神奈川県の河川で、南米原産の水草が冬でも枯れないのはなぜ?
~数十センチの違いでも水温に大きな差があることをつきとめた

【生物/ポスター部門】向上高校 生物部 [神奈川県]

左から大畑 健くん、田中哲生くん
左から大畑 健くん、田中哲生くん

◆部員数 14人(うち1年生4人・2年生3人・3年生7人)
◆記入者 田中哲生くん(3年)、大畑健くん(2年) 


■研究内容「南米原産オオフサモはなぜ葛川で冬を越せるのか?」

私たちは、神奈川県の葛川(※)のオオフサモ(アリノトウグサ科)について研究しています。


オオフサモは、南アメリカ原産の抽水植物で、日本には雌株のみ移入され、種子生産は確認されていません。そのため、切れ藻による栄養生殖で繁殖します。

葛川では、2001年に上流部へ、2003年に隣接する厳島湿生公園に導入されました。しかし、増殖力が非常に高く、過繁茂した群生が水路の水流を妨げたり、水中への日光を妨げたりして在来の動植物に悪影響を及ぼすこと、水質の悪化をもたらすことから、2005年からは外来生物法によって特定外来生物に指定され、現在は持ち込み・持ち出しが禁止されています。

※神奈川県足柄郡中井町井ノ口を源流とし、途中から湧水でできた水路と合流し相模湾に注ぐ全長7.6kmの二級河川。河床整備により、全域が三面護岸となっています。

2011年に行った葛川全域の分布調査で、オオフサモは全域にわたって分布していることがわかりました。2014年11月に行った調査では、これまでの調査で常に最上流地点だった導入地点よりも、さらに上流で、同年7月にもなかった新たなオオフサモの群生(新最上流地点)を発見しました。

2015年2月に調査したところ、新最上流地点を含め葛川にある多くの群生は枯れていました。しかし、オオフサモの導入地点(旧最上流地点)付近の中洲では、河川の主流側のオオフサモは枯れていたものの、護岸側の水流に存在する部分だけは青々とした群生が生息していました。

なぜ、このような違いが生まれるのか、疑問に感じて調べてみたところ、南米原産のオオフサモが、冬にも青々と繁茂した状態でいるためには九州地方と同様の暖かさが必要だとわかりました。では、なぜ神奈川県でもこのような環境になっているのかということを調査することにしました。


[冬の様子]
まず、もっとも寒い2月中旬に、オオフサモのあった場所の、水際の地中の温度および河床の温度を計測しました。本来は、気温が上がると、水温など他の温度も上がります。しかし、青々とした群生付近の水温は、水温が常に気温よりも高くほぼ一定でした。この場所には湧水が流れ込んでおり、その上流は中洲でせき止められているため、湧水で満たされている状態です。

また、ここは河床の温度も高いため、湧水が河床の下を通り河床を温めていると考えられます。


[春の様子]
冬の調査を受け、私たちは、湧水で満たされている場所より上流ではオオフサモは越冬できないと考えていました。しかし5月に調査を行ったところ、新最上流地点では、3月に芽吹いたオオフサモが、以前生息した範囲の地表を排他的に占領していました。同地点は冬場の河床や地中の温度が低いため、他植物の生育が鈍り、他植物が中洲を占領する前にオオフサモが芽吹いて地表を覆ったのかもしれません。

 

[葛川の生態系]
2015年6月には、同じ範囲のオオフサモと他の植物で、生息する生物の分布調査を行いました。オオフサモの茎の束は、視界をさえぎったり、水流を緩めたりする効果があるため、他の植物より水際に水生生物の生息場所を形成しやすいことがわかります。

すると、それを狙って集まってくるカルガモが、絡み合うオオフサモを探ったり突いたりすることで、茎が切断され、オオフサモの繁殖の原因になる切れ藻を形成することになると考えられます。


[アレロパシーの可能性の調査]
もう一つの可能性として、アレロパシー(植物が放出する化学物質が、他の植物や昆虫、微生物などに対して影響をおよぼすこと)によるものが考えられます。こちらについては、東京農工大学の藤井義晴先生のご指導をいただきながら、現在調査を続行しています。

■研究を始めた理由・経緯は?

今年の2月に調査した際、ほとんどの地点のオオフサモの群生は枯れていたが、ある場所だけ青々とした状態で残っていたため。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

オオフサモ自体の研究は2011年から始めています。今回の研究は1か月あたりに2~3回、5~7時間で約6か月間(今年の2月~7月後半)かけました。

■今回の研究で苦労したことは?

2月というもっとも寒い時期の中、温度を定期的に計測するために何時間もかけて外で調査しなければいけなかったところが、特に苦労しました。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

・気温、水温だけでなく河床の温度まで計測した点。
・たった10㎝離れた地点で、河床の温度に8℃以上の温度差が見られた点。

■次はどのようなことを目指していきますか?

今大会で指摘された、「くり返しデータをとる」ということを念頭に置いて、1年間の温度変化を調査していきたいです。

■ふだんの活動では何をしていますか?

部員一人ひとりが研究テーマを持っていて、定期的に発表しあい内容を深め合っています。

■総文祭に参加して


・自分とは違う価値観や考え方をもったたくさんの人達と出会い、会話することで、自分の考える世界が広がり、他の学校の生徒の発表をきくことで知識のページが増えていくようで、とても良い経験となりました!(大畑くん)


・ほかの学校の発表を聞いてみると、僕たちとは比べものにならないくらい詳しく書かれているものが多く、レベルの違いを感じました。後輩たちにはさらに詳しいことを調査して、より知識を深めて次の総文祭で頑張ってほしいです!(田中くん)


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