高校生が国連大使となり、国連で議論を戦わせる!?

みらいぶ特派員模擬国連レポート


高校生が世界の国々の「国連大使」になりきって決議案を出し、他の国と交渉する模擬国連。参加校は全国から51校65チーム。国際会議に使われる会場で、ほんとうの国連と同じ討議スタイルで2日間議論を戦わせました。

 第7回全日本高校模擬国連大会
 2013年11月16日(土)・17日(日)

この模擬国連に、みらいぶ特派員として行ってきました。レポートをお届けします!


静岡県立沼津東高等学校
 2年 佐藤ひかる
 2年 土屋珠美
 1年 鈴木仁平

左から、鈴木くん、佐藤さん、土屋さん
左から、鈴木くん、佐藤さん、土屋さん

会場は東京のまん中、青山通りに面した国連大学。でかっっっ! 国連大学は、日本に本部のある唯一の国連機関なんです。

国連大学前の広場では、オシャレな青空マーケットが開かれていました。
国連大学前の広場では、オシャレな青空マーケットが開かれていました。

会議場をのぞいてみます。白熱してます!

 

会議場のウ・タントホール。舞台に向かってゆるやかな傾斜があって、国際会議場らしい、ちょっと威厳のある雰囲気です。出場チームはホールの前の方に座り、引率の先生達は生徒エリアには立ち入り禁止。後ろの方から見守ります。

 

何をやっているところかは、順を追って説明しましょう。

 

■「国連大使」になりきって決議案を出し、他の国と交渉するのが模擬国連

模擬国連について、説明します!

 

チームは2人1組で、ある国の「国連大使」になって、会議の議題について自分の国の立場に立った決議案(英語で書く!)を作り、会議に臨みます。目標は、より多くの賛同者を得て決議案を可決させること。そこで、主張が近い国と交渉して共同で修正決議案を作り、より多くの賛同者を集めていきます。最終的に絞り込まれた修正案は投票にかけられ、過半数の賛成で可決されます。

 


■事前準備は1か月。大使となって、その国を調べ、頭に入れる!

担当する国が決まるのは、会議の1か月前。だから、事前準備にかけられる時間は正味で約1か月しかありません(修学旅行やテスト期間中に、担当国決定の連絡を聞いたチームもあったようです)。


参加するチームは、事前に渡された34ページ分の資料を読みこなした上で、自分が大使を務める国の経済や教育、法律などについてネットや本などを調べて、「決議案」を作ります。国によっては、資料のほとんどが英語ということも! 担当国の大使館に電話をかけたり、留学生に話を聞いたりしたチームもあったそうです。


大事なのは、担当国の国益を代表する大使になりきること。担当する国が議題に関してどのような立場や政策を採っているかを調べ、どんな交渉になってもだいじょうぶなように、少しでも多くの資料を頭に入れておくことが必要なのだそうです。

 

出場したチームが準備した資料。自分達でサイトや雑誌などで資料を探して、提案を作り込みます。

  


■今回の議題は「児童労働」。その原因は貧困にある

世界全体を見ると、5~17歳の子どもの中で2億人以上(7人に1人)が児童労働に従事し、その半数が学校に行くことはおろか、ろくに食事も与えられない環境で、長時間働かされているのだそうです。


国際連合や国際労働機関(ILO:International Labour Organization)、国際連合児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund )などが長年様々な活動を行ってきましたが、解決には至っていません。

 

児童労働がなくならない大きな原因が、貧困にあります。その日の食事も満足にできない貧困に苦しむ国では、子どもが働かなくては生きていけません。こういった国に対して、「児童労働は禁止すべきだ」などと理想論を並べても賛同を得ることはできず、結果的に児童労働をなくすことはできません。


貧困国や先進国など立場が異なる国が集まり、決議案をまとめようとすると、自国の主張を押し付けるだけではだめで、相手の国の主張も聞き、最善のものを作っていく必要があります。


 

■討議は本当の国連スタイル

討議は、実際の国連の会議と同じ進め方で行います。

討議のスタイルは3つ。

(1)各国の大使が壇上で順番に自国の主張を、英語でスピーチする


(2)発言を希望する各国大使が、自分の席で指定されたトピックを日本語で手短かに話す

(意思表示をする時には国名のプレートを上げます)

 


(3)席を離れて、日本語で直接交渉を行う


この3つを繰り返して進行し、その中で主張が似た国同士や、地理的・経済的つながりのある国同士が接近して、共同で決議案提出を目指すグループができてきます。

 

