みやぎ総文2017 自然科学部門

手軽で安価な蒸留装置で、水不足に悩む人たちを救いたい!

【化学】 静岡県立三島北高校 科学部

左から 久保智規くん(3年)、鈴木智陽くん(3年)
左から 久保智規くん(3年)、鈴木智陽くん(3年)

■部員数 13人(1年生5人、2年生3人、3年生5人)

■答えてくれた人 鈴木智陽くん(3年生)

 

海水の淡水化装置の開発

ペットボトルと生け花用のフォームで蒸留装置を作ってみた

世界には毎日の飲み水の確保に困っている地域が多くあります。この世界地図のオレンジ色のところは、安全な飲み水が手に入りにくい地域を表しています。そこで私たちは身近なものを使って安全な水を作り出す、海水の淡水化の研究を始めました。

 

従来の淡水化装置には、「逆浸透法」が広く用いられています。しかし、この方法を用いた機器は高価な上に、莫大なエネルギーを必要とします。そこでより早くから実用化がされ、また仕組みも単純な「蒸留法」に目をつけました。蒸留法とは、水を一旦蒸発させて、それを再び凝結させることで純粋な水を手に入れる方法のことです。

 

具体的な手順を説明します。

まず、海水を染み込ませた保水剤を上のペットボトルの中に入れます。日光が装置の反射板によって増幅され、海水の一部が蒸発します。できた水蒸気は外気によって冷やされ凝結します。そして一つの大きな水滴となり下へ流されていきます。

下のペットボトルでは淡水を貯水し、水蒸気の逆流を防止します。保水剤は、日光の受光面積を大きくする役割があります。この利点を生かすために、今回は生け花に使われる「フローラルフォーム」と呼ばれる固型の保水剤を墨汁で黒くして用いました。

 

写真はこの装置です。この装置を用いて3つの実験を行いました。

 

より多くの日光を集めるためには・・・

実験1では、「より多くの日光を照射すれば得られる淡水の量も増加する」という仮説を立て、スライドの3つの工夫によって検証しました。

 

1つ目が傾斜角、つまり地面に対してペットボトルを傾ける角度の変更です。90度と45度に傾けた時の日光の当たり方の違いはこのスライドのようになります。90度の時を基準として、淡水の採取量の比較を行いました。

 

2つ目が反射板の追加です。日光を反射して装置をより加熱します

3つ目が太陽の追尾です。1日に2回装置の方向を変えることによって、太陽の水平方向の動きを追いました。

 

夏場は太陽高度が大きく変わってしまうため、装置の垂直角度を変えることによりこれに対応しました。

これらの実験の結果から、15度に傾けた時に78 %、反射板を加えたことによって52%、水平追尾を行なった時に15%、垂直追尾を行なった時12%もの淡水採取量の増加が見られました。したがって傾斜角、反射板、太陽追尾の3つの条件は確実に採取量を増加させることがわかりました。

 

つまり、傾斜角を小さくし、反射板を付け足し、太陽の水平・垂直追尾を行うことはより多くの日光を装置に照射しより多くの淡水の獲得につながりました。これにより、仮説は立証されました。

 

しかし、ペットボトルは表面が白く曇りやすく、傷もつきやすく、また保水剤が1本しか入りません。

 

ペットボトルに替えてガラス瓶で実験

そこで、実験1における課題を受けて、実験2ではガラス瓶を用いて実験を行い結果を比較しました。ガラスの方が光の透過率が良いため、効率的に加熱ができ、また保水剤の本数と比例して採取量が増加すると考え、以下の実験を行いました。

 

すると、外側の容器の材質をガラス製にすることで採取量は57%増加しました。さらに保水剤を2本にすることで1.4倍、3本にすることによって2.4倍もの採取量の増加が見られました。

 

ガラスには内側表面に凝結した水が膜状となって曇りにくい。また、透明度を保ちやすいという2つの特徴があり、この2つが日光を通しやすいということにつながりより多くの水を蒸発させたと考えられます。さらに、採取量は保水剤の本数にほぼ比例して増加していると言えます。

 

今までは小型の装置を使って淡水化していました。そのため、1台の装置から得られる淡水の量が比較的少量でした。そのため、今度は一定期間に装置1台が採取する水の量を増やすために、大型装置の作成を行いたいと考えました。

 

大水槽と黒いタオルをプラスしてさらに採取量アップ!

