みやぎ総文2017 自然科学部門

6年間の研究成果が高校物理の教科書に載ることが決定! レンズが作り出す『副実像』の徹底解明

【物理】熊本県立宇土高校 科学部物理班

左から 柳田悠太朗くん(3年)、成松紀佳さん(3年)
左から 柳田悠太朗くん(3年)、成松紀佳さん(3年)

■部員数12人(1年生4人・2年生3人・3年生5人)

■答えてくれた人 柳田悠太朗くん(3年)

 

“副実像”の写像公式化の研究~捉えた!ゴーストの出現位置~

TVドラマにあらわれた心霊写真の正体は…

この画像はNHKドラマ「中学生日記」のワンシーンです。画面中央の棚の奥に人の顔が写っています。放映当時、心霊写真ではないかと話題になりました。しかし今回の私たちの研究でここに映り込んだ像は「副実像」という特殊なレンズゴーストの可能性が高まり、私たちの研究によってそのゴーストの出現位置の予測もできるようになりました。

 

私たちの部は6年前、凸レンズの焦点距離を測る実験中に、レンズの前方・後方にある2つの小さな倒立像に着目し、これらがスクリーンに映ることを発見しました。つまり、この2つの像は普通の実像とは別の、新たな実像でした。そこでこの2つの新しい実像を「副実像」、従来の実像を「主実像」と命名しました。

 

さらに、片面だけ反射を抑制する特注のレンズで実験したところ、この副実像はレンズ内での1回反射と2回反射した後に結像したものであることが判明しました。

 

さらに、副実像についていくつかの興味深い性質を発見できました。まず、光軸から離れた光源でも副実像は出現します。また主実像の焦点距離の内側に光源があっても実像として存在します。さらにレンズの焦点距離に関わらず、ガラスの臨界角の2倍である84°で出現し、光源とは対照的に移動することもわかりました。

 

すべてのパターンのレンズで副実像の出現位置の数式表現に成功!

これらの私たちの部の先行研究を踏まえて、私たちはさらに副実像の出現メカニズムについて研究を深化しようと試みました。具体的には、なぜ焦点の内側に光源を移動させても前方の副実像が存在するのか、そしてどこに副実像が出現するのかを解明することを目的としました。

 

まず、どこに副実像が出現するのかを数式で表現することによって理論的に予測し、実験値と比較しました。この理論式を導出するためにシステム行列による光線追跡という手法を使い、レンズの凸部が前向きと後ろ向きのそれぞれについて前方と後方に現れる副実像、4パターンについて計算しました。

 

この行列計算は文字を含んだため、手計算で行う必要がありました。手計算によるミスを防ぐために、班員全員の結果が一致することをすべての計算において確認しました。

 

 

平凸レンズのモデル化を例に挙げると、光線がレンズに入射する「平面入射」、光線がレンズ後方にまで移動する「転送」、レンズ後方で反射する「球面反射」、反射した光線がレンズ前方にまで移動する「転送」、レンズ前方から出る「平面射出」のように、光線がレンズで反射する各手順をスライドのようにモデル化しました。

 

また、αパターンでは平面入射/射出が単位行列となるので省略されています。これに各種値を代入して計算を進めると、以下のように、写像公式と同じ形の式を得られました。

 

これを実験で実際に測った副実像の出現位置と比較したところ、実測値と理論値はほぼ一致し、薄肉モデルよりも厚肉モデルのほうが正確であることを確認しました。

 

今回は、凸レンズと平凸レンズについて計6パターンの副実像の出現位置を数式化することに成功しました。また、凸レンズの式については、来年度の物理の教科書に載る予定です。

 

さらに、前方と後方で曲率半径が異なるレンズについても検証を行いました。後方の副実像を例に挙げて説明します。前方の曲率をR1 、後方の曲率をR2として、以下の様にモデル化しました。このR1、R2の両方または片方をRや∞(平面)として代入することで、凸レンズ、前方凸の平凸レンズ、前方平の平凸レンズの後方の副実像の出現位置の公式を導くことができました。すなわちこの前方、後方の副実像の式を使って先ほどの6種の公式すべてを導くことができました。

 

顕微鏡を覗くとき、まつ毛が写り込むのも副実像のしわざ

さらに、副実像に対応する焦点として副焦点を定義しました。副実像は魚眼効果とレンズ内の反射によって結像しているので、従来の焦点のような平行光線による定義は困難でした。そこで光源が十分に離れた状態での副実像の出現位置を副焦点と定義しました。

 

先ほどの公式で説明すると、aを無限としたときのbの値となります。

 

副焦点が存在する証拠を得るために2種類の実験を行いました。まずiPadのカメラ周辺にキャラクターの絵を貼り、そのまま写真を撮ると、絵が光源の役割を果たし、副実像の虚像を撮影できると考えました。同様にして、顕微鏡の鏡筒を覗き込むようにして写真を撮ります。こちらも先ほどの実験と原理は同じで顕微鏡から出てきた光がキャラクターに当たり、キャラクターが光を反射します。すると顕微鏡の接眼レンズについて、副実像の虚像が撮影できると考えました。

 

結果、以下のように正立したキャラクターの像が写真に写りこみ、副実像の虚像が写ったと結論付けました。

 

このような現象の身近な例を考えました。顕微鏡を覗き込むときに、大きなまつ毛が映り込むことはありませんか。これは先ほどと同じ原理で、副実像の虚像であると考えます。まつ毛は顕微鏡から出る光が当たることによって光源となり、接眼レンズ付近に拡大・正立した虚像が出現すると考えました。

 

昆虫も副実像を見ているらしい!

