みやぎ総文2017 自然科学部門

小学校理科でも扱う「糖類」なのに、判別できない・・・とは言わせない私たち!

【化学】兵庫県立宝塚北高校 化学部

左から 福岡美海さん(2年)、水田千尋さん(3年)、 新谷美波さん(3年)、高津舞衣さん(1年)
左から 福岡美海さん(2年)、水田千尋さん(3年)、 新谷美波さん(3年)、高津舞衣さん(1年)

■部員数 5人(1年生2人・2年生1人・3年生2人)

■答えてくれた人 水田千尋さん(3年)

 

糖類を定性的かつ簡単に判別できるか

身近な糖類、でも判別方法は難解?

私たちは、学校で砂糖や食塩、陽イオンの判別方法について学びました。

 

しかし、糖類どうしの判別方法については教科書にあまり記載がありません。

 

また、既存の方法では高価な実験機器が必要だったり、毒性の高い試薬を用いたりするため、気軽に実験ができるものではありませんでした。

そこで、糖類を理科室にあるものを使って安全かつ簡便に定性的に判別する方法を考え、判別のためのフローチャートを作成することにしました。

 

本研究では11種類の糖類を用います。

これらの糖類に対して教科書から既にわかっている内容を表・フローチャートにまとめました。

二糖と単糖の判別は加熱から

 

二糖と単糖の判別方法について紹介していきます。

 

まず、糖のカラメル化(加熱により糖が褐色化すること)を利用して判別を試みました。

 

糖を加熱したところ、160℃以上で反応が起きました。反応にはそれぞれ大きな違いが見られました。

 

まずは、還元性のない糖に関してまとめます。

 

加熱した時に、融解して茶褐色になるものがスクロース、一部溶け残ってしまうものがトレハロースです。

 

次に、還元性のある糖に関してまとめます。

 

加熱した時に、一部のみ融解して茶褐色になるものがラクトースで、それ以外の5種はほぼ融解しました。

 

これら5種に関しては色・状態からの判別は難しいと判断し、これらに対しては別の判別方法を考えていきます。

 

この時点で、マルトース以外の二糖については判別ができています。

 

よって、「浸透圧は絶対温度とモル濃度に比例する」というファントホッフの法則を用いて、二糖と単糖の分子量の差に着目した判別法を考えました。

 

しかし、浸透圧の測定には長い時間を要する上、多量の糖を使用するため気軽な実験とは言えません。

 

ユキノシタの葉を使用した実験

そこで、私たちはユキノシタの葉の原形質分離に着目しました。

 

ユキノシタの葉は体積パーセント濃度8~12%スクロース水溶液と等張です。

 

水溶液の浸透圧がユキノシタの葉よりも小さい時は原形質分離を起こさず、大きい時は原形質分離を起こすと考えられます。

 

二糖(分子量:342)は単糖(分子量:180)の約2倍の分子量を持つことから、体積パーセント濃度7%の水溶液を作れば理論上、二糖と単糖の判別ができることになります。

 

そこで実際に7%の糖水溶液で観察した結果です。

 

マルトースの水溶液の場合、ほとんどの細胞で原形質分離は確認されなかったのに対して、ガラクトースではほとんどの細胞で確認されました。

 

これら以外の糖でも試したところ同様の結果が得られました。

 

よって、二糖と単糖はユキノシタの葉の原形質分離を利用して判別することができると確かめられました。

 

ここまでで、二糖は全て判別することができました。

 

これ以降は単糖の判別について考えます。

 

単糖の判別はエタノールが鍵

そこで私たちはエタノール水溶液を用いて実験しました。糖はエタノールに溶けくいので、糖の溶解度を下げることができると考えたためです。

 

様々な濃度のエタノール水溶液4mlと糖の結晶0.1gを混合したところ、70~75%のエタノール水溶液を用いると判別ができることがわかりました。

酵素を利用した実験

次に、単糖の立体構造に注目し、酵素の基質特異性を利用することにしました。

 

ガラクトースが他の単糖に比べて複雑な解糖経路を持つことがわかったので、解糖速度に違いが出るのではと考えました。

 

そこで、解糖系を安全に観察することができ、身近な微生物でもあるパン酵母を用いて実験を行いました。酵母懸濁液に各糖類を入れ発酵の様子を観察しました。

 

すると、容易に手に入るどの会社のパン酵母を使用した場合もグルコース、フルクトース、マンノースで発酵が起こり、ガラクトースでは起こりませんでした。

 

よって、この実験を行うことでガラクトースを判別することができるとわかりました。

 