実験3では22L水槽を用いました。使用する保水剤を、フローラルフォームを5本使ったもの、フローラルフォームを敷き詰めたもの、黒いタオルを2枚重ねたもの、と3種類用意して比較実験を行いました。

 

すると、保水剤を敷き詰めたものより、黒いタオルを使ったものの方が24%高い結果を得られました。また、黒いタオルを使ったことによって、最大585mLもの淡水を1日に得ることができました。

 

タオルの表面には複雑な凹凸があり、また重ねたことにより隙間が生まれました。これによって体積あたりの大気に触れている面積が大きくなったために、このような保水剤の違いによる淡水採取量の変化が生じたと考えられます。また、22L水槽を使うことによって1日に平均347mL、最大で585mLもの淡水を1台あたり得ることができるようになります。

 

しかし、カメルーンでの実験では・・・

カメルーン在住の青年海外協力隊の藤森様のご協力により、カメルーンによりこのペットボトル型実験を行いました。カメルーンでは4分の1以上の人たちが安全な水を得られていません。まずは26ページにわたる、装置の作り方マニュアル・作り方動画を作成しました。

 

この写真は現地での装置の製作、実践の様子です。

しかし、結果は芳しくなく1時間あたり1mLにも届かない値となってしまいました。

 

2つ理由を考えました。1つ目は、カメルーンは赤道直下に位置しているため、傾斜角を小さくせざるを得なかった。また、現地のペットボトルには横溝があり、これらが原因となって淡水が下のペットボトルに流れ込むのを妨げてしまっていたことです。2つ目に、実験に使ったペットボトルが青色だったため、無色のものに比べて日光の透過を妨げてしまったから、というのも考えられます。

 

現地での実用化に向けて

そこで低緯度地域における対策として、淡水が確実に下のペットボトルに流れ、かつ傾斜角が90度の状態でも日光がペットボトルに当たるように、水平方向の反射板をさらに一枚追加して実験を行いました。

 

すると、39%の淡水採取量の増加が得られました。

 

また、真上からの日光を効率的に受けることを可能にする扁平型装置を、さらにペットボトルや透明の容器がない地域には針金とビニール袋を利用した装置について、現在開発・研究中です。これによって、実際に水不足に悩む低緯度地域の国々でも実用に堪える海水の淡水化装置(汚水の浄化装置)を目指したいと思っています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私たちの学校は、SGH(Super Global High School)指定校で、様々な専門の科目があります。本校のテーマは「水」なのですが、授業を通して、世界中の数多くの人たちが毎日の飲み水に困っていることを知り、驚きました。また、彼らは高度な技術や資金を持たないということも。彼らに少しでも多くの衛生的な水を飲んでもらいたいと思い、科学部での研究テーマを「海水の淡水化」としました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

私が科学部に入部してから始めたので、2015年の4月からです。実験自体ですが、平日は1日に約8時間、放課後は2~3時間の、装置の製作や採取量の計測を行い、休日は表計算ソフトを用いて集計したデータをまとめました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

自然を相手としていることです。装置が陰ると採取量が少なくなりますし、悪天候の日は実験自体が不可能となってしまいます。また、ペットボトルによる淡水化は調べた限り前例がないので、最初は完全に手探り状態でした。装置自体が手作りなので、実験の精度を上げるためになるべく同条件にするのが大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

身の回りにある、誰でも手に入るもので最大限の採取量を得ようとしたことです。具体的には、1.5Lのペットボトルを使い、1日で最大135mLの水を得られました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

ありません。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

これからも科学部で、この研究を継続していく予定です。今度は実際に外国での状況に適した素材や形を検討していきたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

晴れた日には毎日、朝7時30分頃に淡水化装置を渡り廊下に並べて、太陽の動きに合わせて装置の方向を変え、夕方16時頃に回収・計測をし、次回の準備をしました。土日や夏季休暇には、グラウンドワーク三島が主催する源平衛川での生物調査や、三島フォレストクラブが主催する森林塾に参加したり、本校にある小さな池の管理をしたりしていました。

 

■総文祭に参加して

 

会場に入ったときは、プレゼンが制限時間を超さないか不安でした。そこで、本番前、他の高校の発表に自分の姿を投影することで、イメージトレーニングを行いました。発表直前にはわくわくしていました。発表中は勝手に口が動いてしゃべってくれました。あとはそれに合わせて装置を動かして見せ、ジェスチャー、アイコンタクトをするような感じでした。会場全体を見渡すことができ、聞いている人の表情まで読み取ることができました。途中で時間がわからなくなり焦ってしまったことを除けば、満足のいく出来でした。最終的には楽しんでできたと思います。賞が取れず、悔しい思いも少しはあります。しかし、後輩たちがこの研究を引き継いでくれるということなので期待しています。

 

この総文祭に参加して、日本中には科学に対して真摯に向き合って研究を続ける高校生がたくさんいると実感しました。彼らと交流を深め、研究を共有し合うことは良い刺激となり、さらなる研究への意欲が高まりました。大変、有意義な3日間となりました。大学でもこの気持ちを忘れずに、科学について学んでいきたいです。

 

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