研究って難しくない!研究って楽しい! ~高1女子4人+男子1人 リープモーション研究・論文発表騒動記

ジェスチャーでコンピュータ操作ができるLeap Motionを利用したゲームの試作

神奈川県立柏陽高校 伊藤朱音さん、羽生美里さん、白方満理奈さん、堀内結衣さん、吉田修梧くん

いかつそう、おじさんっぽい!! そして丸めがね?? そんなすごーーい、大学の教授や企業の先端分野の研究者が集まり、自分が見つけた、誰にもわからないような発見を、クライ顔で報告し合う――学会というと、そんなイメージがある。でも、そんな中で、人が見つけていない、とってもすごいことを見つける。そして、そういう人がいつかノーベル賞も取る。高校生とは関わりのない別世界。学会とはきっとそんなところ……。

 

であるからして、高校生には、ほど遠い世界、って思っている。しかし、そんな学会に、大学教授や、大学や企業の研究者を目指す大学院生に交じって制服姿の、4人の女子高生の姿がありました!!

 

神奈川県立柏陽高校1年女子4人+男子1人。えっ!!これって何??

 

彼女たちが発表したテーマは「Leap Motionを利用したゲームの試作とユーザーインターフェースの考察」。確かにちょっとムズカシそー。説明しとこう。まずリープモーションって知ってる? マウス、タップと異なり、指ジェスチャーで入力できる新しい情報機器のことで、USBでカンタンにコンピュータにアクセスできます。指ジェスチャーだけでゲームを動かしたり、音を自在に変え新しい音楽を作れたりできるのです。操作に慣れたら、いろんな分野ですごい可能性のある情報機器です。

 

5人の高1生は自分たちでプログラムを書き、リープモーションで遊べるゲームを試作しました。そればかりじゃない。同級生相手に実験、分析、検証、考察を行い、新しい可能性を探りました…。

 

高校生が、学会でほんとに論文発表できるのかなあ…?って思うでしょ。でもリープモーションの論文は、研究論文データベース(国立情報学研究所)に、研究者と一緒に論文として入っているのです。

 

研究論文データベース(国立情報学研究所)

◆第129回コンピュータと教育研究発表会

「Leap Motionを利用したゲームの試作とユーザーインターフェースの考察」

 

 

リープモーション研究・論文発表騒動記

出演――伊藤朱音 羽生美里 白方満理奈 堀内結衣 吉田修梧(神奈川県立柏陽高校1年)

 

総合的な学習の時間で研究なんてできるの?

 

柏陽高校1年の総合的な学習の時間―「科学と文化」は、とてもユニークです。総合学習が核となって各教科と連携、それによって各教科の内容を実感、教科同士がつながるメリットがあります。カリキュラムのポイントとして、まず入学する前の春休み「データの分析」分野の冊子が宿題に出されます。

 

4月になると、普通は年度末に行われる数学科の授業の「データ分析」を、入学当初に学びます。5月、情報の授業でそれをExcelで実体験。6月、総合学習の授業で、大学の先生を招きサイエンスワークショップが行われます。昨年は慶応義塾大学の渡辺美智子先生の「『最強の学問・統計学』とデータサイエンス」の講演がありました。

 

でもそんなことでほんとに高校生が“研究”できるようになるのでしょうか。指導する間辺先生に聞きました。

 

間辺先生
間辺先生

「高校生に研究しろと言っても土台無理。勉強と研究の違いを理解させることは簡単ではないのです。私は、大学で2年前、先生をしながら博士学位を取り、それで研究の良さを知りました。そして、高校生でも論文を書かせ、発表することはできるとも思いましたし、いい教育になると思いました。勉強というのは、創造性を育むもので、研究をすることは、それを育みます。大学での勉強につながり、高校生が学ぶことの面白さを知り、将来の進学への意欲も出る。大学でどんな分野を学び研究するかについても、リアルに考えられるんですね」

 

7月、生徒は5人1グループの班に別れ、研究テーマを作成、いよいよ探求活動に入りました。伊藤朱音さん、羽生美里さん、白方満理奈さん、堀内結衣さん、吉田修梧くん。女子4人+男子1人の場合はさて…?

