2019さが総文

原発事故で海洋に流出した放射性物質を、地元名産のソバ殻で除去する!

【化学】福島県立安積黎明高校 化學部

左から 高橋夢翔くん(2年)、岩崎由季くん(3年)
左から 高橋夢翔くん(2年)、岩崎由季くん(3年)

■部員数 18人(うち1年生12人・2年生6人)

■答えてくれた人 根本陽向さん(2年)

 

ソバ殻による金属イオン吸着のメカニズム

ソバ殻が放射性物質を吸着する?!

福島県では、東日本大震災の時の原発事故により、Sr(ストロンチウム)やセシウム(Cs)などの放射性物質が流出し、それらをいかに回収するかということが課題になっています。私たちの高校では、一昨年度から、福島県で多く生産されるソバの廃棄部分であるソバ殻に着目してきました。ソバ殻は現状では大量に廃棄されており、さらに固体物質として放射性物質を吸着できるというメリットがあります。

 


今までの研究から、ソバ殻に含まれるルチンがSr2+を吸着することがわかっています。また、ルチンを加水分解してできるケルセチンよりも、ルチンの方がより多く吸着することがわかっています。しかし、そのメカニズム自体は解明されていませんでした。

 


今回の研究では、ソバ殼由来のルチンが金属イオンを吸着するメカニズムを明らかにすることを目的としました。

 

ソバ殻のルチンが放射性物質を吸着する仕組みを探る

実験に際して、金属イオン価数と、吸着物質のヒドロキシ基の数や配置が、吸着能に関わっているという仮説を立てました。そこで、ソバ殼から抽出したルチン、市販のケルセチン、抽出したルチンをアセチル化したアセチル化ルチンの3つを用いて、それぞれがSr2+、Cs+、Cu2+をどれだけ吸着するかを測定することにしました。

 


実験方法について、順番に紹介します。

 

まず、ルチンを抽出し沈殿させるため、ホルムアルデヒドによってルチンを架橋させます。そば殻を粉末にし、エタノールに加えて攪拌します。その後エタノールとそば殻を取り除き、溶液を脱イオン水で薄めて、ホルムアルデヒドとシュウ酸を加えて加熱しました。その後、さらにシュウ酸を加えて加熱し、生じた沈殿を取り出して脱イオン水で洗浄、乾燥させました。

 

 

続いて、アセチル化ルチンを生成するため、無水酢酸でアセチル化しました。アセチル化とは、構造内のヒドロキシ基をアセチル基に変換する反応です。

 


そば殻を粉末にし、エタノールに加えて攪拌します。その後、そば殻とエタノールを除去します。溶液に無水酢酸を加え、溶かした後に炭酸カルシウムを加えて攪拌しました。この溶液を冷却し、沈殿を取り出して脱イオン水で洗浄、乾燥させました。

 

ストロンチウムの吸着評価方法

 次に、Sr2+の吸着評価の方法です。

 

Sr2+を直接EDTA溶液で滴定すると、終点で色が消失しわかりづらいので、過剰なEDTA溶液を入れておき、標準Sr2+溶液を加える逆滴定にすることで、滴定が終わった時点で赤紫色になるようにしました。

 

予備実験として、標準Sr2+溶液を用いて滴定を行ったところ、以下のような定量線が得られたので、誤差が小さい10×10-4mol/Lを溶液の初期濃度として実験を行いました。

 

 


 

セシウムの吸着評価

次に、Cs+の吸着評価の方法です。

 

Cs+は直接キレート滴定するのが難しいので、Cs+が[Fe(CN)6]4-、Mg2+と白色沈殿を生じることを用いて、十分量の[Fe(CN)6]4-、Mg2+を用意し、Cs+を加え、沈殿生成に使われずに余ったMg2+を測定することで間接的にCs+の量を測定しました。

 

 


Mg2+のキレート滴定に用いたEDTAの滴下量とCs+量の関係を表す検量線が下図の通りです。ここから、実験に用いる最初のCs+濃度を150mg/Lに設定しました。

 


最後に、Cu2+の吸着評価方法です。Cu2+はヨウ素滴定法によって、ヨウ化カリウムとチオ硫酸ナトリウムを用いて定量しました。

 


 

セシウムは吸着しないが、ストロンチウムの除去には有効か

以上の評価方法を用いて行った吸着実験の結果がこちらです。

 

実験結果の分析と考察です。

 

まず1点目として、赤丸で示したように、ケルセチンではSr2+もCs+も吸着されませんでした。これまでの成果として、ケルセチンも吸着すると紹介しましたが、今回の結果から、Sr2+を吸着していたのは加水分解されなかった残ルチンであると考えられます。

 


2点目に、Sr2+の吸着について見ると、アセチル化ルチンがルチンに比べて吸着量が減っていることから、アセチル化の際に失われたOH基が吸着していると考えられる。

 

また、2倍量ホルムアルデヒドで架橋したルチンでも吸着量が減ったのは、隣り合うOH基の数が減ったからだと考えられます。

 

 


この結果は、隣り合うOH基の数が多いルチンの方がケルセチンよりも吸着量が多いという事実とも整合します。

 

 


3点目に、ルチンによる吸着を比べると、Sr2+とCu2+では吸着があり、Cs+では吸着が見られなかったことから、2価のイオンを吸着すると考えられます。これは、2価のイオンは2つのOH基に挟まれるように存在するのに対し、1価のイオンは一つのOH基に結合するため不安定なためだと考えられます。

 


今後の展望です。今後の更なる実験として、隣り合うOH基の数を増やして実験をすること、他の2価イオンについて吸着実験を行うことによって更なる吸着量の向上につなげられると考えます。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私たちは、福島原発事故によって海洋にストロンチウムSr やセシウムCs といった放射性物質の流出が引き起こされたために、今も海洋に拡散した放射性物質の除去法が検討されていることを知りました。そこで、私たちは安価で作成が容易な吸着材の作成方法を考え、福島県で多く生産されているソバの廃棄部分であるソバ殻に着目し、この研究を開始しました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

研究は2017年から開始し、1週間あたり10時間ほど実験を行いました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

1回のデータを取るまでに約1週間かかるので、十分なデータを取るのには苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

ストロンチウムイオン Sr2+の滴定の際に独自の滴定方法を行い、吸着量を決定したこと、福島にあるものを使って実験を行ったこと。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「化学実験講座5版26巻高分子化学」 日本化学会編 (丸善株式会社(2007))

・「水中のフェノール類の直接アセチル化による定量」倉田泰人(環境化学Vol.4 No.1 pp55-64(1994))

・「絹のアシル化反応とその応用 Ⅰ無水酢酸による絹のアセチル化」塩崎英樹(日本蚕糸学雑誌 49巻4号 pp302-306(1980))

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今のところ、今後この実験を行う予定はありません。今後は、環境問題の解決につながるような実用性のある研究や、教科書の矛盾を突くような研究をしてみたいです

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

ヨウ素時計反応の特異的発色の条件、高濃度塩化ナトリウム水溶液とマグネシウムの反応、アントシアニンによるCs濃度の簡易測定法、廃チョークを用いた蛍光体の作成などの研究を行っています。

 

■総文祭に参加して

 

全国大会ということもあり、レベルの高い研究ばかりで、とても勉強になりました。発表の仕方や資料の作り方なども参考になることが数多くあり、今大会で賞を受賞することはできませんでしたが非常にいい経験になりました。今後の大会では、今回の経験を活かし、良い賞を受賞できるように研究、発表等に励んでいきたいです。

 

⇒他の高校の研究もみてみよう

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