2019さが総文

環境にやさしくデザイン応用性の高い太陽電池の性能向上に挑戦!

【化学】岐阜県立岐山高校 化学部

左から 澤村裕喜くん(2年)、松井洋樹くん(3年)、林正親くん(3年)、伊藤久允くん(3年)
左から 澤村裕喜くん(2年)、松井洋樹くん(3年)、林正親くん(3年)、伊藤久允くん(3年)

■部員数 7人(うち1年生2人・2年生2人・3年生3人)

■答えてくれた人 澤村裕喜くん(2年)

 

エッジ効果を利用した色素増感太陽電池の性能向上に関する研究

シリコン型より環境にやさしい「色素増感太陽電池」

 

私たちは、色素増感太陽電池の発電効率向上に関する研究を行いました。こちらは電池が実際に作動している様子です。(音声をきいてみてください) 

 

現在普及しているシリコン型太陽電池は、色が決まっており、作成時には1500度という高温の環境を必要とします。一方で、色素増感太陽電池は、様々な色にすることができ、かつ70度という比較的低温で作成することができます。

 

そのため、現在使われているメガソーラーのように、森林などを切り開いて設置しなくても、ふだんの街の景色に溶け込ませることも可能です。 

 


しかし、シリコン型太陽電池に比べて発電効率が悪いことが欠点です。そのため、その効率を上げるために今回の研究を行いました。

 

まず、色素増感太陽電池の仕組みを説明します。

 

色素は光が当たると不安定な状態になり、電子を放出します。電子は、負極の酸化物半導体の中を流れ、正極・電解液を移動し、色素に奪われて安定な状態に戻ります。この繰り返しで電流が流れます。

 

 

作成方法がこちらです。

 

FTOガラスという、電気を流れるように加工したガラスを洗浄します。次に電析法によって、FTOガラスの表面に酸化亜鉛膜(電析膜)を作成します。これに色素を吸着させて負極が完成します。

 

 

作成した負極を5mmに切り分け、正極となる白金をつけ、ヨウ素電解液を入れて電池が完成です。

 

 

電析膜の端部ほど発電の効率がよい=端部をたくさん作れば発電効率が上がる?!

 

先行研究より、中央部よりも端部の方が光を電気に変換する「光電変換効率」が良いことがわかっています。

 

 

実際に、電折膜を見てみると、端部が厚くなっています。これは、端部に電子の流れが集中するというエッジ効果が関係していると考えられます。

 

 

そこで私たちは、中央部でもエッジ効果による効率を上げるために、導電面にPCBカッターで溝を入れました。すると、溝に沿って多くの電析膜が形成されていることがわかりました。

 

 

この測定結果から、導電面の中央部でも変換効率が向上したことがわかります。しかし、溝の幅はPCBカッターによって決まってしまい、また溝の間隔を変更することが難しいです。

 

そこで、基板表面をビニールテープでマスキングすれば、溝を入れるのと同様にエッジ効果を起こせるのではないかと考えました。

 

まず、テープを貼ることでエッジ効果が起こるかどうかを検証しました。左図のように5.0mm幅にテープを加工し、基板に貼り付けました。

 


 

電析後の様子の写真と、光電変換効率の結果が下図です。テープによるマスキングでもエッジ効果が発生し、実際に光電変換効率が中央部で向上したことがわかりました。

 

 

電析膜の面積が減っても光電変換効率に差は出ない 

そこで、テープの間隔を狭くして本数を増やすとエッジ効果が起きる面積が増え、発電効率がさらに上がるのではないかと考えました。そこで、下のように2.5mm間隔のテープを作成し、同様の実験を行いました。

 


 

測定結果は下図の通りです。2.5mm幅のテープの方が、変換効率が上がっていました。

 

 

続いて、テープの幅による変換効率の変化について調べました。図のように、幅が広いテープの付近で、よりエッジ効果が顕著に起こっている様子が見られたからです。

 

 

テープの幅を5.0mm幅と1.0mm幅で変えて実験を行いました。結果は下の通りです。広い幅のテープ付近で電析膜が厚くなり、実際に幅の広い方が性能が高くなることがわかりました。

 

 

形の制約のない太陽電池を作ることも可能に

 

最後に、色素増感太陽電池のデザイン化への応用を検証しました。図のように、バラの模様と岐山高校の校章の形の基板を作成し、電池としての性能を持つことを確認しました。

 

 

今回の研究を通して、基板にテープを貼り付けることで、エッジ効果が発生し、中央部の変換効率を上げることができること、さらにテープの間隔を狭めたり、テープ自体の幅を広げることでさらに性能が向上することがわかりました。

 

今後は、今回の研究を踏まえて、効率を最大化する条件を求めるとともに、他のデザインや色についても調べ、実用化への貢献につなげたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

岐山高校では、10年以上前から色素増感太陽電池の研究を行っていますが、エッジ効果に着目した研究は1つ上の先輩(2年前)から行っています。先輩はカッターで直接基板に溝をつけていましたが、加工が難しいため、私たちは物理的な溝の代替として、ビニールテープを用いています。

 

色素増感太陽電池の研究を通して、エネルギー問題に取り組んでいきたいと考えています。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたりの活動時間は平日2時間、休日7時間です。エッジ効果に関する研究は2年前から、色素増感太陽電池に関する研究は10年以上前からです。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

部員数が少ないため、データ数の確保に苦労しました。また、ふだん使用している専門用語を、専門外の人にもわかりやすく説明するための表現を考えるのが大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

溝の代替としてビニールテープを利用しようとした発想です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「実用化に向けた色素増感太陽電池―高効率化・低コスト化・信頼性向上」 (エヌティーエス)

・「色素増感太陽電池の特性評価技術」小出直哉、千葉恭男、韓礼元(シャープ技術第93号-2005年12月p42~48)

・「エッジ効果を利用した色素増感太陽電池の性能向上に関する研究」 木村剣与、駒瀬洋人、丸山京祐(岐阜県立岐山高校化学部)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

テープの間隔と幅の広さでの最適条件の追及をしたいです。また、新チームでは色素増感太陽電池の性能向上の他のアプローチや実際に起こっている現象の解明を目指して研究に励んでいます。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

研究活動に加えて、サイエンスフェスティバルなどへのブース出展やボランティアスタッフとしての参加。また、文化祭での出展に向けた企画などをしています。

 

■総文祭に参加して

 

他の学校の研究発表を見てとても刺激になりました。特にプレゼンのまとめ方や、発表の仕方などは私たちの苦手とするところでもあるため、今後の参考にしていきたいです。また、閉会式前の交流会を通して、他の学校も部員数の確保など似たような問題を抱えていることを知り、お互いにアイデアを出し合ってその解決策を考えられたことはとてもいい経験になりました。

 

※岐山高校の発表は、化学部門の優秀賞を受賞しました。

⇒他の高校の研究もみてみよう

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