みやぎ総文2017 自然科学部門

偶然発見した不思議な振動反応。再現性が低くて、研究には悪戦苦闘?!

【化学】北海道旭川東高校 化学部

左から 高成真輝くん、越智啓吾くん、岡田弘輝くん、加藤貴久くん、(全員3年)
左から 高成真輝くん、越智啓吾くん、岡田弘輝くん、加藤貴久くん、(全員3年)

■部員数 21人(1年生8人・2年生3人・3年生10人)

 

鉄-硝酸の化学振動

別の研究をする中で偶然発見した今回の現象

私たちは酸化皮膜の研究をしてきました。その研究の中で、偶然、硝酸中で鉄が振動反応することを発見しました。この反応に関する先行研究を調べると、再現性に乏しいため、研究数が多くありませんでした。そこで、この反応を再現することと、メカニズムを調べるために新しく研究に着手しました。

 

振動反応は図に示したような反応で発見されました。

 

この時の実験では、銅板を入れた塩化ナトリウム水溶液と、鉄板を入れた濃硝酸を塩橋でつなぎ電池を作り、その時の電流を計測しました。

 

下記がその時の反応の様子(スロー)です。鉄板表面に注目すると、表面が一瞬したから上に向かって暗くなっているのがわかります。 

下図は振動反応時の電流の推移を表したグラフです。電流が周期的に変化しているのがわかります。この周期は2分でした。

振動反応の原理は次の通りです。

 

1.鉄板ははじめ、完全に酸化皮膜で覆われています。この状態を「不動態」と言います。

2.硝酸中で酸化皮膜は徐々に溶解していきます。

 

 

3.やがて酸化皮膜は完全になくなります。この状態を「活性態」と言います。

4.この状態になると表面の鉄がイオン化し、再度酸化皮膜が形成されます。

5.このように不動態と活性態の状態を行き来することで振動反応が起きます。

 

硝酸濃度と振動反応の関係を調べる

実験の流れです。まず振動の再現を行い、その後、振動反応時の酸化皮膜の分析を行いました。

 

実験1です。

 

この実験では、硝酸濃度を変化させました。実験装置は、先ほど紹介したものを用いました。

 

結果は下図の通りです。

硝酸濃度(硝酸と水の混合比)が10:1、5:1、1:1の時にそれぞれ振動反応が確認できました。硝酸濃度が10:1と濃い場合は反応周期が1〜2分と長く、表面が一瞬暗くなる、先ほどと同様の反応が確認されました。 

 

しかし、硝酸濃度が5:1、1:1と薄い場合は、反応周期が1秒未満と短く、また表面では気体の発生が確認できるという、先ほどとは異なる反応が見られました。

 

このような反応の違いは、不動態が優勢か、活性態が優勢かで決まると考えられます。

 

硝酸濃度が濃い場合は、不動態が優勢となります。よって、酸化皮膜は壊れてもすぐに形成され、振動反応が一瞬で起こります。また、振動は長続きします。表面が一瞬暗くなるのは微量の気体が発生しているためだと考えられます。

 

硝酸濃度が低い場合は、不動態が形成されにくくなるため、活性態が優勢となります。そのため、酸化皮膜が壊れてもすぐには形成されません。よって、安定せず周期は短くなります。また、振動も長続きしません。

 

鉄板の表面が濡れた状態で濃硝酸に入れると周期の短い振動反応が起こる

実験2です。

 

この実験では、電池を形成せずに鉄板を濃硝酸に入れて振動が起きるかを確認しました。すると、鉄板を濃硝酸に入れるだけでは振動は確認できませんでしたが、表面を蒸留水で洗って再び濃硝酸にひたす操作を数回繰り返すと、振動が確認できました。

 

これがその時の反応の様子です。

この映像では反応は70秒ほど続きますが、この反応は不安定で長続きしないことが多かったです。鉄板表面で気体の発生が確認されます。時間が経つにつれて反応周期が短くなっていることがわかります。鉄板はやがて濃硝酸に完全に溶解してしまいます。このような反応が生じるのは、鉄板表面が水で濡れているため活性態が優勢となり、周期が短く不安定で長続きしないためだと考えられます。

 

鉄板を上下にゆらすと反応確率がアップ

実験3です。

 

この実験では、水を少量加えた濃硝酸で振動を再現しました。実験装置はこのように先ほどとほぼ同様ですが、今度は電流計を電圧計に切り替えました。また、実験を開始して5分経過して反応が見られない場合は、硝酸に蒸留水を0.2mlずつ加えていきました。

 

硝酸に水を加えるだけでは振動が数回しか起きなかったので、鉄板を上下に揺らした後、濃硝酸に放置しました。

 

すると、揺らしたことがきっかけとなって電圧が徐々に下がり始め、振動反応が確認できました。この方法を用いることで振動が長い時間安定して続きました。

 

揺らすことによって溶液内で水の流れが生まれると考えられ、振動が安定化したということは、参考文献として使用した石渡氏の論文に書かれていた「電極面下で下降流が生じていると、溶解した酸化皮膜によって持ち去れるので、振動が安定する」という記述と一致します。

 

これがその時の反応の様子です。鉄板表面に注目していると表面が一瞬暗く変化しているのがわかります。硝酸に蒸留水を0.2ml加え、鉄板を上下に揺らすことで振動を確認できました。この方法を用いることで16回中11回再現することができました。