さらに、ある研究発表の場で「人間も副実像を見ている可能性はあるのか」との質問をいただいたことから、人間の目に似た昆虫の単眼を研究することになりました。昆虫といえば複眼が有名ですが、今回は私たちの地元に生息している3種の昆虫の単眼について観察しました。

 

 

具体的な観察方法に関しては下の通りです。

 

今回使用したアブラゼミを例に挙げて説明します。実際に顕微鏡で観察したところ、前方と後方の曲率半径を求めることができました。こちらを先ほど求めた前方/後方で曲率半径の異なる副実像の出現位置公式に代入します。また、レンズの厚みと屈折率を考慮すると、後方の副実像がどこに現れるかを計算で求めることができます。

 

このようにして求めた副実像の出現位置と、従来の式で求めた主実像の式を比べたところ、今回観察した3種すべての昆虫において、副実像のほうが主実像よりも網膜に近い位置に出現していることがわかりました。この結果から、昆虫が副実像を見ている可能性が高まりました。

 

副実像出現の数式化から広がる、新たな応用の可能性

研究のまとめです。副実像はレンズゴーストの中でも魚眼効果を利用した特別なものであることを明らかにしました。また副実像の位置を数式化し、光線追跡を用いて公式を導出しました。この公式について2通りの計算方法から結果が一致することを確認し、すべての副実像の写像公式化に成功しました。

 

また、副実像に対応する焦点として副焦点を定義し、副実像の虚像をカメラで捉え、光源と比べ正立しており、拡大されていることを証明すると同時に、導出した数式と身近な道具を用いた実験から副焦点が存在することを確認しました。

 

さらに昆虫の中でも大きな単眼を持つアブラゼミ、トノサマバッタ、オオスズメバチを調査し、単眼の形状を確認し、副実像の出現位置の計算を公式に基づいて行いました。その計算結果と染色後の画像から決定した網膜の位置から、調べたすべての昆虫において主実像よりも副実像が網膜に近い位置で出現しており、昆虫が副実像を見ている可能性が高まりました。

 

今後もさらにこの副実像の性質を調べるとともに、その応用に関しても研究していきたいと思います。具体的には、今回の研究の中で話を伺った、レーザーについて研究している教授に教えていただいた、レーザー光を使用する際の謎のレンズ焼けに副実像が関わっていると考え、これについて研究していきたいと思います。他にも副実像は光軸から大きく離れていても映り込むため、新たなセンサーとして利用できると考えます。さらに昆虫の単眼のような小さなレンズでも、副実像の出現の有無によって球面かどうかが判断できると考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

科学部では、凸レンズ付近に出現する本来の実像とは異なる2つの「副実像」の研究を6年間続けています。その中で、専門家すら見落としてきていた「副実像」に大変興味を持ち、まだ残っている副実像の謎を解明し、副実像の出現位置を公式化することに、世界で初めて成功しました。人の眼にも副実像は出現するのかという質問などを受け、人の眼や昆虫の持つレンズ眼(単眼)も調べてきました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

放課後は、ほぼ毎日(週5時間程)活動しています。副実像の研究は2011年度にスタートし、この1年間で、これまでできていなかったレンズの厚肉モデルと、数式に間違いがないための実証、また、昆虫の眼を調べたりしました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

レンズの研究者がほとんどおらず、すべて自分たちで調べていること、数式化するのに大学でしか習わない行列を用いているため、手計算に1か月以上、数式の検証に1か月以上費やすことです。昆虫の個体を採集するのにも苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

副実像については、次年度の高校物理の教科書(東京書籍)に「高校生がつくった副実像のレンズの公式」として発展内容の欄に掲載されることが決まりました!!

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1. 2013年度 日本物理学会 第9回Jr.セッション(日本物理學會誌68_2013.3月(27J-8))。

2. 「ヘクト光学Ⅰ -基礎と幾何光学-」Eugene Hecht著、尾崎義治・朝倉利光訳(丸善出版)

3. 「光学 第3 章 幾何光学」黒田和男著

 http://qopt.iis.u-tokyo.ac.jp/optics/3lensU_A4.pdf

4. 「第1 章 幾何光学」八木隆志著

 http://www.sp.u-tokai.ac.jp/~yagi/OpticsandLaser.html

5. 「幾何光学による光線の追跡」狩野覚著 

 http://cis.k.hosei.ac.jp/~kano/

 (このページ内の「光の取り扱い」の中の「光線の追跡」参照)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

副実像の研究は一段落し、今後は別のテーマで行います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

科学部の活動と並行しながら、班のメンバーそれぞれが違うテーマの課題研究にも取り組んでいます。

 

■総文祭に参加して

 

これまで本校は5年連続で全国総文に出場していますが、今回が初のグランプリとなり、先輩たちに恩返しができました。他校の発表も興味深い発表が多く、このような大舞台で発表できたことは貴重な経験となりました。

 

※宇土高校の発表は、物理部門の最優秀賞を受賞しました。
※宇土高校の発表は、物理部門の最優秀賞を受賞しました。

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