空気マグネシウム電池をもっと長く、効率的に

―水酸化マグネシウムによる電圧低下を改善する―

【化学】宮崎県立宮崎大宮高校 化学部

齊藤竜馬くん(2年)
齊藤竜馬くん(2年)

◆部員数 10人(うち1年生1人、2年生3人、3年生6人)

 

■研究内容「空気マグネシウム電池の研究~水酸化マグネシウムによる電圧低下の改善について~」

みなさんは「空気マグネシウム電池」を知っていますか。最近になって非常用電池として注目を集めている電池ですが、私たちはこの電池に一足前に着目し、研究を重ねてきました。きっかけは、モーターカーを走らせるマニュファクチャリングコンテストに出場したこと。軽くて高電力が得られる空気マグネシウム電池を使用したのです。

大会で使用した空気マグネシウム電池
大会で使用した空気マグネシウム電池

しかし、電池の電圧低下が原因でモーターカーはコースを走り切ることができませんでした。試合後、電池に使用したマグネシウム板の表面を確かめてみると黒い物質がこびりついていました。これが、電圧の低下を生んだのではないか。そう考え、空気マグネシウム電池をもっと長持ちさせるための研究を始めたのです。

 

そもそも、空気マグネシウム電池はどのように発電するのでしょうか。まず銅メッシュでできた正極とマグネシウム板でできた負極の間に電解質溶液(今回は食塩水を使用)をしみ込ませたろ紙をはさみます。負極のマグネシウムMgはイオン化傾向が大きいため、食塩水と反応してマグネシウムイオンMg2+と電子2e-に分かれます。この電子が導線を伝わって正極に移動し、活性炭によって吸着された酸素および食塩水の水と結合することで水酸化物イオンOH-となるのです。こうして電流が流れるのですが、同時に余ったMg2+とOH-が反応し、水酸化マグネシウムMg(OH)2ができてしまいます。(注:電解質溶液とは、イオン性物質などを水に溶かした電気を通す溶液のことです)

 

私たちは、この水酸化マグネシウムがマグネシウム板にこびりついて発電を邪魔していると考え、まずこの仮説を証明することにしました。実験は全て自作の空気マグネシウム電池で行い、モーターの回る時間で性能を評価することでモーターカーの大会に応用できるようにしました。

はじめに、コンテストのときと同じように食塩水を電解質溶液として用い、時間によって電力がどのように変わるか見てみました。すると、明らかに時間が経つにつれて発電した電力の量が落ちていることがわかります。

測定後のマグネシウム板の表面を見ると、黒い水酸化マグネシウムで覆われていました。つまり、マグネシウム板が水酸化することによって電力が低下してしまったということがわかります。

 

では、水酸化物イオンの発生を抑えれば電力の低下を防げるのではないでしょうか。次に私たちは、電解質溶液を食塩水からリン酸緩衝溶液に変更し、実験を続けました。(注:緩衝溶液は発生した酸や塩基の影響を打ち消し、溶液のpHをほぼ一定に保つ溶液のことです。)この場合、電力は時間が経つにつれて下がったものの、食塩水を使用したときに比べて1.5倍も長持ちしました。

 

また、20分後に食塩水と緩衝溶液それぞれを使った実験のマグネシウム板を比べてみたところ、緩衝溶液を使った場合は水酸化物イオンの増加を抑えることができていました。マグネシウム板の水酸化を防げば長持ちするという仮説は正しかったのです。

 

ただ、放電時間はまだまだ足りません。さらに電池を長持ちさせるにはどうすればいいでしょうか。私たちは、それには水酸化マグネシウムの発生の仕組みを解明することが必要だと考えました。正極と負極の間にろ紙を加えて15枚はさみ、食塩水にフェノールフタレイン溶液を混ぜることで食塩水と酸素、電子が反応して得られる水酸化物イオンの移動を見えやすくしました。


私たちの予想では、一般的な化学電池の放電のメカニズムと同様に正極で生成された水酸化物イオンが徐々に負極に移動し、フェノールフタレイン溶液による赤変も正極でより濃く、負極でより薄くなるのだと考えていました。

しかし、結果は異なるものでした。
なんと正極も負極も赤変し、むしろ負極側がより赤くなっていたのです。

これは、マグネシウム板で分解によって発生した電子が水とその場で反応してしまっているためだと考えられます。すなわち、以下の図のように電子が反応に使われ、十分に導線を通って正極に移動していないのです。緩衝溶液を使用した際にも水酸化を完全に防げなかったのはこのためだと考えられます。

これを防ぐためには、正極での酸素と電子の反応をより活発にしなければなりません。すなわち、正極の活性炭の量を増やすことで、電子がきちんと導線を通って正極に来るようにすれば、より長持ちする電池が作れるのです。

 

このように、マグネシウム電池は
(1)緩衝溶液を用いる
(2)正極の活性炭を増やす
この2通りの方法で放電時間を飛躍的に伸ばすことができるのです。

実際、研究開始後に市販された空気マグネシウム電池を確かめてみたところ、私たちが取った方法をさらに改良して使用していることがわかりました。この研究を通して、実際に実用化されている技術を開発するプロセスの一端を垣間見ることができたのは貴重な経験でした。


■研究を始めた理由・経緯は?

宮崎大学主催の、化学電池を作成し、その電池を用いてモーターカーを走らせてその速度を競うという大会に参加した時に、自分たちの作成した電池の負極版に黒色物質が付着していたことを疑問に思い、研究を始めました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

1日あたり1~2時間、1週間4日で6か月ほどかかりました。

■今回の研究で苦労したことは?

考えていたような結果が出ず、なぜそのような結果になったかを話し合ったり調べたりしたこと。放課後の短い時間の中で実験を行わなければならなかったこと。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

マグネシウム版の水酸化を防ぐために、緩衝液を使用した点。水酸化物イオンの視覚化のために、ろ紙を使用したこと。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究


『よくわかる電池 (入門ビジュアル・テクノロジー) 』三洋電機(株)監修 (日本実業出版社)
『図解でナットク!二次電池基礎と応用の最前線』小林哲彦、太田璋、宮崎義徳(日刊工業新聞社)
『電池のすべてが一番わかる(しくみ図解)』(技術評論社)

■次はどのようなことを目指していきますか?

ロボットなどの工学的研究をしてみたいと思います。

■ふだんの活動では何をしていますか?

LEGOのマインドストームでロボットの作成をしています。

■総文祭に参加して

大きな大会に出るのは初めてだったのでとても緊張しましたが、とてもよい経験になりました。

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