サッカー部女子マネージャーを描く『ガンバレとかうるせぇ』

予想を覆すシーンの連続が、この作品の「現実感」

日本一の映画監督の登竜門「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)」

久留米大学附設高校映像研究同好会 松永侑(福岡県立伝習館高校2年)


『ガンバレとかうるせぇ』
『ガンバレとかうるせぇ』

「PFFアワード2014」で入選した佐藤快磨監督作品『ガンバレとかうるせぇ』についての論評を書かせていただくことになりました。

私は、同じくPFFアワード2014で入選した橋本将英監督作品『流れる』で、撮影・録音・編集を担当していました。

※『流れる』インタビューはこちら

 

作品そのものを高校生が制作した作品は、私たちの作品だけだったと思います。しかし、キャストとなると、私たち以外の作品にもありました。その1つが、高校3年生の堀春菜さんが演じた『ガンバレとかうるせぇ』です。

 

しかも、高校生の部活動を舞台にしたという点においては、高校生にはとても身近で、その生活の中で大きなものをテーマにしていました。内容もとても素晴らしく、それゆえに、PFFアワード2014では映画ファンの一般審査員が選ぶ映画ファン賞と、来場者による投票で選ばれる観客賞という二つの賞を受賞し、一般の観客には、最も高く支持されていました。


マネージャーから見た部活の世界

『ガンバレとかうるせぇ』のあらすじを簡単に紹介します。この作品はある高校のサッカー部が物語の舞台となっており、その部員たちと女子マネージャーが主な登場人物です。決して良好とは言えない部内の人間関係、その中で挫折していく者、ひたむきに努力する者。そして、いつも淡々と作業をする女子マネージャー。これらの要素が同時に進行していき、次第に軋轢が生じていく様を、ドラマチックな描写をほとんど排して女子マネージャー視点で、限りなくリアルに映し出しています。今回私は、「マネージャー」を中心に据えて、この映画について考えました。

そもそも学生の部活動において、マネージャーとは一体どのような存在なのでしょうか? 作中には、「勝っても私のおかげではないし、負けて責められることもない。」という女子マネージャーのナレーションがあります。このナレーションの示すところは一言に、「マネージャーはボランティアである」ということでしょう。部員のために地味で手間のかかる作業を毎日こなし、快適にプレーできるようサポートしていかなければならない。「ガンバレとかうるせぇ」はそのようなマネージャーの無償の奉仕を丁寧に描いています。

恩恵というのもそれはあるでしょうが、この作品に関してはそのような面の描写が一切ないので、何とも言えません。プレイヤーではないが、その仕事にはそれなりの重要さと責任があり、時には部員とともに叱責を受けることもある。とにかくこの作品から私が受けたマネージャーの印象はこういう感じです。傍目には「何のためにマネージャーをやっているんだろう?」と思えるほどに、メリットよりデメリットの方が多いように見える。ここからは当事者にしかわからないものもあるのでしょう。

そんな中で、マネージャーの活動に対して部員が「それ、意味とかあります?」と聞くシーン。最高に強烈ですね。あくまで部員(プレイヤー)が部の主役であり、マネージャーは端役に過ぎない。作品全体がマネージャー視点で描かれているために忘れそうになるその大前提を、この台詞は何とも自然に表している。即ちマネージャーがいくら一所懸命にやっていても、部員が意味を感じないことには、それはただの自己満足(おせっかい)でしかない。そんな考えさせ起こさせてしまう、非常にインパクトのある台詞でした。

マネージャーは「ボランティア」なのか「おせっかい」なのか。鑑賞後にふと思い浮かんだこの二つの考え。天秤にかけてみると、やはり後者の印象の方が強い。ただし、私は現実のマネージャーの姿なんて殆ど知らず、「マネージャー」という存在の捉え方はこの作品に映されている姿にかなり依存しているので、こう考えるのも当然かもしれません。


胸を締め付けられる現実感

『ガンバレとかうるせぇ』
『ガンバレとかうるせぇ』

『ガンバレとかうるせぇ』というタイトル。これがまた深く考えさせられるタイトルです。タイトルだけ聞くと、てっきり、努力を促されすぎるあまり自暴自棄になってしまった主人公が・・・と言ったような破壊的青春映画を想像してしまいそうになりますが、実はこの作品、全くそんなことはありません。

 