 

<伊藤朱音さん×白方満理奈さん×堀内結衣さん×羽生美里さん>

左から、伊藤朱音さん、白方満理奈さん、堀内結衣さん、羽生美里さん
左から、伊藤朱音さん、白方満理奈さん、堀内結衣さん、羽生美里さん

「夏休みに入っても研究テーマが見つからなかったんだよね…」

「苦し紛れに教室のエアコンの温度差を防ぐ方法なんて考えた(笑い)」

「うちの教室、風向きで極寒と極熱ゾーンがあるので、なんてね」

「どうしよう」

「ぐずぐずしてると、夏、終わっちゃうよ」

「夏が終わったら、こんな研究テーマ意味ないじゃん(笑い)」

 

大学の先生も絶賛した、吉田くん改変、カメのゲームをテーマに

 

2014年7月、研究テーマ作成は始まりました。しかしテーマ探しは迷走しました。夏休みの中ごろ、唯一の男子、吉田くんが、ラグビー部の練習後、やってきて「実はやりたいことがあるんだ」と告げました。

 

実は彼、教科「情報」の夏期講習に参加し、リープモーションを勉強。自分でプログラムを書き換え、カメを動かしリンゴを捕るというサンプルゲームを改変することをやってのけたのでした。

 

 

ドリトルというプログラミング言語は日本語で入力できます。彼の作ったゲームは、指の本数でカメの動きの速さを制御でき、手を左右に動かすとカメを回転させることができるというものでした。「私たちでもできそう」「面白そう」と盛り上がりました。情報の間辺先生が、吉田くんが改変したゲームを、リープのサンプルゲームを最初に作成した兼宗進先生(大阪電気通信大学)に送ると、先生は「びっくりした!」と絶賛。

 

「高校生の場合、やっぱりネックになるのは研究テーマ選び。オリジナリティがあり、かつ身近なテーマに気づいてくれることが大切なんです」と間辺先生。こうしてリープモーション研究はスタートしました。

 

<伊藤朱音さん×白方満理奈さん×堀内結衣さん×羽生美里さん>

「きっかけは吉田くんのやったことに乗っかっただけだよね」

「最初はひたすら、ドリトルとにらめっこだった(笑い)」

「情報の授業でプログラミングの勉強はしてたんだけど…」

「困ったのは、カメが消えちゃうんだよね」

「カメが画面からはみ出さないように壁を作らなきゃいけないんだけど、これのプログラミングが一番大変だった」

「やっとゲームが完成し、文化祭でお披露目したね」

「9月29日、入場者35人にやってもらったら…」

「リープモーションと同じルールで、マウスでできるゲームも制作して、どっちが面白いか比較実験をした」

「それが私たちの実験1」

「その結果、マウスより操作は難しいけれど、リープのゲームのほうが断然面白いとわかった」

「でもリープに手を近づけすぎてカメを動かせない人が多かったよね」

「あと、手首をひねってしまう人も多かった」

「操作に失敗する人には共通する2つの過ちがあるってことを見つけたのは、大発見だよね!」

「でもまだ私たちふらふらしてたね」

「情報の間辺先生から『みんなにゲームのルールを習得してもらうためのインストラクションを考えるべきだ』と助け舟を出してもらって…」

「吉田くんが、『もっと研究を深めよう』と提案し、実験2を始めた」

「やっと研究らしくなってきた(笑い)」

 

リープゲームの面白さをみんなに認めてもらいたい!

 

実験2は、リープの操作の説明書を見せるだけの被験者と、2つの共通した過ちを段階ごとに教える被験者、2グループに分けて、ゲームをしてもらうという実験でした。その結果、段階ごとに教えたグループは全員が改善。10月、校内の生徒が集合し、研究テーマの中間発表をするポスターセッションが行われました。

 

生徒から「リープの可能性を探求したといっても、話が難しくて、意味よくわかんない」と厳しい質問が続出。でも、女の子たちは、「吉田くんが発見したリープゲームの面白さをみんなに認めてもらいたい!」と逆に気持ちが結束。吉田くんも「このままじゃ納得できない。同級生に理解してもらうために、もっとデータの信ぴょう性を高める実験3をやろう」と提案しました。来年3月行われる論文発表本番では校内1位を目指すゾ!