■4つの会議を乗り越えて

2日間の会議では、4つのミーティングが行われました。

[1日目]
●第1回のミーティング(11:45~12:50)
ここでは、各国の大使が自分の国の提案内容を、英語で説明しました。

 

●昼食をはさんで、午後いっぱい行われた2回目のミーティング(13:30~17:30)

各国大使が席を離れて、いろいろな国と交渉や意見の調整を行う時間。提案内容の近い国同士が交渉してグループが形成されつつありました。結局4時間近くかけて5つのグループにまとまり、それぞれが修正案(英語)を書きました。

修正案には、
フェアトレードや企業のCSRなどを活用して、教育制度を整える資金を集める
ILOやIPECなど既存の国際機関を活用して監視体制を作る
児童労働専門の全く新しい国際機関を立ち上げる
など、様々な政策が提案されました。

 

[2日目]
●午前中の第3回のミーティング(9:30~13:20)

提出された決議案をもとに議論がなされました。ここでは、グループ内での議論の他に、全体の場で決議案の質疑応答も行われました。

●午後からの第4回のミーティング(14:00~15:30)
ここでも交渉は続き、5つの決議案は最終的に3つにまとめられ、採択にかけられました。各案に対しては棄権した国も多くありましたが、最終的に3案とも可決されました。

 

■交渉はまるでゲーム!

私達が見た2日目は、5つのグループがより多くの賛成を集めるために、さらに交渉してまとまろうとしているところでした。よく見ていると、マシンガントークで説得したり、影響力が強そうなところと仲間になったり、いろんな交渉のタイプがあるなあと思いました。モロッコやケニヤのチームは、小さな国でありながらいろいろな国と粘り強く交渉し、最終的に大きなグループ同士をくっつける役割を果たしていました。

 

いろいろな国に対して積極的に交渉し、賛同する国を増やしていたのが、中国チーム。あとで話を聞いたら、「できるだけたくさんの情報を集めて、いろいろな角度から整理して準備しておいたので、交渉する時に様々なカードが持てた」ということでした。なるほど!

 

交渉中
交渉中

自国の提案の内容を他国にわかってもらう工夫。ミニサイズのホワイトボードを用意しました。
自国の提案の内容を他国にわかってもらう工夫。ミニサイズのホワイトボードを用意しました。
1日目終了後、会場を出てからも相談は続きました。渋谷の商業ビルの前で、欧州グループ
1日目終了後、会場を出てからも相談は続きました。渋谷の商業ビルの前で、欧州グループ

■最優秀賞と優秀賞の6チーム、ニューヨークへ!

全プログラムが終了後、最優秀賞1チーム、優秀賞5チーム、ベストポジションペーパー賞1チームが発表されました。最優秀賞と優秀賞の6チームは、2014年5月にニューヨークの国連本部で開催される「2014グローバル・クラスルーム高校模擬国連国際大会」に派遣されます。

 

ニューヨーク派遣が決まった6チームのみなさん
ニューヨーク派遣が決まった6チームのみなさん

◇最優秀賞 1チーム 

・渋谷教育学園幕張中学高等学校(千葉)Aチーム[エチオピア] 

 

◇優秀賞 5チーム

・渋谷教育学園渋谷中学高等学校(東京)Aチーム[ウガンダ]
・灘高等学校(兵庫)Aチーム[中国] 
・聖心女子学院高等科(東京)Aチーム[ケニア]
・実践女子学園高等学校(東京)Aチーム[ソマリア]
・大阪教育大学付属高校池田校舎Aチーム[モロッコ] 

 

◇ベストポジションペーパー賞 1チーム

・聖心女子学院高等科(東京)Bチーム[サウジアラビア]

 

今回代表に選ばれたチームの受賞理由として、「行動力」や「説得力」の他に、「グループ内をまとめあげるための発言や行動」や「粘り強い交渉力」などがあげられており、自国の権益だけでなく相手国を尊重する行動が評価されていることがわかりました。

 

私達が取材を進めていたエチオピアのチームも選ばれました。
インタビューはこちらから
また、灘高校と大阪教育大学付属高校池田校舎にも取材をしました。
インタビューはこちらから

 

■模擬国連を経験した大学生スタッフも大活躍

ちょっと驚いたのは、この会の運営は、議長や会場のサポートをはじめとして全て、高校模擬国連のOB・OGをはじめ、大学で模擬国連に取り組んでいる大学生が行っていること。さらに、OB・OGが各国大使の行動を観察し、ニューヨークの国連本部に派遣する代表チームを選出するための情報を収集するのです。また、選考はこれとは別の大学生が行っており、公正性を保つ配慮もなされています。