冒頭でも述べたように、只々リアルです。本当にこれが今の高校生の現実かどうかということはおいといて、とりあえず胸を締め付けられる「現実感」がこの作品にはあるのです。「努力」よりも「挫折」の方が、蔓延しているし、何より登場人物が全員冷たい。努力を特別強要する人なんかいないのです。(しいて言えば、部活をやめて塾に行くことを勧めるマネージャーの母親がそれに当たるかもしれませんが。)でも、その現実感の最たる所以はそこじゃないのです。

「一般的な青春映画だったら、次はこういう展開になるだろう。」という安直な予想を覆すシーンの連続こそが、この映画の「現実感」そのものなのです。それはどういうことか、映画のシーンをひとつ引用して説明します。

一度は、憔悴しきって退部を決意した部員。その部員が色々あって再びサッカー部に戻ってくるのですが、その際女子マネージャーに交際を申し出るのです。なんとも甘く青春全開なシーン・・・なのですが、しばらくの沈黙の後、当の女子マネージャーは「なにそれ。気持ち悪い。」とそれを一蹴。その場を去ります。まさに一般(商業)的な青春映画で予想される展開とは真逆。断るにしても、普通「気持ち悪い。」とか言わないでしょう。なぜそういった場面でこんな言葉が出てくるのか、私はまだ答えを出せていませんが、みなさんも鑑賞した際には是非考えてみてください。

この他にも、このような予想の逆を突いてくるシーンが随所に出てきます。すなわちこれらのある意味、「裏切るシーンの連続」が、この作品の「現実感」を根底から支えています。

 

タイトル「ガンバレとかうるせぇ」の意味とは?

そして、ラストシーン。もっと厳密に言えばエンドロールに入る直前のシーンが、この作品を最も端的に説明してくれていると私は感じます。まさにタイトル通り「ガンバレとかうるせぇ」。それでいて「現実感」も「裏切り」もある。

ですが、この作品にはラストシーン以外でも、「ガンバレとかうるせぇ」を感じられる場所があります。確かに作品中、直接的に「ガンバレとかうるせぇ」を表 しているのはラストシーンだけです。ただ、ラストシーンだけが、この作品のタイトル「ガンバレとかうるせぇ」を説明しているとは到底思えません。もっと他 に何か、監督の思うところがあって「ガンバレとかうるせぇ」というタイトルがつけられたと、私は思うのです。これはやはり見ないとわかりません。私がこと 細かに説明するよりも皆さんの目で、是非一度観ていただき確かめていただけましたらと思います。


久留米大学附設高校映像研究同好会 松永侑君(福岡県立伝習館高校2年)
久留米大学附設高校映像研究同好会 松永侑君(福岡県立伝習館高校2年)

一度と言わず二度三度ご鑑賞ください。巧みな監督と素晴らしい役者さんがつくり上げる、至高の青春映画です。ドラマ的な要素はないと言いましたが、ラスト5分は涙腺が緩むようになっています。映像もまた淡くて切ないんですよ。

余談になりますが、マネージャー役の堀さんとは少しだけお話しする機会がありました。しかし、佐藤監督とはまだお話できていません。願わくは是非佐藤監督にお会いし、心の底からこの作品に対する思いと賛辞をぶつけたいと思います。

 

『ガンバレとかうるせぇ』主演の堀春菜さんインタビュー
「役者になるという夢に近づきつつある。一つ一つていねいにがんばってやっていきたい」

『ガンバレとかうるせぇ』佐藤快磨監督インタビュー
ベースは監督自身の高校サッカー部経験。女子マネージャーの視点で描く

『流れる』インタビュー

同じくPFFアワード2014で入選した『流れる』を製作した久留米大学附設高校2年生の橋本将英君、福岡県立伝習館高校の松永侑君インタビュー


『ガンバレとかうるせぇ』予告編

『ガンバレとかうるせぇ』は、釜山国際映画祭では、アジアの新人監督作品にエントリーの12本に選ばれ、映画祭「TAMAシネマフォーラム」でも、111作中6作にも選ばれました。

釜山国際映画祭HP
映画祭「TAMAシネマフォーラム」

 

『第36回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)』

上映日程もこちらから: http://pff.jp/36th/

【京都】12月13日(土)~19日(金)、2015年1月3日(土)~9日(金) 京都シネマ
【名古屋】12月18日(木)~21日(日) 愛知芸術文化センター
【神戸】12月20日(土)~23日(火・祝) 神戸アートビレッジセンター
【福岡】2015年4月24日(金)~26日(日) 福岡市総合図書館


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