みやぎ総文2017 自然科学部門

酸性雨は豊後大野の景観の敵なのか?

【地学】大分県立三重総合高校 自然科学部

■部員数 5人(1年生2人・3年生3人)

■答えてくれた人 玉田彩乃さん(3年)

 

阿蘇溶結凝灰岩に対する酸性雨の影響

学校周辺に降る雨はほとんどが酸性雨だった!

私たちの学校のある大分県豊後大野市は、4万年前の阿蘇山噴火による凝灰岩がいたるところに見られます。この凝灰岩を利用して、石橋や石仏が使われていますが、これらに酸性雨が与える影響について調べました。

 

阿蘇溶結凝灰岩とは、阿蘇山噴火による火砕流から生じた凝灰岩を指します。豊後大野市の凝灰岩の大部分は約9万年前の阿蘇山大噴火によるものとされています。灰色の地に黒い帯状の模様が特徴です。

 

この写真は、私たちの校庭に雨が降る様子です。

 

この雨には、大陸からのPM2.5や阿蘇山の火山性ガスなど、酸性雨の原因物質が含まれている可能性があります。

 

そこで私たちは、酸性雨が阿蘇溶結凝灰岩に与える影響について調べました。

 

はじめに、雨の㏗の測定を行いました。

 

写真のようなバットを用意し、中庭の中央に地面から50cmの高さにセットします。雨が100mL以上たまったら回収し、㏗メーターで測定します。7月から9月の間に18回の測定を行い、結果からグラフを作成しました。

 

横軸が降り始めてからの時間、縦軸が㏗を示しています。

 

文献によると、㏗5.6未満が酸性雨といわれているため、学校周辺に降る雨のほとんどは酸性雨であることがわかりました。

 

次に、㏗ごとの雨の回数を数えると、㏗4前後の雨が多いことがわかりました。

 

このことから、以下の実験で酸性雨は㏗4であるとしました。

 

酸そのものが影響するのか、雨となって降ることが影響するのか

実験に当たって、阿蘇溶結凝灰岩は酸性雨の影響を受けるという仮説を立てました。

 

これを、

(1)酸そのものが影響する

(2)酸性雨となって影響が大きくなる 

の2点に分け、それぞれ岩石の質量の変化から影響の大きさを求めました。

 

まず(1)の酸による質量の変化について調べました。

 

まず阿蘇溶結凝灰岩をよく洗い、天日やデシケーターで乾かします。次に、電子天秤で重さを測ります。そして、㏗6の精製水及び㏗4の人口酸性雨に凝灰岩を入れ、恒温器に1か月間おきました。

 

人口酸性雨は、硝酸と硫酸を用いて作成しました。また、溶液は1週間ごとに取り換えました。1か月後、凝灰岩を取り出して水洗いし、よく乾かしてから重さを測りました。

 

各試料の前後の重量をそれぞれ、反応前の重量を100として相対値で表し、グラフにしました。グラフから、精製水でも人口酸性雨でも同じような傾向であることがわかります。

 

また、質量変化率の最大値と最小値の差が共に大きかったので、それぞれの最大・最小のデータを取り除いて平均を取ると、どちらも0.054と同じ値を取りました。

 

よって、(1)酸そのものが影響する という仮説は否定されました。

 

次に、(2)酸性雨による質量の変化 を調べました。

 

動画のように、ペットボトルを2本組み合わせ、下側には調節ねじの付いた点滴用のチューブを取り付けます。そして、一定量の液体が落ち続けるようにした、人工酸性雨滴下装置を製作しました。 

チューブの下にはシャーレに乗せた凝灰岩を置いておきます。これは、流れる液体の影響を受けないようにするためです。そして、凝灰岩に底を切ったペットボトルをかぶせます。これは、滴下距離を一定にし、かつ周囲の水滴の影響を受けないようにするためです。

 

これらに精製水および人口酸性雨を滴下しました。それぞれの凝灰岩に1日2L、15日間、計30L滴下しました。これは理論的には、約100年分の降水量に相当します。

 

なお、降水量とは降った雨がどこにも流れ去らずにそのままたまった場合の水の深さのことで、単位はmmです。

 

今回の実験では、水滴が約5mmの球形で、直径1.5cmの円内に落ちると仮定しました。すると、豊後大野市の年間降水量のデータから、30L の滴下は約100年分の降水量に相当すると言えるわけです。

 

この実験での反応前後の質量を、それぞれ反応前の質量を100として相対値で表し、グラフにしました。

 

仮説1の検証実験と同様に、減少率の最大値・最小値を除いて平均を求めると、精製水が0.047、人口酸性雨が0.087となります。わずかですが、人口酸性雨の方が大きな値となりました。これは、仮説(2)の阿蘇溶結凝灰岩は酸性雨の影響を受けることを支持します。

 

100年分の雨がもたらす影響から見えてきたこと

考察です。

 

今回、阿蘇溶結凝灰岩に㏗4の人口酸性雨を100年分降らせると、質量減少率がわずかですが普通の雨より大きくなりました。

 

実際には100年間の間に、酸性雨に加えて太陽光や暴風、温度変化、生物の着生など、様々な要因を繰り返し受けることとなります。酸性雨がこれらの要因と複合して起きると、影響はさらに大きくなると考えられます。

 

今回の研究で、阿蘇溶結凝灰岩は水に浸した後の質量変化が大きく、乾燥に時間がかかることがわかりました。今後は、阿蘇溶結凝灰岩の水分の吸収と酸性雨の影響について調べたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

天気予報でPM2.5や阿蘇山の火山ガスの影響が予報として、報道されるようになり、それにともなう酸性雨が、私たちの地元の石橋などに影響を及ぼしたりしないかと考えるようになり、研究しました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日1時間程度で3カ月程度です。土日は5~6時間行うこともあります。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

酸性雨の影響を石の重さの変化で把握することにしましたが、石の重さがなかなか安定せず、何回も測定しなければならなかったことです。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

酸や酸性雨の影響を石の重さの変化で把握しようとした点や、ペットボトルや医療用点滴チューブをくみあわせて、酸性雨的下容器を作って人工的に酸性雨を滴下して実験を行ったところです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

おおいた豊後大野ジオパークの解説書

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回の研究はこれで終わりです。次は植物分野の研究を行う予定です。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

本校の自然科学部は物理分野、地学分野、生物分野、化学分野にかかわらず自然科学全般を研究対象にしています。興味、関心のある分野に何でも取り組んでいます。

 

■総文祭に参加して

 

今回、初めての全国大会で、全国各地から選ばれた代表校による発表大会でしたが、研究の学術性の高さ、実験観察の方法の正確さなど研究のレベルの高さに感心させられました。私たちの発表は上位の賞に入賞することができませんでしたが、このような場で発表する機会をいただいて、貴重な経験になりました。宮城県は九州の大分からではなかなか行くことができないので、そういうところに行くことができてよかったです。

 

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