2018信州総文祭 

モンシロチョウの翅(はね)に隠された秘密とは?~オスを惹きつける「鱗粉」の謎

【ポスター/生物】北海道市立札幌大通高校 生物部

■部員数 23人(うち1年生7人・2年生4人・3年生12人)

■答えてくれた人 川上晏奈さん(3年)

 

シロチョウの鱗粉の微細構造~モンシロチョウとモンキチョウのメスの比較~

「鱗粉」の構造が、紫外線を反射することを検証

モンシロチョウのメスは、その翅(はね)で紫外線を反射して、オスを惹きつけるといわれています(小原嘉明ら、1970年)。さらに、モンシロチョウのメスの鱗粉を電子顕微鏡で観察して、鱗粉に色素顆粒が少ないときに紫外線の吸収が少ないということをつきとめた研究(D.G.Stavengaら、2004年)から、私たちは、「鱗粉」の構造に、紫外線を反射する理由があるのではないかと考えました。そこで、反射スペクトル(物質の表面に色々な波長の光をあてた時の反射率を、波長の関数として表わしたもの)の測定とともに、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて鮮粉の細かい構造を撮影し、モンシロチョウの鱗粉が「反射型回析格子」として働いていることを検証しました。

 

紫外線を反射するモンシロチョウの翅と反射しないモンキチョウの翅を比較する

私たちは、可視光では同じように白く見える、モンシロチョウとモンキチョウの比較をすることにしました。どちらも白く見えますが、紫外線を反射するモンシロチョウに対して、モンキチョウは紫外線を反射しないのです。

モンシロチョウ
モンシロチョウ
モンキチョウ
モンキチョウ

反射スペクトルは、浜松医科大学の針山孝彦先生の協力で、Bitran社製スペクトラムカメラを使い、「前分光(※1)」という方法で測定していただきました。微細構造は、北海道大学合総合博物館の走査型電子顕微鏡(SEM)をお借りして観察しました。

(※1)光源を分光(入射した光を波長ごとに分けること)させて測定物に当てる方法。

 

●反射スペクトル測定方法

切り離した翅の右側を裏返し、表裏の両方を撮影。20nmごとに干渉フィルタで分光した光を当て、反射スペクトルの測定をしました。

 

●走査型電子顕微鏡(SEM)による画像の観察

電気が流れやすいよう、試料はあらかじめ白金パラジウムでコートしておきます。

 

真空状態で試料に電子ビームを当て、放出される二次電子像を見ます。

 

 

チョウの目から見た翅の色をコンピュータで再現

検出された反射スペクトルのデータを、コンピュータのモニタで色を表現するRGB値(※2)に変換し、そのRGB値を使って翅の各領域の色を表に示しました。昆虫は紫外線を見ることができるため、さらに、その数値をもとに、チョウから見たそれぞれの翅の色を再現しました。

(※2)色を指定するための値。赤・青・緑の各色を0~255の値で指定して、値の組み合わせによって色を決める。

 

※クリックすると拡大します

 

 

モンシロチョウメスの鱗粉は、色素顆粒が少なく等間隔の井桁構造がある

[モンシロチョウメスのSEM観察結果と反射スペクトル]

SEMによる観察から、モンシロチョウメスの鱗粉には、等間隔の井桁構造があり、色素顆粒(チョウの翅の色や模様を決める重要な色素因子)が少ないということがわかりました。

 

※クリックすると拡大します

 

 

[モンキチョウメスのSEM観察結果と反射スペクトル]

一方、モンキチョウメスの鱗粉には、色素顆粒が多く、紫外線を反射しづらいことがわかりました。紫外線を反射している鱗粉には膜孔構造(鱗粉の桁の間に膜が張っていて、そこに孔が開いているように見える構造)が見られ、多層膜干渉現象が予測されます。

 

※クリックすると拡大します

 

モンシロチョウの紫外線反射率が最も高い部分と、モンキチョウの同じ位置を比較します。

モンシロチョウメスの微細構造は、細かい井桁構造で色素顆粒がありませんが、モンキチョウは井桁構造が乱れていて、色素顆粒も認められます。

 

