みやぎ総文2017 自然科学部門

ネットで見つけた「コーラ+牛乳→透明コーラ」。現象の裏には複雑なメカニズムが !

【ポスター/化学】石川県立七尾高校 SSC

左から 松井遼圭くん、古木智大くん(3年)
左から 松井遼圭くん、古木智大くん(3年)

■部員数 134人 (1年生47人・2年生47人・3年生40人)

牛乳タンパク質の凝集について

「コーラの酸で牛乳が凝固する」本当にそれだけか?

コーラに牛乳を加えると、コーラが透明になることがYouTubeなどの動画でよく知られています。この現象には、牛乳が凝固し、その凝固物に色素が吸着するという二つの段階があります。私たちは、牛乳が凝固する原理を解明することを目的として研究を行いました。

 

まず酸により牛乳が凝固するかどうかを確認しました。コーラは酸性(pH2.2)であることから、ふつうは酸によってタンパク質が凝固したと考えられ、インターネットにもそのような説明があります。私たちは、この検証のために、コーラに含まれる酸である炭酸とリン酸に牛乳を加えて、同様の凝固が起きるかを確かめました。

 

下図の通り、炭酸水はpH4.54で、リン酸は濃度に関わらずpH4.0~4.5付近で牛乳の凝固が起きることがわかりました。


ここで、改めてコーラによって牛乳が凝固するタイミングを調べたところ、pH2.5付近とpH4.5付近の二箇所で凝固が起こっていることがわかりました。以上のことから、pH4.5付近の凝固は、炭酸とリン酸によって生じるものだと考えました。

炭酸とリン酸だけでなく、もう一つ凝固の原因物質があった

続いて、pH2.5付近での凝固を解明しました。複数の大学の先生に相談したところ、大阪大学の後藤祐児先生が、コーラにはポリリン酸塩が含まれ、テトラポリリン酸ナトリウムは牛乳を凝固させることを教えてくださいました。そこで、ポリリン酸塩で実験を行ってみることにしました。

 

※クリックすると拡大します

 

濃度を変えて実験を行ったところ、凝固の有無は上図のようになり、ポリリン酸塩はpH2.5付近で牛乳を凝固させることがわかりました。

 

また文献から、コーラには凝固に必要な濃度を上回る濃度でポリリン酸塩が含まれていることがわかりました。以上から、コーラと牛乳を混合したときにpH2.5付近で起きる凝固の原因はポリリン酸塩にあると考えられます。

 

不可逆性の凝固ではなく、もっと別のメカニズムが働いているのでは??

この現象の理由を以下のように考えました。

 

牛乳に含まれるタンパク質のうち、80%はカゼインと呼ばれるタンパク質です。カゼインは、多数集まってミセルと呼ばれる大きな粒子を形成します。これをカゼインミセルと呼びます。カゼインミセルの表面電荷は周囲のpHによって変化し、等電点であるpH4.6以下だと正に、pH4.6以上だと負に帯電します。通常では、多くのミセルが負に帯電しているため、お互いに反発し、コロイド粒子として適度に牛乳の中に散らばって存在しています。

 

今回問題となるpH2.5では、カゼインミセルの表面は正に帯電しています。しかし、コーラに含まれるポリリン酸は、電離して多価の陰イオンになっているので、それがカゼインミセルに吸着すると、電荷が打ち消されて表面電荷が0になります。すると、お互いの反発力がなくなり、凝集すると考えられます。

 

一方、pH4.5では、上で述べたカゼインミセルの凝集と、タンパク質の酸変性(pHの変化によって性質そのものが変わってしまう現象)という二つの可能性が考えられます。

カゼインミセルの凝集であれば、pHを変えれば再び表面が帯電し、溶解すると考えられます。一方で、酸変性は不可逆であるので、pHを元に戻しても凝固したままになると考えられます。そこで、牛乳を一度酸によって凝固させた後に、酸や塩基を加えてpHを変える実験を行いました。

 

牛乳に塩酸を加えてpH5.0付近で凝固させ、得られた凝固物を3等分して1×10-2mol/Lの塩酸(撹拌後pH1.98、以下同)、1×10-4mol/Lの塩酸(pH5.28)、1×10-3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(pH7.12)を加えて撹拌し、凝固物の有無を確認し、pHを測定しました。

 

その結果、牛乳をpH5付近にすることで取り出した牛乳の凝固物は、pH2付近、pH7付近では再び溶解することがわかりました。

 

※クリックすると拡大します

 

以上のことから、牛乳の凝固はやはり酸変性によるものではなく、カゼインミセルの凝集によるものであることがわかりました。今回は牛乳の凝固について調べましたが、実は他にもミセルの凝集によって起こっている現象もあるのではないかと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

インターネットで「コーラに牛乳を加えるとコーラが透明になる」という現象の動画を見て、単純に現象のおもしろさにひかれて研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1週間あたり平均5時間で、1年6か月です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

大学の先生方に聞いてもすぐにはわからないような、コーラに含まれる様々な物質の中から結果に影響を及ぼしている物質を特定すること。目的に沿った実験系の考案や試薬の調整など実験に関すること。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

コーラに牛乳を加えて牛乳が凝固したとき、コーラは酸性(pH2.2)なので、普通は牛乳が酸変性して凝固したと考えられがちです。しかし、異なった二箇所のpH(pH2.5付近、pH4.5付近)で牛乳タンパク質(カゼイン)が凝固し、さらにその仕組みがそれぞれ異なった原理によるコロイド粒子の凝集であることを明らかにすることができました。

また、このことから、身近な現象でも多くの人が誤解していることがあるので、深く考察してみる必要があるということを示すこともできました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1)youtube「透明コーラを作ったら予想外のことが起きた」(参照2017-5-3)

2)日本コカ・コーラ ホームページ 「コカ・コーラ」(参照2017-5-3)

3)「牛乳とタマゴの科学」 酒井仙吉 (講談社ブルーバックス)

4)特許検索 「高ガス圧炭酸飲料」(参照2017-5-3)

5)「食品の乳化-基礎と応用-」藤田哲(幸書房)

6)高等学校「科学と人間生活」におけるサポート資料「タンパク質の凝固」

 (参照2017-5-8)

  

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

現段階では続ける予定はありませんが、機会があればさらに発展させたいと考えています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

春、秋の実験実習セミナーへの参加、小中学生向け実験セミナーの開催など。

 

■総文祭に参加して

 

じっくりと質疑応答ができるというポスター発表の利点を生かして、研究の内容を深く理解してもらうことができました。中には非常に鋭い質問もありましたが、自分たちの研究を見直す良いきっかけとなりました。また、特に、同じ高校生で研究に非常に興味を持ち、高く評価してくださった方がいて、研究の面白さが伝わったと実感することができ、自分たちにとって大きな喜びになりました。

 

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