2019さが総文

夕暮れ時に現れる不思議な緑色の閃光の謎を手作り装置で解明!

【物理】鹿児島県立国分高校 サイエンス部物理班

左から 篠原あみさん(3年)、林 麗美さん(3年)
左から 篠原あみさん(3年)、林 麗美さん(3年)

■部員数 物理班15人(うち1年生5人・2年生5人・3年生5人)

※私たちの学校は、理数科全員が課題研究に取り組むことになっており、担当の先生の下で放課後など自主的な研究活動を行っています。理数科全体は40人×3学年です。

 

グリーンフラッシュの謎に迫る ~狭い隙間を通過する光は緑色に輝く~

ピカッと光る緑色の光「グリーンフラッシュ」の謎

 

水平線や地平線に沈む太陽を見つめていると、ごくまれに太陽の縁が緑色に輝いて見えることがあります。これは「グリーンフラッシュ」と呼ばれる現象で、私たちの住む鹿児島市でも日の出や日の入りの時に時々観測されています。

 

実際のグリーンフラッシュの動画がこちらです。一瞬しか光らないので、よく目を凝らしてください。この「グリーンフラッシュ」が起きる原因を突き止めることが私たちの研究目的です。

 

 

ヒントは「温かい空気」と「冷たい空気」の境界にあり?!

 

グリーンフラッシュが観測されるとき、同時に「蜃気楼」が起きることが知られています。蜃気楼とは、冷たい空気と温かい空気の境目で光が折れ曲がることにより、遠くの物体が近くに見えたり逆さまに見えたりする現象です。

 

例えば、太陽の光で地面や海が温められると、地面に近い空気が暖められ、逆に高いところにある空気の方が低温になります。空気中を通る光が水の中に差し込むときに光が折れ曲がる「光の屈折」は聞いたことがあると思いますが、暖かい空気と冷たい空気の間でも光は屈折します。そのため、高いところにある空気と低いところにある空気の間に温度差が生じていると、光が屈折し「蜃気楼」が見えるのです。こうした蜃気楼は「下位蜃気楼」と呼ばれます。

他にも、地面や海水面が冷たいときには地面の近くの空気が冷やされ、下から順番に「冷たい空気」「暖かい空気」「冷たい空気」と3段の層ができているときもあります。このときに起きる蜃気楼は「モック蜃気楼」と呼ばれています。

 

 

グリーンフラッシュが起きるのは、今挙げた「下位蜃気楼」「モック蜃気楼」が起きるときです。そのうち「下位蜃気楼」が起きるときのグリーンフラッシュについては、私たちの先輩がすでに研究されました。今回私たちが調べたのは「モック蜃気楼」と同時に起きるグリーンフラッシュです。

 

「グリーンフラッシュ」の仕組みに対する2つの疑問

 

実は、モック蜃気楼とともに起きるグリーンフラッシュの仕組みについては文献で説明されています。それは次のようなものです。

 

太陽光は様々な色の光が混じった光ですが、空気中で光が屈折するときの光の折れ曲がりの大きさは、色によって異なります。その結果、赤、青、緑といった色がプリズムのように分かれて見える「分散」が起きます。

 

モック蜃気楼が起きているときには、太陽から直接届く光と、暖かい空気と冷たい空気の層の境界面で反射した太陽光が私たちの目に届くのですが、それぞれの光が分散した結果、右の図のように緑色の光がちょうど重なり合って見えるというものでした。

 

 

しかし、私たちはこの考え方では、グリーンフラッシュの謎を説明しきれていないのではないかと考えました。その根拠は二つあります。

 

一つ目は、緑色以外の色が「グリーンフラッシュ」では見えないということです。太陽から直接届く光と、大気中で反射された太陽光がそれぞれ私たちの目に届くのなら、黄色など緑色以外の光も見えるはずですが、実際のグリーンフラッシュの映像ではそのような色の光は確認されませんでした。

 

