2018信州総文祭

目指せ! 電磁気を利用した粒子加速器の発展へ ~ガウス加速器のメカニズムを徹底解析

【ポスター/物理】兵庫県立豊岡高校 生物自然科学部

左から岩本柊吾くん(2年)、南條拓希くん(3年)
左から岩本柊吾くん(2年)、南條拓希くん(3年)

■部員数 30人(うち1年生8人・2年生11人・3年生11人)

■答えてくれた人 南條拓希くん(3年)

 

ガウス加速器のメカニズムのエネルギー解析

火薬燃料を使わずに加速できる「ガウス加速器」

ガウス加速器は磁力を利用した簡単な加速器の一つです。

 

レールの上で永久磁石に鉄球を複数個つなげ、反対側から別の鉄球を近づけると、この鉄球は磁力によって急速に加速され磁石に衝突します。それと同時に反対側の複数個の鉄球のうち最も外側のものが大きな速度で発射されます。

 

ガウス加速器の大きな利点は、火を使わずに加速できることです。このメカニズムを解き明かすことが、電磁気を利用した粒子加速器の発展につながるのではないかと考え、「仕事」と「エネルギー」の観点から、その仕組みの解析を試みました。

 

加速のプロセスについての仮説を立てる

 

最終的に飛び出す球が加速するのは、次のようなプロセスを経ているのではないかという仮説を立ててみました。 

 

・入射球(磁石に向けて最初に転がす球)が磁石から受ける仕事

 

入射球は転がすと、急激に磁石に引き付けられるように向かっていきます。最初の速度を

0、磁石から受ける仕事が W、鉄球が磁石に衝突する直前の速度v1とします。入射球の運動エネルギーの変化は、下図の式のようになると考えられます。 

 

・本体装置を介した衝突による速度損失

 

衝突した瞬間、速度v1は反対方向に伝わりますが、これは100%伝わるのではなく、どこかでエネルギーが損失していると考えました。最終的に伝わる速度v2との関係ですが、おそらく一定の割合で速度損失が起こっていると考え、割合をeとして式を立てました。 

 

・射出球が磁石から受ける仕事

 

射出球は飛び出したあと、磁石によって進む方向と反対方向に引っ張られ減速します。減速に関与する仕事を W‘ とし、最終的な速度v3を表しました。

 

ガウス加速器では以上3つの動作が一連のものとなります。3つの式から、入射速度v0と射出速度v3との関係は、下図①の式になると考えられます。 

 

磁石-鉄球間距離の変化と磁力の大きさとの関係を測定する

図のような装置を組み立てて、磁石と鉄球の間の距離を変化させ、その変化に伴う磁力を測定してグラフにします。そのデータを見て、磁石が行う仕事を求めます。(グラフに囲まれた面積を算出します。)

 

容器にビュレットで水を落とし、鉄球が磁石から離れた瞬間の水の滴下量を測ります。容器に働く重力の大きさから、入射球が受ける磁力Fを求めます。

 

磁石と鉄球の距離に挟む厚紙の枚数を変えて距離を調整し、それぞれの距離で5回ずつ測定しました。

 

また、鉄球を2個つなげて同様の測定を行い、射出球が受ける磁力f を測ります。F、fと、距離x との関係から、それぞれが受ける仕事(W, W‘)を算出しました。

 

測定の結果が下図です。鉄球と磁石の距離を大きくすると、磁力も小さくなるということがわかりました。

 

また、磁石、鉄球が磁気双極子であることと、片方が磁石ではなく鉄球であることを考慮すると、磁力は距離の7乗に反比例することがわかりました。

 

この結果をもとに、入射球が受ける仕事 W射出球が受ける仕事W‘は、それぞれこのような式に表すことができました。

 

衝突直前の速度と衝突直後の速度の比「e」の測定

鉄球が磁石に衝突したときと、衝突直後の速度は一致しません。その速度の比「e」を測定します。

 

今回は、鉄球とネオジウム磁石のeの値はほぼ一致するものと仮定して、磁石を鉄球に置き換えました。加速装置にあたる真ん中の2個の鉄球は固定してあります。

 

入射球の速度を様々に変えて10回測定しました。

 

その結果、以下の式が得られました。本体装置の衝突が間に入ると、約5.3%の速度損失を伴うことがわかりました。 

 

●摩擦による仕事の測定

 

さらに精密に測定するため、レールとの摩擦による仕事を測定しました。

 

20cmの間隔を空けて、ビースピ(トンネルの中を球が通る時間で速度を測る装置)を設置します。それをレールに見立て、鉄球をレール上で転がしたときの初速度(v0〔m/s〕)と終速度を測り、摩擦による仕事を求めました。

 