 

ポスターセッションが大きな転換点になりました。間辺先生はこう言っています。「研究って小さなところをえぐっていかないと研究にならないんです。普通、高校生にはなかなかできないんですが、彼らは同級生にコテンパンに叩かれ、そこにはじめて気づいたんじゃないか」

 

<伊藤朱音さん×白方満理奈さん×堀内結衣さん×羽生美里さん>

「私たち、特に問題意識があって始めたわけじゃなかったから…」

「ねえ」

「でも秋深まり、後半はみんな頑張ったね」

「締切が近づかないと、動かない(笑い)」

「みんな部活を優先して、放課後、情報室に集合した」

「論文発表の分担を決めよう」

「伊藤・羽生さんの吹奏楽部コンビはパワポ担当」

「白方・堀内さんの合唱部コンビは論文書き・添削を担当」

「なんといってもリープに一番詳しい吉田くんはリーダー」

「男子一人でガンバッタ吉田くんは持ち上げなきゃ(笑い)」

 

論文締切迫る

 

年が明けました。校内発表論文の締切、1月末に迫る!クラス対抗の合唱コンクールも1月末。みんな超忙しい日々!

 

朝、昼、放課後の合唱の練習中にも、合間を見つけて、同級生相手に実験3をやりました。その前の実験2では、リープの操作の説明書を見せるだけの被験者と、2つの共通した過ちを段階ごとに教える被験者、2グループに分けて、ゲームをしてもらっていました。それを実験3では、操作の練習時間を揃えて行いました。その結果、やはり、段階ごとにリープの操作法を教えることが有効だと再確認できました。

 

1月末、論文の提出。合唱コンクールにも優勝しました!リープの論文は、柏陽高校の入試明けの2月23日、校内高1、64チーム中、上位8位に選抜されました。第1関門は突破。来る校内論文大会はいよいよ3月17日です。

<伊藤朱音さん×白方満理奈さん×堀内結衣さん×羽生美里さん>

「結果は3位」

「残念だったねえ」

「だって1位チームのテーマは『宇宙エレベータの可能性』」

「2位『柏陽高校を元気にするゆるキャラを作る』でしょう」

「どうしてもそっちに生徒の人気は集まっちゃうよ」

「一般受けするテーマの派手さに負けた(笑い)」

「でも審査員の大学の先生は、私たちのを一番高く評価してくれた」

「それがうれしかったね」

 

いよいよ情報処理学会で発表 ~前日、やるじゃん、吉田くん!

 

校内発表大会のわずか4日後、彼女たちは筑波大学へ向かいました。情報処理学会で専門家に交じって論文発表するためです。前日、入念な準備作業を行いました。吉田くんは翌朝、英国研修旅行に旅立つ予定でした。でも彼はラグビー部の練習に参加、着替えて情報室にやってきました。論文の大幅な書き直し、パワポに動画を入れる作業を手伝いました。やるじゃん、吉田くん!

 

<伊藤朱音さん×白方満理奈さん×堀内結衣さん×羽生美里さん>

「翌朝、学会発表本番の日、事件が発生したんだよね」

「昨日のデータをいれたUSBがない!」

「どうやら吉田くんがイギリスにもってっちゃったようだ…(笑い)」

「ヤバい!」

「そして発表本番」

「緊張したね」

「私はもっと人数の大勢だった高校での発表のほうが緊張した」

「でも傍聴している大学の先生たちはパソコン叩きうつむきがちに聴いているし」

「私たちのこと、なんか悪口つぶやいているのかなあって思うと、怖かった(笑い)」

「質疑も厳しかったね」

「大学の先生の質問で答えにくかったのは、英検2級の面接を受けた時に似ていたから(笑い)」

「リープにどんな可能性を感じましたかという質問には…」

「文化祭の時来られた養護学校の先生が、『肢体不自由の子どもたちのための教材を作れそうだ』と言ってくれたという話をした」

「福祉機器として指先のジェスチャーだけで会話できるんじゃないかって、私たちずっと考えてきたからね」

「1年間の研究活動で、内容が私たちの頭の中に入っていたので、ちゃんと話できたと思う」

「でも学会より、高校での発表のほうがたいへんだったよ」

「うん、学会発表は、中学の生徒会と変んない感じ(笑い)」

「大学の先生と話して、高校生と変わらない、ちょっと手を伸ばせば届くって感じ?」

「それが実感できたね」

 

知らず知らずのうちに“研究”してた

 

結果として、学会でたくさんの評価を受けました。学会のセンセーの1人、中野由章先生は「情報処理学会 コンピュータと教育研究会 129回研究発表会の学生奨励賞のうち、2件は“高校1年生”だよ!これからがとっても楽しみだね!」と絶賛。

 

みらいぶの「オーストラリア旅日記」「たんこぶちん」などの記事もある“高校生ライター”の新造真人くんは、彼らの論文発表を聴講し、こう言っています。「僕らのやった夏休みの自由研究とだいぶ違う。リープをテーマにするにしても僕らならそれでゲームを作って終わりだけど、彼らはリープと言う新しいテクノロジーを利用した時の操作の共通した過ちに着目した。そこがすごいと思う」。

