2019さが総文 

三角形や六角形の穴の「網戸」を作るとどうなるの?

【物理】長崎県立長崎西高校 物理部

左から 浦頭遼茉くん、松林勇斗くん
左から 浦頭遼茉くん、松林勇斗くん

■部員数 33人(うち1年生10人・2年生13人・3年生10人)

■答えてくれた人 松林勇斗くん(2年)

 

網目の形状変化に伴う網の通気性の変化

皆さんの家にある網戸をよく見てください。普通の網戸では、網の目の形は四角形のはずです。そこで私たちは「三角形や六角形など、様々な形をした網の目の網戸を作ったらどうなるだろう」と想像してみました。網の目の形によって、風の通しやすさは違うのでしょうか。実験で確かめてみることにしました。

 

穴の形によって風の通りやすさが変わる網戸の不思議

私たちは同じ厚紙を3枚用意し、それぞれにカッターナイフで正三角形、正方形、正六角形の穴をたくさん開け、網戸の模型を作りました。いずれの模型でも、一つひとつの穴の面積は1cm2で、それぞれの厚紙の穴の面積の合計も等しくなるようにしました。

 


次に、網戸に流れる風を再現する装置「風洞」を作りました。風は扇風機で起こしましたが、そのままでは風の流れが乱れていて、自然の風を再現できません。そこで、私たちは厚紙を縦横に組み合わせた格子を作り、風を格子にいったん通すことで流れを整えました。

 


風洞の風は網戸を通ります。網戸から流れてきた風はモーターに取り付けたプロペラに当たるようにしました。こうすれば、風力発電と同じで、風の速さに比例した大きさの電圧をモーターが発電するので、モーターの電圧によって風速を知ることができます。

 


結果は棒グラフの通りです。穴の大きさが同じなら、風の通しやすさも変わらないように思えますよね。しかし、実際には、正三角形>正方形>正六角形の順に網戸を通り抜ける風の速さが速いことがわかりました。穴の面積が同じでも、穴の形によって通気性が異なるということです。

 


穴の「周の長さ」に注目! 

それでは、なぜ穴の形によって通気性が変わるのでしょうか。私たちが注目したのは、穴の「周の長さ」です。同じ面積でも、周の長さは正三角形>正方形>正六角形の順に長くなります。これは、実験1で測った風速の順番と一致しています。そこで「同じ大きさの穴では、周の長さが長いほど風速が速くなる」という仮説を立てました。

 


この仮説を確かめるため、正多角形以外の形の穴でも、「周が長いほど風速は速い」という関係が成り立つか調べることにしました。そこで私たちは扇形の穴の開いた網戸で同様の実験を行いました。中心角240度、180度、120度の扇形の穴を厚紙に開け、さらにそれぞれの扇形を2分割、3分割、4分割した穴も作りました。同じ中心角の扇形でも、たくさん分割するほど周長は増えます。

 


その結果、どの中心角の扇形でも、分割するほど風速が速くなることがわかりました。つまり、この場合でもやはり「周が長いほど風速は速い」という関係が成り立っているのです。

 

 

周が長いほど風速が速くなる理由 「迂回領域」を発見!

それでは、なぜ穴の周が長いほど網戸を通る風の風速が速くなるのでしょうか。それを調べるため、加湿器のミストを含んだ空気を穴に流すことで、穴を通り抜けるときの空気の流れ方を詳しく分析することにしました。

 


写真は幅1cm,1.5cm,2cmの穴に空気を流したときのものです。白いミストを観察してみると、いずれの場合でも、穴の外側にミストが流れていない場所ができていることに気が付きました。

白いミストの煙が見えない場所では、空気が流れていないと予想できます。私たちはこの領域を「迂回領域」と呼ぶことにしました。

 


私たちは、この迂回領域こそが、穴の周の長さによって風速が変わる原因ではないかと考えました。実際、同じ量の空気が穴を通るとき、穴が細いほど空気は速く流れなくてはなりません。穴の周が長いと、その分迂回領域が広くなり、穴の正味の面積が小さくなるので、空気が速く流れるのではないかと考えたのです。

 


実際に、穴の外側の領域では空気が流れることができないことを確かめるため、次のような実験を行いました。まず、扇形の穴を用意し、そこに風洞から風を流します。扇形の穴を、右の図のようにたくさんの正方形の領域に分割し、一つ一つの正方形領域での風速を「ピトー管」と呼ばれる装置を用いて測定しました。

 


結果は右の通りです。赤色の濃い場所ほど風速が速いことを示しています。穴の外側ほど白色になっており、そこでは空気が流れていないことがわかります。つまり、迂回領域では空気が流れていないということです。

 


迂回領域の幅を求めてみた

このように、迂回領域が原因で風速が変わることはわかりましたが、迂回領域の幅はどのようにして求められるでしょうか。穴を風が通り抜けるとき、次の公式が成り立ちます。

 

「流れる空気の体積」=「正味の穴の面積」×「風速」

 


送風機が送る「空気の体積」は同じですから、「正味の穴の面積」と「風速」は反比例するはずです。また、「正味の穴の面積(補正面積)」は

 

「穴の面積」―「迂回領域の面積」

 

で求められるはずです。そこで、実験2のデータを用いて、「風速」×「正味の穴の面積」が一定になるような迂回領域の幅を求めました。その結果、迂回領域の幅が1.2mmだとしたときに最もよく実験結果と整合することがわかりました。

この計算結果を確かめるため、次のような実験を考えました。もし、穴の半径が1.2mmだったとしたら、穴がすべて迂回領域になってしまうため、風は穴をほとんど通ることができないのではないかと予想できます。そこで私たちは、半径1.2mmの穴をたくさんあけた網を作製し、風を当ててみました。

 

 

結果はこちらの動画のように、プロペラがまったく回っていないことから、風はほとんど穴を通り抜けることができなくなっているとわかります。

 

それでは、穴の半径を1.2mmから1.5mmに少しだけ増やしてみると、どうでしょうか。迂回領域の幅が1.2mmだとすると、穴の中心に半径0.3mmの、風が通れる領域があるはずです。

 

 

結果は動画の通りです。今度はプロペラが回転しました。予想通り、半径1.5mmの穴ならば風が通り抜けることができました。こうして、迂回領域の幅が1.2mmだという計算結果の正しさを確かめることができました。

 

 

成果と今後の課題

 

今回の研究では、網戸の穴には、外側に風が通れない「迂回領域」が生じるため、穴の形によって風通しが変わることがわかりました。また、風速は迂回領域を除いた面積に反比例することがわかりました。今後は、迂回領域を活用して様々な風通しの網戸を作製し、研究を深めていきたいです。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

網戸の網目の形状は通常四角形であり、その形状を三角形などの他の形に変えたら通気性は変化するのか、疑問に思ったからです。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり2時間30分で、3か月です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

風は肉眼では見ることはできないので、その動きを観察することに苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

超音波式加湿器から出てくるミストで風の流れを可視化した点。半径1.5mmの穴をたくさん開けた網では風は通ったが、半径1.2mmの穴では風が通らなかったことも見てください。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

なぜ、風が通らない領域が発生するのかを調べたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

プログラミングや、衛星設計コンテスト、缶サット甲子園の参加に挑戦しています。

 

■総文祭に参加して

 

全国の高校生がどのような目線で物事を見ているか知ることができました。今回アドバイスしてもらったことを、これからの実験や研究に生かしていきたいと思います。

 

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