2016ひろしま総文 自然科学部門

ツクツクボウシに方言があった?! 7300年前の大火砕流が生態系におよぼした影響を探る

【ポスター/生物】鹿児島県立国分高校サイエンス部昆虫班

(2016年7月取材)

左から 有村 笑さん(3年)、遠藤あいりさん(3年)、中村瑠磨くん(3年)、片平丈己くん(3年)
左から 有村 笑さん(3年)、遠藤あいりさん(3年)、中村瑠磨くん(3年)、片平丈己くん(3年)

■部員数

23人(うち1年生10人・2年生7人・3年生6人)

■答えてくれた人

有村 笑さん(3年)、遠藤あいりさん(3年)

 

屋久島方言で鳴くツクツクボウシの正体を探る~大隅諸島の昆虫相に今も残る幸屋火砕流の爪痕?~

ツクツクボウシとは? 屋久島方言とは?

ツクツクボウシは、日本列島から東アジアに広く分布し、平地から低山地にふつうにみられるセミです。成虫は、7月後半から10月前半に出現し、最盛期は8月後半から9月中旬頃。羽は透明で、オスは「ジィー、ツクツクボーシ、ツクツクボーシ、…ウィヨーシ、ウィヨーシ、ウィー」という特徴的なまとまりの鳴き方をします。

 

ところが、大隅諸島の屋久島、口永良部島、硫黄島、黒島に生息するツクツクボウシは、最後の「ウィヨーシ」というフレーズが欠落しており、これがツクツクボウシの「屋久島方言」と言われています。これは、別の亜種であるとされたこともありますが、分類学的な比較は十分になされていません。

 

 

「標準語」と「屋久島方言」を、下記で聞き比べてみてください。

そこで、私たちは大隅諸島およびその周辺(鹿児島県本土、トカラ列島など)でツクツクボウシの鳴き声の録音と個体の採集を行って、以下の点について詳細に比較しました。

 

(1)音声の比較

両方言の違いを調べ、さらに互いの鳴き声に対する反応を調べる

(2)形態の比較

方言個体群、さらに同族別種との形態の違いを調べる

(3)DNAの比較

塩基配列の違いから系統樹を描き、遺伝的な関係を調べる

 

これらを通して、

a.屋久島方言個体群の遺伝的な位置を解明する→別種か、亜種か、単なる方言か

b.屋久島方言個体群の分布や分布の拡大に幸屋火砕流(※)が与えた影響を考察する

ことを目的として、この研究を行いました。

 

※約7500年前に鬼界カルデラ(南北20km、東西17kmの巨大カルデラ)から噴出した火砕流。完新世(約10000年前以降)における地球上最大の噴火で、九州南部の自然環境に壊滅的な影響を与えた。黒島、硫黄島、口永良部島、竹島は火砕流に覆われたが、屋久島・種子島には火砕流が到達しない地域が残った。

 

研究は、2015年7月から9月に、黒島、硫黄島、屋久島(=「屋久島方言」個体群)、および鹿児島県本土(=「標準語」個体群)でツクツクボウシを録音・採集して行いました。

 

形態の比較~「標準語」と「屋久島方言」の間には差が見られない

全個体に識別用のラベルをつけて、全長、前翅長、頭幅、胸幅、前翅幅など7項目を測定し、エクセルの関数機能を使った分析シートを用いて、各産地の形態を比較しました。各産地間の比較は、「前翅幅/前翅長」のように各部位の比率を用いて行いました。合わせて主成分分析も行いました。

主成分分析の結果、同属別種のオオシマゼミとイワサキゼミはツクツクボウシとの間にはっきりと違いが見られ、クロイワツクツクは一部がツクツクボウシと重なりました。一方、「標準語」の2集団と、「屋久島方言」の3集団はほぼ重複する結果となりました。

鳴き声の比較~屋久島方言は「サビ」がなく時間が短い

鳴き声の比較は、(1)音声波形、(2)鳴き声の長さ、(3)鳴き声の回数、(4)じゃま鳴きの有無、の4つの観点で行いました。

 

(1)音声波形の比較

「標準語」の代表として鹿児島県南九州市産を、「屋久島方言」代表として黒島産の鳴き声を、音声解析ソフトで波形に直して比較しました。鳴き声を4つのフレーズに分け、それぞれ「前鳴き(ジュクジュクジュク)」「本鳴き(ツクツクボーシ、ツクツクボーシ)」「サビ(ウィヨーシ、ウィヨーシ)」「後鳴き(ウィー)」と定義しました。

 

波形を見ると、黒島産はサビの部分が欠落しています。また、時間が短いのも一目瞭然です。

(2)鳴き声の長さの比較

南九州市産、黒島産、硫黄島産について、各フレーズの長さ、および鳴き声全体の長さを測定しました。鳴き声全体では、屋久島方言の3島産は、標準語の南九州産よりも有意に短いという結果となりました。

(3)鳴き声の回数の比較

繰り返し鳴く部分の回数をカウントしました。本鳴きの回数は、屋久島方言が標準語より少ない傾向がありますが、産地間には有意差はありませんでした。

(4)じゃま鳴き実験

ツクツクボウシのオスは、他のオスに対して「じゃま鳴き」を行います。そこで、鳴いていないオスにスピーカーで「標準語」と「屋久島表現」の両方を聞かせて、じゃま鳴きをするかどうかを記録しました。

 

