2019さが総文

鳥類の生態調査手法の切り札に?! 空中環境DNAの検出

【ポスター/生物】静岡県立掛川西高校 自然科学部

左から 塚本颯くん、岡本優真くん
左から 塚本颯くん、岡本優真くん

空中環境DNAを使った鳥類調査法の確立をめざして

鳥の羽ばたき由来の物質から環境DNAが検出できる?

 

河川や土壌などの環境中に存在する生物由来のDNAは環境DNAと呼ばれ、研究対象の生物の生息域や生息時期、生息数を知る手がかりとなります。空中DNAを検出する方法が確立すれば、鳥類の生息域調査が容易になります。特に、観察が夜行性の鳥類などの調査には有効であると考えられます。また、日本では猛禽類は一般的にその地域の生態系の頂点に位置するため、生息域を調査することでその地域の生態系の安定度を知ることができるため、個体数の少ない猛禽類の調査にも有効であると考えられます。

 

鳥類は、羽ばたく際に皮脂などを含む微粒子を撒き散らします。それを採取して、環境DNAが検出できるのではないかと仮説を立てました。

 

採取のために下図のような装置を作りました。装置にはDNAを保持するオスバン水溶液が入っており、そこに空気を送り込むことで空中の微粒子を捉えます。

 

 

DNA検出にはPCR法という一般的な方法を用いましたが、環境DNAは紫外線などの外的な影響により損傷を受けやすく、増幅ができない領域が存在する可能性があります。そのため、対象とする種に対して複数のプライマーセットを作成し、その中で有効なものを選択することにしました。プライマーは、DNA複製時の起点となる短鎖RNA またはDNAのことです。

 

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ムクドリの群がる街路樹付近から空中環境DNAの採取に成功!

最初の実験対象は身近にいるムクドリとしました。街路樹に採取装置を朝昼夕の3度に分けて設置し、DNAの検出を調べました。その結果、ムクドリが最も集まっていた夕方にDNAを検出することができました。これにより、空中環境DNAの存在し、私たちの装置によって回収できることが示されました。

 

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夜間の目視が難しいフクロウの仲間の生息も確認できる

 

次に、夜行性であり目視での観察が難しいフクロウ類のDNAを対象としました。ここでは特にウラルフクロウとアオバズクを調べます。

 

 

はじめに、擬似的な環境DNAサンプルからDNAを検出し、プライマーセットを用いてDNA増幅が可能かどうかを調べました。サンプルは羽毛を液入りボトルに入れ、軽く振って羽毛の表面物質を液中に落とすことで作成しました。

 

その結果、以下の表における橙色の領域を増幅するプライマーセットでのみ、DNA増幅が確認されました。

 

そして、学校付近の6箇所の地点で採取を行い、空中環境DNAの検出を試みました。その結果、ウラルフクロウとアオバズクともに2箇所においてDNAが検出されました。このことから、夜行性の鳥類についても空中環境DNAを用いて生息を確認することができると考えられます。

 

 

 

また、実際に採取した環境DNAのシーケンシング解析を行ったところ、ウラルフクロウの解析データにおいて、全てのサンプルで共通して波形のピークが弱い箇所が見つかりました。

 

そこで、その部分を避けた増幅領域のプライマーを16領域設計し、増幅を試みました。その結果、14領域でDNA増幅に成功しました。このことから、DNAの解析によって有効なプライマーを意図的に設計することができる可能性があります。また、検出感度の強いものと弱いものを組み合わせることで、研究対象の生物の生息について定量的な実験も行うことが可能であると考えられます。今後はこの方向でさらに研究を進めていきたいと思います。

 

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■総文祭に参加して

この度、2019さが総文に出場し、私は様々な体験をし、沢山の方と繋がることができました。大会初日から審査が始まり、審査員の方々と、8分という短い時間で濃密な対話をしました。この短時間で何をどう強調して伝えるか、という問題には大会前から大変悩みました。

 

しかし、本番は審査員の方々が笑顔も交えながら興味を持って聞いてくださり、始まってしまえば緊張せずにやりきれました。また、全国から集まった仲間たちの研究を聞くなどし、濃密な時間を過ごすことができ、貴重な経験になりました。

 

※掛川西高校の発表は、ポスター・パネル発表部門の文化庁長官賞を受賞しました。

 

⇒他の高校の研究もみてみよう

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