みやぎ総文2017 自然科学部門

「凝固点降下度は希薄溶液でないと求めることができない」  高濃度ならどうなのか?

【化学】福岡県立香住丘高校 化学部

■発表者 阪本将裕くん(3年)、祐定真衣さん(3年)

■部員数 28人(1年生12人・2年生6人・3人10人)

 

高濃度溶液の凝固点降下 —アルコール溶液について—

教科書の記述への疑問から研究が始まった

凝固点降下とは、純溶液の凝固点よりも溶液の凝固点の方が低くなる現象のことです。どれほど凝固点が下がったかの度合いを凝固点降下度と言います。

 

凝固点降下はなぜ起きるのでしょうか。

 

この図は0℃の水と氷が同時にある状態です。この時、融解する粒子と凝固する粒子は等しくなり、見かけ上氷は溶けません。しかし、これに溶質が加わると、溶質粒子が凝固しようとする粒子を邪魔するため、融解する粒子の方が多くなります。これによって氷は溶け始め凝固点降下が起きます。

 

一般に、凝固点降下度は下図の式で求めることができます。この値は、質量モル濃度に比例します。教科書には「凝固点降下度は希薄溶液がないと求めることができない」と記載されていました。そこで私たちは高濃度溶液ではどうなるのか疑問に思い、研究することにしました。


炭素数が多い方が凝固点降下度が大きい

この実験では、溶媒は水とシクロヘキサン、溶質は立体構造の異なる様々なアルコールを用いました。まず、溶液を測りとります。そして、保温性の容器で冷やしながらグラフを作成し、凝固点を算出しました。

 

溶質の種類は下図のとおりです。 

結果です。このグラフは溶媒が水の時の凝固点降下度を表しています。折れ線グラフの一番下の青い線は式で求められる理論値です。グラフから全てのアルコールの凝固点降下度が理論値を上回っていることが読み取れます。溶液ごとに比較すると、炭素数の多い方が凝固点降下度は大きいことがわかりました。

棒グラフでは、斜線があるものが枝分かれ型、ないものが直鎖型を表しています。同じ炭素数では、枝分かれが少ない方が理論値との差が大きいことがわかります。

次に、溶媒がシクロヘキサンの場合です。折れ線グラフの青い線は理論値です。全てのアルコールが理論値を下回っていることがわかります。また、炭素数が大きくなるほど凝固点降下度は大きくなっています。

そして、棒グラフからは枝分かれ型の方が凝固点降下度は大きくなることがわかります。

考察です。凝固点降下度は質量モル濃度に比例します。言い換えると、溶媒の分子数に対する溶質の分子数(Xとする)に比例します。

 

溶媒が水の時とシクロヘキサンの時の違いはなぜ起きるか

では、なぜ溶媒が水の時Xが大きくなったのでしょうか。この原因として疎水性水和に着目しました。疎水性水和とは疎水性分子を水の中に入れた時に、それを水分子が囲うような構造を形成することです。

 

溶媒が水の時、溶質であるアルコール分子の疎水性水和が起きたのではないかと考えました。疎水性水和で使われた水分子は凝固に関わることができません。

 

そのため、溶媒の分子数が減少してXが大きくなり凝固点降下が促進されたと考えました。

 

また、炭素数が増加するとアルコール分子の疎水基は大きくなります。それを受けて疎水性水和で取り込まれる水分子数が大きくなり、結果凝固に使われる溶媒の分子数は小さくなります。そのため、炭素数が増加すると凝固点降下も大きくなったと考えました。

 

また、直鎖型の構造の方が、枝分かれ型よりも疎水性水和で取り込まれる水分子は多く必要になります。これが直鎖型の方が凝固点降下は大きかった原因だと考えました。

 

次に、溶媒がシクロヘキサンの場合です。この時凝固点降下は抑制されました。これは、アルコール分子の親水基同士が引き寄せられアルコール分子集合体が形成されたことが原因だと考えました。これによって無極性分子である溶媒のシクロヘキサンがアルコール分子と接触する際、親水基に近づくことを防ぎます。

 

この集合体をとることにより、溶質の分子数が小さくなってXが小さくなり凝固点降下が抑制されたと考えました。

 