 

ちなみに新造くんは、この時慶応義塾大学SFC環境情報学部に行くことが決まっていて、リープの使い方には通じている彼も、「こういう研究活動は、高校時代からきちんとやらせていただきたかったなあ」と言っています。

 

研究って、けっこう難しくない。やろうと思えば簡単にできるし、楽しい! 情報処理学会でも昨年からジュニア会員制度ができて、小中高校生でもウエルカムだって。

 

学会って大学研究者しか参加できず、高校生なんかが、普通の授業を受けただけで、出られるわけがないと思っているだろうけど、リープの彼らのように「総合的学習の時間」を使って、高校生が研究活動をやり学会発表という手はあるかもしれない。

 

最後に柏陽高校の間辺広樹先生はこう言っています。「高校生に研究しなさいとただ言うだけじゃダメ。でもリープの彼らのように少なくとも着眼点が面白い場合、それを深めてやれば、たとえこれが研究だとわからなくても、知らず知らず彼らは研究している」。

 

 

左から、伊藤朱音さん、白方満理奈さん、羽生美里さん、堀内結衣さん
左から、伊藤朱音さん、白方満理奈さん、羽生美里さん、堀内結衣さん

伊藤朱音さん クラブ活動は吹奏楽部。吉田くんが表のリーダーなら、彼女が陰のリーダー?中学時代生徒会長もやっていて、「けっこうみんなの前でマイクを持ってしゃべるという経験をしました」。「パソコンは苦手の方で、今回はパワポ担当できたので少し、将来に役立ったみたい」。文系志向。「子どもが好きなので、ただ学校の先生になりたい・・と思っていたけど、論文発表を経験して少し視野が広がりました。考えている大学は教育学部です」

 

白方満理奈さん 合唱部。「私は国語が割と得意で」(「すごく得意!」「国語テスト1位になったくらい国語の能力が高い。文章書くのが好き」とまわりの声)。基本、原稿書き担当 文章係。論文では白方さんが担当した。将来は、文章力を生かして、「作家や編集者とかではなくても、発表やプレゼンテーションをする際、どんな会社でも文章を使う機会はあると思ったので、文章力を生かして仕事をしていきたい」

 

羽生美里さん 伊藤さんと同様、吹奏楽部。パワーポイントで伊藤さんと2人で担当。将来は?「教育系に興味があって。今回のリープで、わかりやすく説明するには順序立ててしゃべるとか、最初に結論を言うとか、すごくいい実践になりました」

 

堀内結衣さん 白方さんと同様、合唱部所属。彼女も白方さんと論文の添削を担当。4人の中で唯一の理系。科目で言うと数学が好き。「でも中学の時エクセルくらいしか触ったことがなくて、リープではじめてプログラミングを経験できたのはよかったです」。将来は?「看護師になりたい」

 

吉田修梧くん ラグビー部。唯一の男子にして、表のリーダー。迷走する4人の女子に、リープの企画を提案し、研究活動を進めた。<残念ながら、英国研修旅行に出発し、この日は参加できなかった>

 

「Leap Motionを利用したゲームの試作とユーザーインターフェースの考察」はこんな研究だ!

発端――身体ジェスチャー入力の問題点を指摘

 どうしてこの研究を始めたのか?先行する身体を使ったジェスチャー入力はインストラクションが難しいので、普及してないという問題点をまず指摘しました。

 

手・指ジェスチャー入力のリープに着目

 それに対し、吉田くんたちは手・指の操作でできるリープに着目しました。

 

リープを使った新しい操作法を開発

 手・指操作でカメを動かしリンゴを捕るというリープのゲームでは、日本語入力できるプログラミング言語「ドリトル」を使用していることを知り、ゲームの新しい操作法を開発しました!

 

実際の操作例

 新しい操作法で実際にやってみると、正しい手の動かし方、誤った手の動かし方が発見できました。

 

リープの適切なインストラクションの考案

 それを被験者にやってもらうための、適切なインストラクションA、B案を考案しました。

 

検証

 検証の結果、Bのほうが正しく操作できることがわかりました。

 

実験結果と考察

 A、Bどちらが優れているか、検証しました。

 

まとめ

 ジェスチャー入力する機械を使うためには、段階を踏んだ説明が有効ということが明らかになりました。

 

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