 

20cmの間おける摩擦による仕事は

 ΔK=-0.00125〔J〕

でした。

 

 

仮説の検証では、本体装置とビースピの距離を5cmとしたので、1/4をかけて、以下のような結果となりました。 

 

仮説の検証結果と考察

 

ガウス加速器を実際に組み立て、速度を変えながら、入射速度と射出速度の関係を調べました。 

 

摩擦による仕事Wfを加味して、図のような式を得ました。

 

 

これらの結果を合わせてグラフ化し、仮説の検証を行います。

 

その結果、式①と実測値は、よく一致していることがわかり、仮説は立証されました。

 

入射速度と射出速度の関係は、単純な増加関係ではなく、入射速度を大きくするにつれて、射出速度の増加が小さくなり、通常の鉄球の衝突の式に近づいていくことが予想できます。

 

仮説で得た式①と実測値で差が出た原因については、以下のことが考えられます。

・本体装置自体のeの値が測定できなかった。

・鉄球が磁化されたことによる影響

・速度測定時に生じる誤差

これらの誤差を改善するため、さらに精密な研究が必要だと考えています。

 

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

ガウス加速器を知ったのは映画の冒頭シーンでガウス加速器が紹介されているのを小学生のころに見たのがきっかけです。鉄球が勢いよく飛び出すのを見てとても驚き、「いつか自分でも作ってみたい」と思っていました。また、文献を調べたところ先行研究が見つかり、研究の筋道が概ね整ったことからこのテーマにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1週間当たり2~3日、1日2~3時間を1年半です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

磁力および磁石のする仕事の測定です。

 

鉄球の加速を説明するために最も重要な実験であったため、精密に行うよう、細心の注意を払いました。何度も何度も実験をやり直して実験技術を向上させ、一つひとつの操作を丁寧に行いました。また、誤差も丁寧に検証し、正確なデータが取れるよう工夫しました。

 

さらに実験結果の理論的な解析にも力を入れ、何度も顧問の先生や物理の先生と議論しました。学校周辺に理工系大学がないですが、近くに大学の先生が来られているという情報を聞くとそこまで直接教えを受けに行ったりして、データの解釈に誤りがないかどうかを確認することに苦心しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

・ガウス加速器の加速の仕組みを、高校物理の知識を応用することで説明可能であることを、仮説の検証を通して明らかにできました。

 

・磁力の測定については、専門的な考え方を取り入れながら理論的な解析、考察を行うことができました。

 

・普段は部員それぞれが自分の研究テーマを持って研究を進めていますが、パソコンの得意な人は近似曲線の解析をしたり、数学の得意な部員が積分計算を担当したり、物理の得意な部員はディスカッションに加わったり、ポスターレイアウトや色使いに関するアドヴァイスをしたりと、それぞれの得意分野で力を出しあい協力してガウス加速器の研究を作り上げました。それぞれが個でテーマを持ちながら、互いに他の部員の研究にも協力する雰囲気ができています。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1) 「ガウス加速器における仕事とエネルギーの測定」牧原義一 杉本佳隆 (三重大学教育学部研究紀要,2012,6,3,p1~5)

2) 「ガウス加速器の物理法則にメスを入れる」右近修治,(理科教室,2006年4月号p17~p21,)

3) 数学ソフトGeoGebra 5.0.352.0-3D

4) 「わかる電気磁気学演習」吉久信幸 遠藤正雄 (日新出版)

5) WolframAlpha (2018年4月14日閲覧)

6)「Energy and Momentum in the Gauss  Accelerator」David Kagan,(The Physics Teacher, vol 42,p24~26)

  

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

ガウス加速器の基本的な仕組みの解析についてはこの研究で完結したいと思います。次は今回の研究の応用や違うテーマにも挑戦したいです。

 

本年度は、魚の行動について、扇風機のプロペラについて、茶カテキンで作るプラスチックについての研究を行っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

「青少年のための科学の祭典ひょうご大会」豊岡会場に出展したり、学校の文化祭で実験ショーを実施したりします。そのための実験を考えたり工夫したり、プログラムを考えたりします。天文館バルーンようかや兵庫県立大学西はりま天文台での天体観測、県総合文化祭や各種発表会での研究発表や見学、魚の捕獲と飼育などを行っています。

 

■総文祭に参加して

 

総文祭への出展を通して、自分の頭で考えることの難しさや面白さ、研究発表や質疑応答等によるコミュニケーションの楽しさを学ぶことができました。大変でしたが、充実した総文祭でした。お世話になった顧問の先生や先輩方、一緒に研究を作り上げてくれた自然科学部員、当日の発表を手伝ってくれた2年生の皆さん、本当にありがとうございました。

 

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