炭素数が大きくなると、この分子集合体を形成する上での立体障害が増加します。それに伴い、分子集合体が形成されにくくなります。また、集合体を形成するのに必要な分子数も減少すると考えました。これより炭素数が大きいほど溶質の分子数は大きくなり凝固点降下は抑制されにくくなります。

 

また、枝分かれの多いアルコール分子は、より複雑な分子集合体を形成します。そのぶん立体障害が増えて、分子集合体1つあたりの分子数が少なくなります。これが、枝分かれ型の方が直鎖型よりも凝固点降下度が大きかった原因だと考えられます。

 

追加実験で仮説を検証する

ここで、私たちは以下の仮説が実際に起こっているか調べるための追加実験を行いました。

・溶媒が水の時は、アルコール分子が疎水性水和を起こした。

・溶媒がシクロヘキサンの時は、アルコール分子が分子集合体を形成した。

 

溶媒が水の場合です。仮定が正しいとすると、もしアルコール分子の親水基が増えれば、疎水性水和によって取り込まれる水分子が減少し、凝固点降下度は小さくなるはずです。

 

これを検証しました。溶質にはエチレングリコールと1-3プロパンジオールを追加で使用しました。

 

実験の結果、炭素数2、炭素数3の両方において親水基を増やしたアルコールの方が凝固点降下度が小さくなりました。このことから、確かに疎水性水和が起きていることが確認できました。

次に、溶媒がシクロヘキサンの場合です。我々が仮定した分子集合体は、アルコール分子に親水基がなければ形成されないはずです。

 

そこで、親水基を持つ分子と持たない分子を用いて実験し比較しました。溶質としては親水基を持つフェノール、親水基を持たないクロロベンゼン・シクロヘキサンを用いました。ただし、溶媒はベンゼンを用いました。

 

結果です。親水基を持つフェノールのみ大きく凝固点降下が抑制されたことがわかりました。このことから、確かに分子集合体が形成されていたことが確認されました。

以上のことをまとめます。

溶媒が水の時のアルコール溶液では、疎水性水和が起き凝固点降下が促進されます。溶液がシクロヘキサンの時のアルコール溶液では、アルコール分子が集合体を形成し凝固点降下が抑制された、と考えることができます。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私たちの研究である「高濃度溶液の凝固点降下」は、教科書中にある「凝固点降下度を求める式は希薄溶液の時にのみ成り立つ」という文から高濃度溶液の凝固点から凝固点降下度を求めようとテーマ決めに至りました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり3~4時間を週に3~5日で3年間

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

なかなか実験が成功しない日が続いたり、どのような考察が一番適切かを考えることに苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

長い議論を重ねた考察を特に見てほしいです。また、プレゼンでは難しい専門用語は基本使うことをさけるか、詳しい説明を入れて、一つひとつを丁寧に話すことを心がけています。それと、高校生に向けて発表する時は、他の大人に話す時より長い間を取るようにしています。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

学校で使う教科書や図表と「化学の新研究」(※)を用いて研究を行いました。

※「化学の新研究」卜部吉庸(三省堂)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

研究は今後も続けていきます。現在は様々な溶液の凝固点降下現象の原因を調べる理学研究を行っていますが、将来的には、これを凍結防止剤などの工学分野に応用することを目指していきたいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

普段の研究活動以外に、毎年6月にある文化祭で化学マジックショーを行っています。化学部全員がいくつかのグループに分かれて、それぞれ実験テーマを決め、見に来てくださった方の前で披露しています。

 

■総文祭に参加して

 

今回初めて総文祭に出場することができ、とても貴重な体験をすることができました。各県の代表となった高校生によるレベルの高い研究発表を聞いて、今まで考えたことのなかった様々な観点から行われた研究ばかりでとても良い刺激をもらいました。また、発表面でも聞く人に理解してもらうために、模型を使い説明したり、間を調整したり、多くの工夫をしている学校がほとんどでした。

 

最後に、全国大会にあたる大きな大会であるにもかかわらず、司会・進行は生徒たちが行っていたことを見て、この総文祭は多くの先生方だけではなく宮城県の高校生の協力のおかげで成り立っていることを知りました。関わってくださった全ての方に感謝しています。

 

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