標準語のツクツクボウシは、屋久島方言の鳴き声に対してもじゃま鳴きを行いました。このことから、標準語のツクツクボウシは、屋久島方言を聞き分けていないことがわかります。しかし、その割合は標準語同士の時よりも有意に小さくなりました。

DNAの比較~「標準語」と「屋久島方言」の変異は小さい

ミトコンドリアDNA COⅠ領域の塩基配列に基づいて、ツクツクボウシの系統樹を作成しました。

 

硫黄島産は遺伝的に全く変異がなく、全て同じ塩基配列でした。屋久島産はわずかに変異のある3つのタイプを含み、そのうち1つは硫黄島産と同じタイプでした。種子島産は、変異のやや大きい3つのタイプを含み、硫黄島産と同じタイプや、本土産に近いものが存在しました。

DNAの比較では、標準語と屋久島方言の差異は不明瞭でした。そして、同属2種(イワサキゼミ、クロイワツクツク)との遺伝的変異の大きさと比較して、ツクツクボウシ内の変異は小さいものでした。

「屋久島方言」は7300年前の大火砕流の足跡?!

これらの調査から、「屋久島方言個体群」は分類学的には、同じ種の中で鳴き声のみが異なる生態的変異であり、「型(生態型)」と考えるのが妥当と思われます。

 

次に、屋久島方言の分布に幸屋火砕流が与えた影響を考えます。調査の結果から次の3つのことが考えられます。

 

・火砕流が到達しない部分で生き残ったものがいたと考えられる屋久島・種子島には複数のタ    イプが存在(変異がやや大きい)→古くからの変異が保持されている

 

・幸屋火砕流後に分布を広げたと考えられる硫黄島には1つのタイプしか存在しない→まだ変    異が起こっていない

 

・屋久島と硫黄島で共通のタイプが存在する→屋久島の3タイプのうち1つが硫黄島に侵入し      た

 

これをまとめると、次のようになります。

 

1.幸屋火砕流より前のある時点で、屋久島に「屋久島方言」のツクツクボウシが突然変異的に出現した。当時、黒島・硫黄島・口永良部島には「標準語」ツクツクボウシが生息していた。

 

2. 7300年前の幸屋火砕流により、黒島・硫黄島・口永良部島の「標準語」は絶滅。「屋久島方言」は屋久島南部で生き残った。

 

3競争相手(標準語)のいなくなった黒島・硫黄島・口永良部島に「屋久島方言」が侵入・定着し、現在の分布が完成。

 

このように見ると、「屋久島方言」は7300年前に南九州の自然に大きな影響を与えた幸屋火砕流の生物学的痕跡であることがわかります。

 

今後は、黒島・口永良部島・竹島のツクツクボウシを採集し、これらの塩基配列も調べてみたいと思います。また、じゃま鳴きについては、「屋久島方言」のオスに「標準語」の鳴き声を聞かせたり、鳴き声のフレーズのどこに反応するかについても調査を進めたいと思います。さらに、方言に対するメスの反応を調べ、鳴き声が生殖に影響を与えるかどうかについても考察を深めたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

先輩方がノコギリクワガタの研究で大隅諸島に採集に行った際に、ツクツクボウシの声が違っていることに気づき、その話を聞いて、「亜種」に分けられるのではないかと思い、研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1週間あたり約15時間で、1年間です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

セミの採集!に尽きます。ツクツクボウシは小型のセミで見つけにくく、採集にはとても苦労しました。特に黒島では、台風等の影響で最盛期に調査に行けず、発生の後期に往復12時間船に乗って採集に行きましたが、採集できるのはわずか3時間で、見つけにくい上に、せっかく見つけても警戒心が強く、結局採集できませんでした。形態解析における、ノギスでの測定作業もとても時間がかかり、苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

DNAの塩基配列をもとにした系統樹は、今回の研究の核心であり、ぜひ見て欲しいです。DNAの塩基配列については、32個体分一覧にしたサブポスターも作成しました。ふつうなら研究者はやらない手法で塩基配列を見比べることができ、面白いと思っています。

 

屋久島方言の分布拡大のシナリオは、どこにも書かれていない自分たちのオリジナルなので、これも注目して欲しいです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・『日本産セミ科図鑑』林正美・税所康正:編著(誠文堂新光社)

→最新・最高峰のセミ図鑑です!

・『世界のセミ200種』大阪府立自然史博物館 2007

・『屋久島 世界遺産の自然』青山潤三(平凡社)

→「屋久島方言」についての最初の記述

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

すでに後輩(2年生)が研究を引き継いでいます。私たちが採集できなかった黒島、口永良部島、新たに屋久島方言が確認された竹島での採集に成功し、全個体の標本作製も終了。現在はDNA解析のシーケンス結果を待ちながら、形態解析を実施中のようです。「全ての島のDNA解析結果をもとに、屋久島方言ツクツクボウシの分布拡大経路を解明しよう」というテーマで取り組んでいます。

 

私たちが行った「じゃま鳴き実験」についても、複数の島で実験を行い、実験数も増やして詳細な分析を行っているようです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

サイエンスフェスタ(小中学生向け実験教室)や、大学と連携したサイエンス研修を行っています。

 

■総文祭に参加して?

 

多くの方にアドバイスをいただき、今後の活動に生かせることがたくさんありました。他県の高校生と交流でき、とても高度な研究や、自分では思いつかないような研究を見ることもできました。科学研究に対する興味関心もさらに高まり、とても充実した大会になりました。運営に携わってくださった皆さん、本当にありがとうございました。

 

 

※国分高校の発表は、ポスター部門の奨励賞を受賞しました

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