第84回情報処理学会全国大会 第4回中高生情報学研究コンテスト

苦手な内容でもモチベーションを下げさせないオンライン学習はどうあるべき? を考えてみた

チーム名:宇土高等学校

 

吉野泰生くん(熊本県立宇土高校 3年)

 

Dynamic Questioning: 強化学習を用いた生徒の学習意欲維持と学習の効率化を両立する出題アルゴリズム

 

本研究では,e-learningにおける学習効率と学習意欲のトレードオフを考慮した出題手法を提案する。

近年,e-learningの普及により,出題を個別最適化する手法が提案されている。生徒の知識状態を推定するKnowledge Tracingに基づく従来手法は,苦手な問題を優先的に出題することで学習効率を高める一方,苦手な問題ばかり解くことによる学習意欲の低下が指摘されている。生徒の学習意欲の向上は学習量の増加だけでなく,e-learningの提供者にとってはユーザのサービス利用時間増加の便益がある。

 

我々は,学習効率と学習意欲のトレードオフの関係と市場経済における需要と供給の関係の間にアナロジーを見出し,多腕バンディット問題に帰着させる。これにより多腕バンディット問題の最適化手法を用いることが可能になり,学習効率と学習意欲の両立を実現する。我々は,模擬実験を行い提案法の有効性を確認する。

 

※クリックすると拡大します。

 

■今回発表した研究を始めた理由や経緯を教えてください。

 

私は、子どもの頃から熊本県で生活する中で、自然災害などによる学校休校を繰り返し経験してきました。例えば、2016年の熊本地震や毎年のような豪雨災害、そして昨今のコロナ禍などです。

 

しかし、そのような中でも、県が推進する先端的なICT教育やEdTechサービスは、私たちの教育機会を守りつつ、普段の学びをより魅力的なものに変えていきました。私も教育工学の研究に携わることで、次は私が子ども達の背中を強く押して応援する存在になりたいと思うようになりました。

 

今回の研究では、休校中に配慮が不十分であると感じた「オンライン学習環境のモチベーション」に興味を持ち、それを補う教育AI(出題アルゴリズム)の開発に取り組みました。従来の教育AIのアルゴリズムでは、生徒が苦手とする問題を優先的に出題することで学習効率を高める一方で、勉強が得意ではない生徒にとって苦手な問題ばかりを出題することは、学習モチベーションを低下させ、学習中断を引き起こす恐れがありました。本研究では「学習の効率化とモチベーションの維持」というトレードオフの問題を解決するために、新たな手法の考案を目指しました。

 

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらいですか。

 

2020年から、教育工学に関する研究がしたいと考えるようになり、そこから先行研究の調査を始めました。そして、同じ年に東京大学が主催する「グローバルサイエンスキャンパス」という研究プログラムの受講生に選出され、大学の先生からもアドバイスを頂きながら、アイデアをブラッシュアップしていきました。

 

2021年の4月頃から本格的に研究を始め、アルゴリズムの考案を8月ぐらいまでに完成させて、10月ごろに研究成果を論文やポスターにまとめました。

 

 

■今回の研究ではどんなことに苦労しましたか。

 

私が行った研究に関する先行研究は、ほとんど英語で書かれていて、それを理解するのがかなり大変でした。しかし、10本ぐらいを頑張って読んだあたりから、論文の構成や、よく使われる専門用語などがある程度理解できるようになり、それ以降は比較的効率よく文献調査ができるようになった気がしています。

 

また、機械学習のアルゴリズムでは、大学レベルの数学が使われており、その理解にも苦労しました。特に、確率分布やベイズ推定の理解や計算にはかなり苦戦し、1週間ぐらい考えて全く成果が出ないこともありました。

 

そのような時は、高校の数学の先生に質問したり、大学の先生にメールを送ったりすることで、なんとか研究を進めることが出来ました。

 

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点を教えてください。

 

今回の研究で最も注目してほしい点は、「動的価格設定」という元々は市場経済やビジネスで用いられていたアルゴリズムを教育の分野に応用した点です。動的価格設定は、飛行機の価格設定としてよく用いられる手法で、動的に変化する消費者の需要に合わせて価格を逐次変更していくことで収益の最大化を目指します。今回の研究では、生徒の学習意欲は「需要」、問題の出題難易度は「価格」と対応すると仮定することで、教育分野の問題を動的価格設定に帰着させることができ、既存のアルゴリズムを応用してシンプルに問題解決を行うことが出来ました。

 

 

■今後「こんなものを作ってみたい!」「こんな研究をしてみたい」と思うことがあれば教えてください。

 

今回の研究を通して、教育工学には本当に様々な可能性があると感じました。

 

特に「個人最適化の学習」に関する研究分野は、少子高齢化や人口減少などが問題となっている日本において、生徒一人ひとりのポテンシャルを最大限に伸ばし、日本社会や経済をより良く成長させる大きな可能性を秘めていると感じています。私は今年で高校を卒業するので、大学進学後はコンピューターサイエンスを専門的に学びつつ、並行してラーニングサイエンスや発達心理学等の教育学の視点も身につけることで、子供たちにとって、より魅力的で有意義な教育サービスを開発していきたいと考えています。

 

第84回情報処理学会全国大会中高生情報学研究コンテスト ポスター発表より

 

※ 吉野くんの研究は、中高生研究賞優秀賞を受賞しました。

 

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