンサーユニットに異常があることがわかります。このシステムにより、被害が出る前に避難を呼びかけ、多くの命を助けることができると考えて試作品を作成し、実際に見ていただきました。

熊本教授より、土砂災害のタイプの一つである地滑りタイプでは効果が期待できる。しかし、今回の土石流タイプ、崖崩れタイプ、特に土石流が発生すると非常に速度が速く、時速40kmから50kmくらいあり、検知してから避難警報は難しい、というご意見をいただきました。そして、熊本教授と江崎教授から、土石流が起きる前兆現象や風化部の水分量の計測などを組み合わせることで、このシステムの実用化が可能である、と言っていただきました。

 

この取り組みを、一昨年12月21日火曜日の中国新聞と、同じく10月30日のNHK広島、11月11日NHK総合の全国ニュースで紹介していただきました。それにより、県外の方々から土壌水分量の測定方法など技術情報の提供や、実用化を期待する応援をいただきました。

 

今回の研究の目的は複数のユニットで広範囲の異常検知を行うことです。昨年までは1点の場所の検知しか行えなかったため、メッシュ化することで広範囲の異常検知が可能になります。その実用化を目指しています。水分センサーの取り付けは、土壌水分量の測定をすることで、土砂災害を事前に予測することを目的としています。具体的には、土砂災害が起こる前兆現象として、地中2メートルの中に水分が増えることがあるので、その水分量の変化を検知すれば、土砂災害の検知を知らせることができます。

 

開発の工程と、実証実験から出てきた課題

開発の過程を紹介します。まず、基盤の作成です。工作班が昨年の基盤を参考にしながら、基盤製作を行いました。

傾きを検知したら、基盤の上にあるLEDが光るようになっています。また、コップの中に水を入れてあり、水を検知すると、LEDが光るようにもなっています。

 

基盤は思っていたよりも小さかったため、部品を付けるのに苦労しました。また、両面に部品を付けられるタイプだったため、回路がショートしてしまわないようにすることが難しかったです。しかし、すべてが完成した時は、大きな達成感がありました。

 

そして、プログラムの製作と無線通信に使用するXbeeの設定です。どちらもメッシュ化の方法が難しく、特にXbeeの設定は参考資料が少なく、その中から探し出していくのには時間がかかり苦労しました。

こちらが完成ユニット全体です。取り組みは課題研究の成果として、市工のオープンスクールなどで発表し、無線通信を行って検知することに興味を持ってもらいました。

 

研究の課題として、3点見つかりました。まず、土砂災害が起こる前兆現象を見つけ、予測するための水分センサーの増設と実証実験を行うことです。増設は地中2メートル間のすべての水分量を測定するため、地中2メートル、1.5メートル、1メートルのように、最低3つ付けることを考えています。実証実験は今現在、土壌水分量がどんな値になった場合に土砂災害が起こるかを把握できていないため、どのような土のときに、どれくらいの水分量で土砂災害が起こりやすいのかを実験で検証する必要があります。

 

また、昨年までの装置に設置していた小型のソーラーシステムでは、ユニットを操作させることが困難だとわかったため、大型のソーラーシステムと、1週間くらい天候が悪くても動作を可能にするための電気を蓄電する機器の設置が必要だと考えています。

 

熱中症対策ユニットの開発

次に熱中症対策ユニットの開発を紹介します。今回の開発のきっかけは、室内での熱中症患者が多いというニュースを聞いたことです。消防庁によると、昨年の全国の熱中症によって救急搬送された方が約5万人で、その内の50%を超える人が高齢者でした。さらに、地球温暖化の影響により、今後も増加傾向は続くと考えられることから、熱中症対策ユニットの開発に取り組みました。

 

これがユニットの全体図です。ユニットは「慧」と名付けました。

 

ユニットの機能としては、人感センサーで判断し、人がいる場合に、温湿度センサーで読み取ったデータの数値をもとに、熱中症になる危険性が高まる値になると、スピーカーから音声メッセージによって、換気や水分を摂るように促すなど、室内の状況から、知らない間に熱中症にならないように知らせます。さらに危険性が高まると、学習リモコンで、エアコンなどを自動的に動作させることができます。また、あらかじめ設定したスマホ等のメールアドレスに、インターネットを通じて警告を配信することもできます。

熱中症対策ユニットの開発からも、課題が見つかりました。まず、システムにAIを取り入れることです。AIを取り入れることで、使う人ごとに設定を変えることができるからです。例えば、積極的に音声メッセージで呼びかけてほしい人、必要なときのみ希望する人など、使う人の好みに対応するためにはAI機能が必要になります。

 

また、人の命にかかわるので、利用者との信頼性を高めるため、精度の向上が必要になります。さらには、日常生活に溶け込ませて使えるようなユニットを作ることです。例えば、時計と組み合わせモニターを付けることで、時間を見るたびに部屋の温湿度を確認することができます。

 

開発を通して学んだこと

今回の研究を通じて、私たちは多くのことを学びました。特に大きいのが次の二つです。1つ目は日本の絆です。自衛隊員の方々、全国からの消防官や警察官の方々による献身的な救出活動、全国からのボランティアに参加していただいた方々による復興活動は、私たちを絶望から力強い希望へと変えていただいたと感謝しています。また、激しい雨が降れば崩れるおそれのある場所に、住み慣れた場所なので住み続けたいと言われる方々に、私たちの取り組みを説明した時、「失敗をおそれず作ってほしい」「無駄になっても、大切なのは命だよ」と話していただき、期待の高さに驚きました。私たちは、安心して暮らしていただけるよう、さらなる実用化に向けた研究に気持ちを新たにしました。

 

もう1つは自然との対話です。今回の研究にご教授いただいた熊本教授より、土砂災害を調査したところに、鹿や小動物の死骸がなかったとお聞きし、とても驚きました。近年、天気予報などの情報を頼りにしすぎ、身近な場所の自然の変化に気が付かなくなってきているのかもしれません。それで、適切で身近な環境情報を知るための環境センサーネットワークの必要性を感じました。私たちは、物づくりの楽しさを日々感じながら、人にも優しく、地球環境にも負担をかけない、貴重な資源を大切に使う仕組み作りに、これからも積極的にチャレンジしていきたいです。私は大学に進学してインターネット技術について学び、IoT(Internet of Things ※)を活用したシステムの研究がしてみたいと思っています。

 

IoT:あらゆるモノがネットワークを介して繋がり、モノ同士が人の操作・ 入力を介さず、自律的に最適な制御が行われることを意味する概念

 

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