二つ目は、グリーンフラッシュの写真を見てみると、緑色の閃光のそばにかすかにマゼンタ色(明るい紫色)が見えていることです。太陽光をプリズムで分解しても、マゼンタ色が現れることはないため、文献の説明ではマゼンタ色が生じることが説明できません。

 

今回の研究では、グリーンフラッシュが発生する仕組みを解き明かし、上に挙げた2つの謎を解明することに挑戦しました。

 

新たな仮説「混ざり合う太陽光」

 

まず私たちが注目したのは、二つ目の疑問点で説明した「マゼンタ色」です。太陽光は、大気中で右の図のようにいくつかの色の光に分解されていきますが、そのうち赤色と青色を混ぜ合わせると、ちょうどグリーンフラッシュが起きるときに見えるマゼンタ色が生じることがわかりました。実際に2つのプリズムで分解した太陽光を反対向きに重ね合わせると、緑色の光とマゼンタ色の光のセットが現れたのです。

 

そこで私たちは、グリーンフラッシュが起きるとき、太陽から直接届く光と、冷たい空気の層に反射された太陽光の全体が反対向きに混ざり合っているのではないかと考えました。

 

 

次に注目したのは、グリーンフラッシュが観測されたときの大気の状態です。動画撮影時の気象条件では、台地からの放射冷却で地面近くに冷たい空気の層が生じており、大気中には下から順に「冷たい空気の層」「暖かい空気の層」「冷たい空気の層」ができていたことが推定されました。

 

そこで、グリーンフラッシュが発生する実際の仕組みは次のようになっているのではないかと予想しました。

 

冷たい空気の層に挟まれた温かい空気の層に太陽光が差し込むと、高校の理科で習う「回折」という現象が起こり、太陽光がまっすぐに進まず、光が外側に広がります。その結果、温かい空気の層の中で太陽光が何回か反射し、観測地点から見ると、たまたま赤色の光と青色の光が混合してマゼンタ色に、緑色の光同士が重なってグリーンフラッシュになるのではないかと考えました。

 

 

グリーンフラッシュを実験で再現

 

では本当に、こうした「回折」と「反射」の仕組みでグリーンフラッシュは起きるのでしょうか。私たちは実際に、光を反射させる空気層の模型を作り、実験で確かめてみることにしました。

 

私たちは二枚の板(冷たい空気の層の代わり)の間に0.05mmほどの小さな隙間を作り、その隙間にLEDの白色光を当てました。私たちの仮説では、冷たい空気の層の間で太陽光が何度も反射されることでグリーンフラッシュが生じます。そこで、板の表面に「黒い紙」「灰色の紙」「白い紙」「鏡」という反射しやすさの異なる4種類の素材を張り付け、板の隙間に差し込んだ光が反対側からどのように見えるか調べました。

 

 

その結果、鏡や白い紙のような光を反射しやすい素材を使った場合では板の隙間から青緑色の光が見えました。一方、光を吸収してしまう黒い紙を使った場合では、この緑色の光は見えなくなりました。これは、空気の層の中で光が何回も反射することでグリーンフラッシュが生じるという私たちの仮説を裏付ける一つの証拠だと言えます。

 

 

次に私たちは板の表面に光を反射する金属板を貼り、隙間の厚さを0.05mmから0.15mmまで変化させて同様の実験を行いました。その結果、隙間を狭くすればするほど、緑色の光がはっきり美しく見えるようになりました。これは、板の隙間が大きいと、白色LEDの光の大部分が金属板で反射せずに板の隙間をまっすぐ通ってゆくからだと考えられます。

 

 

最後に、より本物に近いグリーンフラッシュの再現を行いました。

 

私たちの仮説は、温度の異なる空気層の間で光が反射することでグリーンフラッシュが起きるというものでした。そこで、透明の四角い容器の中に、下から順に水あめ、水、ヤシ油を注ぐと、中で液体が3層に分かれるため、グリーンフラッシュが起きるときの大気の状態を再現できます。

 

真ん中の水の層に光を当てると、この場合では写真のように緑色の光が発生しました。また、真ん中の層を薄くすればするほど緑色の光がはっきり見えることも、前回の実験と同様でした。

 

 

