みやぎ総文2017 自然科学部門

煎茶のおいしさを長持ちさせるための、「お茶を濁さない」研究

【ポスター部門/化学】徳島県立城南高校 科学部化学班

左から 土居義典くん(3年)、盛裕貴くん(3年)
左から 土居義典くん(3年)、盛裕貴くん(3年)

■部員数 28人(1年生14人・2年生8人・3年生6人)

 

「煎茶の劣化防止を目指して」

煎茶の美味しさは、色、香り、味の3つ要素から成っています。私たちは煎茶が大好きですが、朝淹れた煎茶を保温容器に入れておくと、昼頃には美味しさが淹れた直後と比べて減ってしまいます。これは、色、香り、味の3つの要素が劣化してしまうことが原因です。煎茶は、同じチャノキの葉から作られる烏龍茶や紅茶と比べても、この時間による劣化が大きいことに気づきました。本研究では、数値で表現しやすい色に着目して、劣化を防ぐ方法を考えました。


煎茶の劣化の原因は?

 

まず、煎茶の吸光度(※)を測定し、煎茶の色の劣化の様子を調べました。60℃で保温した場合、時間が経過するとともに緑色の波長(495~570nm)の吸光度が大きくなり、他の波長の吸光度も変化しています。

 

※白色光は様々な波長の光から成っています。物質は、ある波長の光を吸収し、残りの反射された波長の光のみが見える。つまり、色が強く見えるほど、その色の吸光度が小さくなるということです。

 

次に、市販のペットボトル入りのお茶の劣化を防いでいるとされるL-アスコルビン酸は劣化を抑えているのか調べました。しかし、煎茶に加えたところ、吸光度の減少が見られました。これはL-アスコルビン酸が茶自体を変化させてしまっていると考えることができます。

  

私たちは、L-アスコルビン酸が強い還元剤であることから、煎茶の劣化の原因は酸化反応であると予想しました。そこで、酸化反応によって吸光度が変化するかどうかを確かめるために、煎茶に酸素を供給していきながら吸光度を測定しました。しかし、酸素を供給していっても供給していない場合と比べて吸光度の変化があまり変わらないため主な劣化の原因は酸化反応ではないと考えられます。

 

そこで60℃で保温した際には濁りが見られたことから新たな仮説として、劣化は茶に含まれる成分が化学反応を起こして煎茶らしさを邪魔しているか煎茶らしさを失っている、もしくはその両方が起こっていると考えました。

 

そもそも「煎茶らしさ」の劣化とは?

 

煎茶を飲むと、独特の美味しさを感じます。その「煎茶らしさ」とはそもそも何なのかを考えました。そこで、エタノールを溶媒として使用し、浸出液を作りました。抽出した成分(670nm)には、煎茶特有の香りと緑色の成分が含まれていることが確認できました。この成分は温水にはわずかに溶けるものの水に溶けにくいものです。この成分は時間経過によって減少することがわかりました。

 

 

 

 

次に、「煎茶らしさ」であるカテキン類の中でも、煎茶のポリフェノールの主成分、エピガロカテキンガレート(EGCg)に注目しました。EGCg(波長:280nm)の量は、時間経過によって減少していることがわかりました。

 

これは、煎茶の中でEGCgが以下のように、カテキン類と反応してテアフラビン(=紅茶の赤色成分)に変化してしまうことで起こることがわかりました。また、カテキン類が重合して、タンニンという水溶性の低い物質に変わることによりにごりが生まれます。

 

渋柿の水溶性の苦み成分である水溶性のカテキン類を、呼吸・日光などで重合させ水に溶けにくいタンニンに変化させるのに似ています。

 

劣化防止のために

 

私たちは7種類の希少糖それぞれを加えてみることにしました。

 

そして、波長ごとに吸光度がどのように変化したのかを調べてみました。何も加えない場合に比べて糖を加えると元の状態からの吸光度の変化が軽減されD-アロースを加えた場合が最も小さくなりました。

 

また、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)という別の装置を用いて、同じ波長に重なっている、茶の成分ごとの吸光度の変化を調べました。するとこれもD-アロースが劣化を抑えている結果になりました。これらの結果から、先輩の先行研究の糖塩基反応で最も変化が少ない壊れにくいD-アロースが劣化防止に最も効果的であることがわかりました。D-アロースは味への影響も少ないため、常温時の劣化防止剤として災害時などに役立てられるのではないかと考えています。

 

 

もっと研究したい!!極めたい!!!

 

今回の実験では、吸光度を測る際に、劣化したお茶のにごりが障害となってしまったため、にごりのよりよい対策法を考えたいです。また、煎茶の純成分や希少糖に限りがあり、十分に条件を変えて実験することができませんでした。今後の展望としては、希少糖の混合比を変えるなど、劣化防止により最適な方法を探すことができればと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

メンバー全員煎茶が好きで、学校に持って来ている水筒のお茶が昼ごろにはまずくなってしまっていることに不満を持っていました。また同じ条件でも、烏龍茶や紅茶では劣化が少ないことも確認しました。そこで、温かいままの煎茶を劣化から守ることはできないのかと思い、この研究を始めました。さらに希少糖甲子園に参加したことや、先輩の先行研究を見て、希少糖を用いてみようかという考えが出てきました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日3~4時間程度。休みの日には半日ほどすることもしばしばありました。全部で1年5か月ほど研究しました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

UV-Vis分光光度計は透明な液体で測るものなので、お茶をろ過しなければなりませんが、劣化していくにつれてさらに濁ってしまうことに苦労しました。また、高速液体クロマトグラフィーは一つの測定に2時間以上かかることがあり、時間の限られる中でするのは大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

一つは水の代わりにエタノールで茶の香味成分を抽出し、濃縮させることができた点です。また市販品のお茶にアスコルビン酸が含まれていることから、劣化の主な原因が酸化だと仮定して検証実験を行ったところ否定する結果が出たことから、考え直して、煎茶特有成分の変化や壊れにくい単糖による劣化防止の可能性に近づけたという点です。加えて、様々な先行研究を見たり分子模型を組み立てたりして、いろいろな可能性を考えた点などです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・『新版 緑茶・中国茶・紅茶の化学と機能』伊奈和夫、坂田完三、鈴木壯幸、南条文雄、郭雯飛 共著(アイ・ケイコーポレーション)

・『希少糖秘話』  何森 健 (株式会社希少糖生産技術研究所)

・『化学と生物 Vol. 52, No 8, 2014』  細谷孝博、熊澤茂則(公益社団法人 日本農芸化学会)

・『茶生葉紅茶飲料の開発』 静岡県工業技術研究所

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

僕たちは3年生なので、この研究は続けることはできません。また、後輩でこの研究を引き継ぐ人も今のところいません。もし続けていくとしたら、カテキン類の単離に挑戦や、複数のカテキンを組み合わせてNMRで測定してみたいです。今回した実験の条件を変えたりして、さらに細かくデータを取っていきたいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

このような研究活動に加え、中学生対象理科実験教室、中学生体験入学部活動体験、文化祭での実験教室を開いたり、また校外での実験講座や化学グランプリなどに参加したりしています。

 

■総文祭に参加して

 

興味があるからと長い時間研究について質問していただけたり、似た研究をしているからとアドバイスをいただけたりして本当にうれしかったです。また、大学の先生から名刺を頂戴した時は感動しました。残念ながら入賞はできませんでしたが、とても良い経験になったと思います。巡検研修で訪ねた東北大学理学部では、先生方の説明が興味深く、研究室見学なども楽しく、もっと時間をとって欲しいと感じました。自分の研究したい事がここならできると思いました。

 

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