モンシロチョウメスの翅
モンシロチョウメスの翅
モンキチョウメスの翅
モンキチョウメスの翅

 

以上のことから、モンシロチョウメスの翅の紫外線反射率が高いことと、鱗粉の微細構造には関連性があると考えられました。

 

等間隔の井桁構造が回折格子の働きをして紫外線を反射している

観察の結果から、モンシロチョウメスの鱗粉に見られる等間隔の井桁構造が、回折格子として働き、紫外線を反射しているのではないか、という仮説を立てました。回折格子というのは、多数の平行スリットが等間隔で配列した構造物に光が当たると、光の波長によって強めあう角度が異なる現象のことをいいます。例えば、CDが虹色に見えるのは、回折格子の働きによるものです。

 

※クリックすると拡大します

 

 

この仮説を証明するために、モンシロチョウメスの後翅背側領域のSEM写真で井桁の幅を測りました。5枚の鱗粉で、10本分の桁の長さを測り、685mnという幅の平均値を出しました。

 

格子の間隔 : d、光の波長λ、入射角 : θ、回折角 : θ’、回析次数m(m=0、±1、±2……)とすると、d(sinθ+θ’)=mλという式が成り立ち、簡単にするためにθ=θ’として変形すると、θ=sin-1(mλ/2d)という式が得られます。測定値を当てはめてθを計算すると、入射光と回折光は法線(接線に垂直な直線)を挟んで30度となり、針山先生の計測装置の入射-反射角と一致しました。

 

このことにより、モンシロチョウのメスは鱗粉の構造による回折格子によって紫外線反射率を高めていることを物理的に明らかにしました。

 

■研究を始めた理由・経緯は? 

 

北海道大学合総合博物館のSEMを使わせていただけることになり、SEMで観察する対象を探しているときに、モンシロチョウのメスが紫外線を反射することでオスを誘引しているという話を聞き、モンシロチョウの鱗粉もモルフォチョウなどの光る鱗粉と同じで構造色が関係しているのでないかと考え、研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2014年から研究を始め、毎週土曜日、日曜日にSEMで画像を撮影したり、夏休みや冬休みなどの長期休みにはみんなで集まって、考察したり、ポスターを作ったりしました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

シロチョウの微細構造を観察するうえで、約2700枚のSEM画像を撮影したことが大変でした。SEMを使うのは初めてだったので、使用方法や鮮明な写真を撮ることに苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

チョウの見ている世界は人間と異なり、紫外線域が見えていると言われているので、それを表現するために、反射スペクトルをもとにRPG値で表し、ペイントを使って表現したところです。また、多くのSEM写真を撮った中から選んで使用し、見やすいように配置したので、そこを見てほしいです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「Studies on the mating behavior of the white cabbage butterfly,Pieris rapae crucivora Boisduval.Ⅲ. Near-ultraviolet reflection as the signal of intraspecific communication.」Y.Obara(1970) Z.vergl.Physiologie:69;99-116.

・「Butterfly wing colours: scale beads make white pierid wings brighter.」D. G. Stavenga ey al.(2004) Published:7.

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

この研究は今年で終了する予定ですが、SEMを利用した研究は今後も継続したいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

様々な生物の飼育を行っています。また、本校の屋上にてミツバチの飼育も行っており、そこでとれた蜜に関する研究もしています。

 

■総文祭に参加して

 

先輩たちから引き継ぎ、入部してからずっと続けてきた研究なので、今回実を結び総文祭に出場できて大変うれしかったです。また、ふだん交流することのない全国の高校生と話したり、研究に対する質問や意見を聞いたり、とても楽しい体験をすることができました。

 

わくわくキャッチ!
今こそ学問の話をしよう
河合塾
ポスト3.11 変わる学問
キミのミライ発見
わかる!学問 環境・バイオの最前線
学問前線
学問の達人
14歳と17歳のガイド
社会人基礎力 育成の手引き
社会人基礎力の育成と評価