議長は模擬国連経験者の大学生です
議長は模擬国連経験者の大学生です
着席して討議する時に、連絡や発言のある人はメモに書き、サポートの大学生に届けてもらいます
着席して討議する時に、連絡や発言のある人はメモに書き、サポートの大学生に届けてもらいます

 

今回の模擬国連を運営する大学生側の実行委員長、柴原一貴さん(慶應義塾大学法学部3年生)。学生グループが、当日の運営だけではなく、議題(「児童労働」)の作成も行いました。

 

■決め手は英語力だけではないから、チャンスはある!

これだけ英語を駆使して意見を言ったり話を聞いたりするのって、帰国子女でない私達にはちょっとハードルが高そうです。でも、事務局の方にうかがってみると、必ずしも英語力だけが決め手になるわけではなく、過去に代表になった中には、その時が初めて海外へ行った、という人もいたそうです。それよりも、準備する時に問題をさまざまな角度から考えてたくさんの「引き出し」を作ること、そして、誰からも信頼される「人間力」が大事だ、ということでした。英語力もふくめて、決して手の届かないものではないことがわかり、ちょっと安心しました。

 

事務局の方にうかがう、右から沼津東高校の土屋さん、佐藤さん、鈴木くん
事務局の方にうかがう、右から沼津東高校の土屋さん、佐藤さん、鈴木くん

大会の公式言語が英語ということで、ハードルが高いのではないかと思う人もいるかもしれません。

◇第1回大会で世界大会への派遣メンバーに選ばれた公立高校出身の方にお話を聞きました。

こちらから「帰国子女でなくても、公立高校でもチャレンジできる!」

 

◇他のOB・OGの方々にも、アドバイスやメッセージをいただきました。→ こちらから


静岡県にある静岡雙葉高校2年生の山崎美希さん、光木綾夏さん[オーストラリア]と。

「実際に参加して、周りのレベルの高さに驚きました。知識が豊富で、それを伝える英語力も高かったです。普段の授業で学んでいる英語力だけでは太刀打ちできないことがしばしばありました。文法の勉強だけでなく、コミュニケーションに必要な実用的な英語を学んでいくべきだと思いました」


★取材を終えて★

 

★模擬国連では圧倒的な力の差を感じました。同じ高校生とは思えないような語学力や発想力、発言力があり、各国の代表になりきって話し合いを進めていく様子は本当の国連を見ているようでした。出場している高校はほとんどが私立高校で、私たちの通っているような地方の県立高校はとても少なかったです。

 

会場で見学したり、出場している高校生から話を聞いたりして、この大会に出場するために必要とされているのは、日々の生活で使えるようなコミュニケーション英語を学ぶことや、世界の時事問題に目を向けていくことだと感じました。今後、模擬国連の存在がさらに多くの人に知れ渡り、この大会が、日本の高校生がグローバルに目を向けるきっかけになれば良いと思いました。(土屋珠美)

 

 

★会議2日目。同じ理念や近い構想を持つ国同士がくっつき、または、失敗して離れたりしていました。中心となり交渉を進める大使に、ここは譲れないと反論する大使。具体的にどのような案を作るのかを慎重に決めているグループもありました。休憩時間でも続けられるロビー活動などに、本当に各国大使が集まっているのではないかと錯覚を起こすほどでした。

 

今回最優秀賞を受賞したエチオピア大使役の渋谷教育学園幕張高校の板垣奈恵さん、高佐綾菜さんは、「英語力だけが試されるのではなく、交渉力や時事問題に長じていることはもちろんのこと、数学の論理的思考、国語の表現力も必要だと考えさせられました」と話してくれましたが、その通りだと思いました。

 

公立高校生でも、私たちの高校からでも、頑張れば出場することができるんじゃないかとも思いました。見学するだけでも十分に世界への興味や関心が広がるはずです。多くの人に、挑戦または見学してほしいと思いました。(鈴木仁平)

 

※佐藤さん、土屋さん、鈴木くんの3人は、静岡県立沼津東高校の新聞部に所属。この新聞部は、「高校新聞の甲子園」といわれる全国高校新聞コンクールに入賞するなど、高い評価を受けている新聞部です。

全国高校新聞コンクールはこちら

 

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