 

 

下図は振動反応時の電圧の推移を表したグラフです。電圧は周期的に変化しています。周期は約2分でした。振動反応時の酸化皮膜の状態は次のようであると考えられます。

 

電圧の変化は酸化皮膜の状態を表していると考えられます。

1.鉄板は初め酸化皮膜で完全に覆われています。

2.電圧が低下するとともに酸化皮膜は徐々に失われていきます。

3.やがて酸化皮膜の一部がなくなります。

4.すると一気に酸化皮膜が失われます。

5.酸化皮膜がなくなると電圧は急上昇し振動反応が起きると同時に酸化皮膜が再度形成されます。

 

このグラフを見ると振動反応直前に電圧が急降下していることから酸化皮膜は振動反応直前に一気に失われている、ということもわかります。

振動反応での酸化被膜の変化を調べる

実験4です。

 

この実験では、振動反応における酸化皮膜の変化を調べました。通常の鉄板、酸化皮膜を形成させた鉄板、振動反応が起きる直前に取り出した鉄板、の3種類の分極曲線を測定し、その形を比較することで酸化皮膜の状態を調べました。分極曲線は電気化学測定で用いられているボルタンメトリー法で測定しました。ボルタンメトリー法とは、測定対象にかける電位を変化させ、それに対応する電流値を測定することによって対象物を分析する手法です。

 

振動中の鉄板は酸化皮膜が薄く不安定であるため、取り出すと表面に残った硝酸で溶解してしまいます。それを防ぐために、硝酸を取り出すと同時に表面を蒸留水で洗いました。また、鉄板の状態は電圧で確認し、図の赤い円で囲まれたところで取り出して実験を行いました。

 

実験装置はこのようなものを用いました。ポテンショスタットを用いて、鉄板の電位を変化させ、その時の電流を計測しました。

 

結果は図のようになりました。グラフの赤い円で囲まれたところに注目すると、酸化皮膜を形成したものにはピークが見られます。これは酸化皮膜の還元によるものだと考えられます。

 

また、このピークが振動直前のものには見られないことから、振動反応直前に酸化皮膜が減少していることがわかりました。しかし、このピークはとても小さいものであるため、検証が必要であると考えています。

 

マグネチックスターラーで溶液をかき混ぜて再現性をさらに高める

さて、これまでの研究は昨年の5月から8月に行われたものです。その後、昨年10月に更にきれいな動画を撮影するために同様の実験を行ったものの、同様の方法を用いても振動反応を起こすことができませんでした。

 

そこで、溶液の流れを起こすために、次はマグネチックスターラーを用いて溶液をかき混ぜて実験を行いました。

 

これはその時の反応の様子です。

 

これは鉄板を銅板とつないで電池を形成した時の反応の様子です。鉄板表面に注目すると気体の発生が確認できます。この反応をみることで表面が一瞬暗く変化したのが気体の発生によるものであることがわかりました。 

そして、表面の一部だけが反応する振動反応も確認されました。動画から、反応した部分だけが変化していることがわかります。

電池を形成せずに濃硝酸に入れた時の反応です。スターラーを止めた時との反応の違いも確認できます。 

まとめです。

 

硝酸の振動反応は硝酸濃度が大きいと周期が長く安定した反応となります。濃度が低いと周期が短く不安定で振動が長続きしない反応となります。振動反応時に表面で気体が発生していることがわかりました。振動反応において電圧が低下する時、鉄表面の酸化皮膜も溶解し、減少することがわかりました。溶液内に流れが生じると、振動反応が起こりやすいことが確かめられました。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

1年生の時に行った不動態の研究を2年生でも続けようと新たな実験を始めた時に、たまたま顧問の先生も見たことのない反応(振動反応)が現れたので、この反応について研究を始めることにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり3~4時間で約5か月間です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

1回の実験にかかる時間が長く、1日1~2回しかできなかったため、データを得るのに苦労しました。また、その日によって振動が起こる条件が違うため、最後まで安定した実験結果を得ることができませんでした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

・振動反応は不安定で起こしにくいので、できる限り条件を等しくするために、鉄板の処理や溶液の準備などの役割を固定して行いました。

・溶液をかき混ぜたり、スターラーを用いたりすることで、振動反応が起こりやすくなりました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「鉄‐硝酸反応における化学振動」石渡信吾(日本物理学会講演概要集56(1-2), 265, 2001-03-09 )

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

3年生の活動は終わりとし、後輩に引き継ぎました。自分たちの研究も参考にしながら、様々な実験に取り組み、さらなるメカニズムの解明を目指してもらいたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

基本的に活動日は月・水・金の週3日です。部員が複数のグループに分かれ、それぞれでテーマを決めて研究しています。その他に、旭川市科学館サイパルで子供に向けて、学校祭で学校の生徒、一般の方々に向けて実験教室を行っています。

 

■総文祭に参加して

 

全国から自分たちと同じく自然科学について研究している高校生が集まるこの総文祭に参加することができ、とても良い経験になったと思います。研究はどれも非常にレベルの高いものであり、同じ高校生が発表していると思うと、非常に大きな刺激を受けました。他にも、震災の被害を受けた地域に行き、地震についての講義を受けることで、実生活と科学の繋がりを学ぶことができました。今回得た様々な経験を忘れず、将来生かしていきたいと思います。

 

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