みやぎ総文2017 自然科学部門

石灰岩に刻まれた古生代末期の海面変動を追う

【地学】海城高校(東京都) 地学部

■部員数 11人(2年生6人・3年生5人)

■答えてくれた人 増田英敏さん(3年)

 

栃木県葛生地域に分布する礁性石灰岩の形成環境

2億7000万年前、栃木県・葛生地域は海の真ん中にあった?!

この研究では、栃木県・葛生地域の礁性石灰岩がどのように作られ、どのような過程を経て今の場所にあるのかを調べました。

 

礁性石灰岩とは、皆さんがご存知の石灰岩の中でも、サンゴ礁など、「生物礁」が石灰岩として保存されたものを指します。今回対象にした礁性石灰岩は、堆積した当時は海洋の真ん中にあったはずであり、大陸の局地的変動の影響を受けにくいため、かつての海洋環境を明らかにするカギになります。最終目標としては、礁性石灰岩が堆積したペルム紀末期の海洋環境を明らかにしたいと考えています。

 

はじめに、葛生地域の地質を説明します。

 

葛生地域は栃木県佐野市にあり、ここにはペルム紀の海山-礁複合体が分布しています。これは、かつて海山であった火山岩の上に、礁である石灰岩(鍋山層)が乗っている状態です。葛生地域には、現在稼働中の石灰岩採石場が多数あります。

 

今回対象にしたのは、スライドでは水色で示されている鍋山層です。岩相によって上・中・下部の三部層に区分されます。中部層は変質を受けており、堆積当時の構造が残っていないことから、研究の対象外とします。また、これらは赤道付近で堆積し、プレートに乗ってジュラ紀に現在の日本の位置へ移動したことが先行研究で明らかにされています。 

研究の方法としては、まず葛生地域で野外調査を行い、サンプリングの他に、マップと柱状図を作成しました。石灰岩は47サンプルを処理し、薄片と、必要に応じて研磨片を作成しました。また、石灰岩の酸処理を行い、ケイ酸塩の粒子を抽出するなどしました。これらの結果から、石灰岩形成環境を推定していきました。 

まず前提となる堆積場が移動していくメカニズムを説明します。

 

先ほど、火山島上で堆積したとお話ししましたが、堆積場は海洋プレート上にあるため、その動きに従って大陸に近づいていきます。大陸への接近に伴って泥岩が堆積し、その後大陸に付加します。 

石灰岩の形状が語る太古の海の姿

各層の石灰岩について見ていきます。

 

はじめに、下部石灰岩部層の岩相について説明します。ここでは2タイプの石灰岩と凝灰質砂岩が観察されました。

 

石灰岩(1)は、比較的大きな粒子の間を、より細かい石灰泥という微粒の炭酸カルシウム粒子が埋めていました。すなわち、こういった細かい粒子が流されないような、流速の小さい穏やかな環境での堆積だったことが推定されます。

 

ただし、ここには造礁生物の大規模なコロニーは確認できませんでした。そのため、何が礁を作っていたのかはわからない状態です。

 

石灰岩(2)は一部の層準でのみ観察されました。このことから、その層準が堆積したときのみの、いわばイベント性の形成要因が影響したと考えられます。こちらは微粒な粒子を欠いており、化石が密集していたり、植物片化石が産出したりすることから、ストームなどの影響を受けて高流速下で堆積したものと推定されます。

 

凝灰質砂岩は、下部層の中でも特に下の層でのみ観察されました。おそらく、堆積の基盤となった火山島が侵食され、その粒子が流れ込んで再堆積したものと考えられます。

 

これを図解したのがこちらのスライドです。

 

濃いグレーの部分が火山島で、その周りを礁が取り囲んでいます。礁が外の海と中の海(ラグーン)を区分しています。礁のおかげでラグーン内では静穏な環境で堆積が起こり、おそらく鍋山層もここで堆積したのではないかと考えられます。また、海山からは侵食粒子が流入したと思われます。 

上部石灰岩部層では、さきほどの石灰岩(1)のみが産出され、化石の保存も良好でした。このことから、ここもやはり静穏な環境で堆積したことが推定されます。

 

また、凝灰質砂岩が見られなかったことから、堆積時点で火山島が水没しており、礁がそれを被覆していることが示唆されます。また、一部では二次堆積性の岩石が見られました。こちらはおそらく岩体が堆積後にどこかで崩壊したか、あるいは侵食されて再堆積したものと考えられます。  

 

下図が上部石灰岩の堆積環境の図解です。

 

火山島が沈降し、それを礁が覆っているという形で描いていますが、どの程度まで礁が発達していたかは、現段階ではあまり詳しくわかっていません。 

上図の白い部分を拡大したものが下図です。礁の形態は、おそらく環状に発達した「環礁」で、その中で堆積していたと考えられます。 

上部石灰岩の上は中生代の堆積岩が覆っています。

 