マンノースとフルクトースの判別

以上の実験からでは判別ができなかったマンノースとフルクトースですが、文献から融点に違いがあることがわかりました。そこで、2つの融点の間に沸点を持つ水溶液を用いて加熱をすることで判別できると考えました。

 

様々な電解質水溶液を調べたところ、108℃を沸点とする飽和NaCl水溶液が適していることがわかりました。

 

結果です。フルクトースのみ緩やかに融解していき、他の単糖は融解しませんでした。

よって、この実験からマンノースとフルクトースを判別することができるといえます。

 

簡単・安全・定性的・安価・少量・・・五拍子揃った実験結果

結論です。

 

簡単かつ安全に定性的に、さらに安価で少量で行える、これまでの実験をまとめたフローチャートは下図です。誰でも判別ができるような手順になっています。

 

 

 

よって、化学的手法と生物学的手法を組み合わせることより、一般的な高校の理科室にあるものを用いて糖類を判別することができると言えます。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

もともとは、カラメル化の色と甘さの関係について調べようとしていたのですが、カラメル化の色や様子が糖によって違うことに気が付き、少し広げて糖の性質を調べました。なかなかうまくいかなかったのですが、出たデータを整理しているうちに、今まで出た実験データを組み合わせたら糖類を定性的に判別できるのではないかと気が付き、そこからこのテーマに行きつきました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

このテーマに行きつくまでの時間も含めると約1年間、糖に関する研究を行ってきました。この期間、平均して1週間あたり約16時間を費やしました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

当初は実験をしてもよくわからないデータばかり出ていて、いろいろ試しても見通しが立たなかったことが辛かったです。一方で、今のテーマに落ち着いてからは、たくさんのデータを取って考察をした中から、わかりやすくプレゼンできるように発表内容を整理し、発表時間の12分以内に収めることに苦労しました。あとは、わずかなしかない研究費の大部分投じて購入した測定機器が役に立たなかったことはつらかったです。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

化学分野での発表でしたが、研究費がほとんどないという弱点を解決するために生物を利用することで、結果的に高価な実験機器や試薬を使わずに済んだという点です。今回は発表に入れませんでしたが、物理学的手法も取り入れたりしました。このように分野にとらわれずにいろいろ試していることが私たちの強みだったと思っています。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1)高校理科教科書「化学」井口洋夫 他 (実教出版)

2)「改訂版フォトサイエンス化学図録」数研出版編集部 編集 (数研出版)

3)「薄層クロマトグラフィーによる糖質の分離挙動と食品試料への応用」

 山崎光廣、宮崎博、佐藤宗衛(分析化学37(11): 121-127. (1988))

4) 「加熱速度や加熱温度がカラメルソースの色・味に及ぼす影響」

 大井裕子 他(家政学雑誌36(2):81-86. (1985))

5)「生物」嶋田正和 他  (数研出版)

6)「フォトサイエンス生物図録」 鈴木孝仁 監修(数研出版)

7)「ヴォート生化学(上)第2版」 Donald Voet、Judith G.Voet著、

  田宮信雄 他訳 (東京化学同人)

8)「生化学辞典(第4版)」 今堀和友、小川民夫 監 (東京化学同人)

9)「IUPAC-NIST Solubility Database, Version 1.1」

  http://srdata.nist.gov/solubility/   (2017.4.1参照)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

私たち3年生は受験があるので、一度研究から離れます。今、後輩たちは私たちが詰め切れなかった各糖の性質の違いについて研究をしています。まずは、去年時間切れで明らかにできなかったところを新しい方法を取り入れてやっていると聞いています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

研究に直接関係ないことでも、身近なことに疑問を持っていろいろ楽しみながら実験しています。それ以外にも、学校行事等で科学実験ショーを行ったり、科学の祭典などの科学ボランティア活動にも取り組んだりしています。

 

■総文祭に参加して

 

まずこのような経験をさせてくださった運営スタッフの皆さん、研究を進めるのに協力してくださった方々、そしてみやぎ総文で交流できた全国の研究活動を行っている高校生のみなさん、ありがとうございました。昨年のひろしま総文に引き続き、みやぎ総文に参加して全国のみなさんと交流できたことは、とても言葉では表せないくらい貴重な体験でした。

 

そして、本大会に出場するにあたって、最後の最後まで実験や発表練習に付き合ってくれた後輩や卒業生の先輩方、指導してくださった先生方、そして最初は手伝い係として入ってくれたのに最後まで付き合ってくれたもう一人の発表者には感謝しきれません。本当にありがとうございました。

 

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