まとめと今後の課題

 

今回、私たちは空気の層の中で太陽光が反射し、赤、青、緑などの色に分解された太陽光が混ざり合うことでグリーンフラッシュが生じると考え、実験によってこの仮説を裏付けることに成功しました。今後は、板の隙間の中の光の通り道を詳しく調べ、さらにこの仮説について検討していきたいと思います。

 

※クリックすると拡大します

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

2年生の研究テーマ選びのとき、鹿児島大学工学部の大塚作一教授が撮影された鹿児島市から見えたグリーンフラッシュの動画を見せていただきした。これは、先輩方が課題として残した「モック蜃気楼」によるグリーンフラッシュでした。はじめは難し過ぎると躊躇していましたが、ある理由からその研究を引き継ぐことになり、文献を読んだり動画を見たりするうち発生原因を特定しよういう意欲が湧いてきました。まだ見たこともない本物のグリーンフラッシュを、この目でみたいと思っています。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

グリーンフラッシュの研究そのものは、2年前に卒業した先輩から数えて4年目になります。(1学年上の先輩方は、別の研究テーマに取り組んでいました)。私たちの研究が実際に始まったのは2018年の4月です。毎週1回はメンバー全員が集合し、顧問とのミーティングや経過報告を行い、放課後は自主的に活動してきました。今回の発表まで週3~4時間で1年7か月、文献探索や発表準備までいれると100時間くらいは頑張ったと思います。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

最終的にはできあがった実験装置は簡単なものですが、緑色の発生原因となる要素をいろいろ考え、少しずつ条件を整理し、最後の「狭いすき間」のアイデアに行きつくまでに様々な試行錯誤をしました。技術的に苦労したのは、実験装置で発生したグリーンフラッシュのきれいな写真を撮ることです。肉眼ではよく見えるのですが、狭いすき間から出る光は大変弱く、何度も何度も撮り直しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

私たちの実験装置は、誰でも検証実験が行えるように、白色LEDやメンディングテープをはじめ、すべて身近な材料だけを使っています。みなさんも、自分自身の目で狭いすき間からみえる光が緑色に輝くことをぜひ確かめてみてください。

 

また、検証実験で用いた水飴やヤシ油はスーパーで簡単に手に入ります。水の薄い層は、霧吹きで作ると簡単に作れます。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

研究の方法については、先輩方の「グリーンフラッシュの謎に迫る。~モデル化と実験装置の製作~」を参考にしました。

 

物理用語や現象については、物理の教科書を参考にしました。その他は以下にまとめました。

1) Wikipedia日本版 「グリーンフラッシュ」(2018.4)

2) Wikipedia日本版 「蜃気楼 」(2018.4)

3)「An Introduction to Green Flashes 」Andrew T. Young (2016)

4)「Explaining Green Flashes  」Andrew T. Young  (2017)  

5)「Look for the legendary greenflash 」Deborah Byrd (May 23, 2018)

6)「Green Flash photogragh 」Juan José Manzano (Grupo de Observadores Astronómicos de Tenerife)

7)「鹿児島市から撮影されたGreen Flash」 鹿児島大学生体情報工学科 大塚作一 2017.2.3 

8)鹿屋市館 輝北うわば公園ホームページ  (2018.4)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

続けていきたいです。「どのくらいの狭いすき間なのか」といった数値的なデータがあれば、さらにわかりやすく、研究内容の確実性も向上すると思います。(林)

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

本校では、理数科では1・2年生で「サイエンス研修」や「科学講演会」などがあります。課題研究以外は普通の高校生活を過ごしています。

 

■総文祭に参加して

 

どの学校もレベルの高い研究をされており、同じ高校生とは思えない凄い発表が多かったです。総文祭に参加することができたことで、自分たちの研究に足りなかった部分が見つかり、今後に生かしていきたいと思います。楽しい大会でした。(林)

 

とても有意義な大会でした。高校での課題研究はひとまず終了となりますが、今までの活動で培ってきた科学的思考方法を、これからの研究や生活に役立てていきたいと思います。(篠原)

 

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