下図は礫質石灰岩で、鍋山層に由来する石灰岩とチャートの礫を含んでいます。こちらの礫が円磨されず角ばっていることから、長距離運搬されず、現地で再堆積したものと考えられます。

 

また、礫の間を埋める微粒子である基質が、葉理を持つものであったり細かい石灰岩を含む砂質であったりと一様ではありません。このことから、再堆積時の環境が異なる複数回の再堆積があったのではないかと考えられます。これは石灰岩が侵食されたことを示すので、火山島が隆起した、あるいは海水準が低下したことを表しています。

 

礫質灰岩の上には珪質頁岩があります。これは一連のユニットの最上部をなすもので、泥の粒子と放散虫殻から構成されます。さらに海山が大陸に接近したことから、泥の粒子が届くようになって堆積したものと考えられます。

 

海山の隆起と海水準低下について、海水準のグラフを示します。

 

青い部分が鍋山層が堆積したと考えられている期間です。その後、海水準が大きく低下していますが、この低下に伴って鍋山層が侵食された影響で、礫質石灰岩が形成されたのではないかと考えられます。 

海洋上の火山島がプレートに乗って大陸へ

以上のことから、この地域の礁性石灰岩の形成をまとめます。

 

最下部では火山島の侵食と、その粒子の流入が示唆される凝灰質砂岩が観察されました。

 

その上にいくにしたがって、静穏な環境での堆積を示す下部・上部石灰岩があり、下部石灰岩では一部では波浪の激しい環境下での堆積も見られました。上部石灰岩ではそのような岩相は見られず、一方で礁の発達が示唆される岩相が見られました。

 

その上を、侵食の不整合を挟んで礫灰岩が覆っており、これは鍋山層の陸上露出と侵食・再堆積を示すものです。

 

その上は珪質頁岩が覆っており、大陸への接近が示されています。さらに、鍋山層を覆う礫質石灰岩の存在から、当時の海水準が低下したことも示されます。

 

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

3学年上の先輩が、同じ石灰岩から産出する微化石について研究していました。中高で部活が合同のため、中学2〜3年生の頃に僕もその研究を手伝っていたのですが、ひょんなことから研究を引き継ぐことになり、自分なりにどうその石灰岩を研究していくか考える過程でこのテーマに決めました。最初は、先輩の研究していた化石(生き物)がどういう環境にいたのかという興味が主だったと思います。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

週4時間程度やっていました。サンプルの処理にかなり時間がかかる研究なので、部員にも手伝ってもらったのですが、それでもかなり時間がかかりました。研究を引き継いだのがちょうど3年前だったのですが、このテーマで本格的に始動したのは2年前くらいでした。 

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

岩石薄片の製作です。岩石を厚さ0.03mmまで薄く磨いたプレパラートで、これを使うと顕微鏡で光を透かして観察することができます。数mm程度までは岩石カッターを使って薄く切ることができますが、それ以降は手作業で、研磨しすぎて岩石部分がなくならないように注意しながら、慎重に作業していきます。時間も限られる中、十分な数が用意できたとは到底言えないのですが、手伝ってくれた部員たちには感謝しています。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

海水準変動についての部分です。残念ながらあまり深く扱うことができなかったのですが、研究中、個人的に最も興味を惹かれた部分でした。この研究はローカルな地質の研究ですが、海水準変動は汎世界的なものです。当初想定していなかったグローバルな環境変動に触れることができ、少し感動しました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

葛生地域では石灰岩やそれに含まれる化石の研究が盛んで、数十件の先行研究がありますが、なるべく多くの文献を読んで情報を得ようと、入念に文献調査を行いました。特に、小林文夫先生の論文は似たテーマなので、参考にさせていただきました。

 

「栃木県葛生地域の鍋山石灰岩の岩相と堆積環境について」小林文夫 (地質学雑誌、第85巻、pp.627-642.1979)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

自分はもう高3なので、部の研究という形で進めていくことはないのですが、後輩が引き継いでくれることになっています。葛生の石灰岩は苦灰岩という岩石に変質した部分があり、変質の影響でこれの堆積環境を復元するのは容易ではないので、今までは扱っていませんでした。後輩はそれについて化学的な視点からも研究していきたいそうです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

研究活動としては、学校付近の湧水、雲、夜空の明るさについての研究を行っています。フィールドワークにもよく出かけるのが特徴で、湧水の観測は10年近く継続して行うなど、外での観測、調査などのデータを大切にしています。

 

■総文祭に参加して

 

都道府県予選を勝ち抜いてきただけあって各発表レベルが高く、刺激を受けながら楽しんで聞いていました。発表以外にも、巡検で訪れた被災地、石巻・女川で復興途上の街の様子を見ることができたのも良い経験でした。後輩たちにも、総文祭に出て良い刺激を受けてほしいなと思います。

 

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