2018信州総文祭

サプリメントの成分「アルギン酸」は環境にやさしい代替プラスチックにもなる?!

【ポスター/化学】広島大学附属高校 科学研究班

(2018年8月取材)

左から 乙田寛太くん、鈴木創太朗くん(3年)
左から 乙田寛太くん、鈴木創太朗くん(3年)

■部員数 75人(うち1年生10人・2年生35人・3年生30人)

■答えてくれた人 乙田寛太くん(3年)

 

多価アルコールによるアルギン酸糸の延性変化

コンブに含まれるアルギン酸にいろいろな物質を混ぜて糸を作る

 

近年、プラスチックゴミの環境に与える影響が大きな問題となっています。その解決策として、生分解素材が注目されています。アルギン酸糸もその1つで、コンブなどの身近な褐藻類に含まれるアルギン酸を用いた、環境に優しい素材です。

 

本研究では、アルギン酸繊維の性質を向上させ、応用範囲を拡大することを目標に実験を行いました。

 

アルギン酸は、自然界では主にアルギン酸ナトリウムの形で、コンブなどの褐藻に多く含まれている高分子化合物です。アルギン酸は、グルロン酸とマンヌロン酸の2種類から構成されており、グルロン酸同士には水素結合があります。アルギン酸ナトリウムは、図のような構造で、カルボキシ基が存在することによって、多価のイオンと反応し、架橋してゲル化するという性質を持っています。

 

 

 

実験では、アルギン酸ナトリウムに他の物質を混ぜることによってアルギン酸糸の性質がどのように変化するかを調べました。

 

まずアルギン酸糸を作りました。5%アルギン酸ナトリウムに何らかの物質を一定の割合で加え、3mol/Lの塩化カルシウム溶液を加えてゲル化させた後、自然乾燥させます。

 

予備実験としてサラダ油・食塩・砂糖・グリセリン・水ガラスのそれぞれを混ぜて糸を作ったところ、グリセリン入りのアルギン酸糸が伸びやすく滑らかで均質な糸であることがわかりました。そのため、以降の実験ではグリセリン入りアルギン酸糸に注目することにしました。

 

グリセリンを混ぜると表面構造が変化してしなやかさがアップ!

 

次に、グリセリンとアルギン酸ナトリウムを0.5:9.5、1:9、1.5:8.5、2:8のそれぞれの割合で混ぜてアルギン酸糸を作成し、それぞれの力学特性と表面構造を観察しました。

 

また、エチレングリコールも上記と同様の4種類の割合で混ぜてアルギン酸糸を作成しました。その結果、力学特性は以下のグラフのようになりました。グラフの縦軸のヤング率(値が大きいほど伸びにくい)は物質の伸びにくさを、破断ひずみは物質がちぎれた時の変形度合いを、引張強度は物質のちぎれにくさを表します。

 

 

これらのグラフから、グリセリンの割合を増やすと、延性が向上することがわかります。

 

一方、引張強度についてはグリセリンを加えたものの方が低下しました。

 

エチレングリコール入りのアルギン酸糸でも同様の結果が得られましたが、エチレングリコール入り糸では、上の3点の全てでグリセリン入り糸よりも大きい値を示しました。

 

 

表面構造は下の画像のようになりました。

 

 

また、表面構造を観察すると、純粋なアルギン酸糸には縦向きの溝があり、溝の中にさらに細かい構造があることがわかります。そして、グリセリンやエチレングリコールといった多価アルコールを混ぜたアルギン酸糸には、縦向きの溝に加えて横向きの溝も見られました。グリセリン入りアルギン酸糸を伸長前後で比較すると、伸長後は溝が浅くなり、全体が均一に伸びていることがわかります。また、エチレングリコール入りアルギン酸糸は、グリセリン入りアルギン酸糸に比べて横向きの溝の割合が減っていました。

 

多価アルコールのヒドロキシ基がアルギン酸の鎖構造に影響

 

実験の結果から、多価アルコールを加えたアルギン酸糸は、延性が向上することがわかりました。また表面構造も大きく変化し、横向きの溝ができる一方で、細かい構造が見られなくなることがわかりました。

  

これは、多価アルコールのヒドロキシ基がアルギン酸糸の性質に影響しているためと考えられます。グルロン酸同士の水素結合や、架橋を阻害することで、アルギン酸鎖がずれやすくなり、延性が生まれると予想できます。

 

 

また、グリセリンのヒドロキシ基が3つであるのに対し、エチレングリコールは2つであることから、グリセリンの方が性質に大きく影響を与え、グリセリン入りアルギン酸糸の方が、純粋なアルギン酸糸とはより違った性質を示したと考えられます。

 

これらの実験からアルギン酸糸は、多価アルコールによって力学特性や表面構造が変化し、強度は低下したものの、特に延性が向上してしなやかになることがわかりました。プラスチックなどの工業材料には様々な用途があるので、アルギン酸糸の応用の可能性が広がったと考えられます。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

とあるサプリメントの成分表示を眺めていたとき、初めに表示されていたのが「アルギン酸ナトリウム」であり、「この名前、おもしろいね」といったところからテーマが決まりました。そこから調べていくうちに、今回のような研究になりました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2016年から始めました。1週間あたり2~3時間で2年半ほど取り組みました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

アルギン酸ナトリウム水溶液にアルコールを混ぜこむこと。アルギン酸ナトリウムを水に溶かすことも大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

アルギン酸に混ぜこむ物質によって、表面構造が変化している点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

『衣料用合成繊維素材の表面構造と性能』西桜光一

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber1944/46/1/46_1_P28/_pdf/-char/ja

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回の研究はこの総文祭をもって最後にしようと思います。今現在次にどんな研究にしようかということは考えていませんが、機会があれば精一杯取り組みたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか

 

勉学に勤しんでおります!

 

■総文祭に参加して

 

知らない世界や新たな観点、発見に巡り合うことができ、本当に楽しかったです。賞こそ取れなかったものの、それ以上に様々な刺激を受けることができて良かったです。

 

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