2019さが総文

岐阜の名産 アユを冷水病から守れ!

【ポスター/生物】岐阜県立岐阜高校 自然科学部生物班

(2019年7月取材)

左から藤吉里帆さん(2年)、廣瀬雅惠さん(3年)、常川光樹くん(3年)、高井一くん(2年)
左から藤吉里帆さん(2年)、廣瀬雅惠さん(3年)、常川光樹くん(3年)、高井一くん(2年)

■部員数 28人(うち1年生11人・2年生7人・3年生10人)

■答えてくれた人 高井一くん(2年)

 

環境DNA定量解析を用いた生物分布モニタリング ~長良川・揖斐川におけるアユと冷水病菌の季節的相互関係を探る~

環境DNAを利用して、生物の分布と行動をモニタリングできる

私たちが研究対象としているアユ(Plecoglossus altiveils)は、日本を代表する川魚です。成長段階に応じて河川全域を移動する回遊魚に分類され、1年で生涯を終える年魚です。岐阜県では水産資源として重要な役割を担っており、かつては全国一の漁獲量がありましたが、1988年の1725tをピークに近年は大幅に減少しています。また、アユは岐阜県の伝統文化でもある鵜飼において漁獲され、観光資源としても非常に重要です。そこで私たちは、アユ資源量を把握することで、水産資源管理に貢献できるのではないかと考え、研究を行いました。

 

従来の個体を採集する調査方法では、河川全域を移動するアユの調査には多大な労力と時間がかかってしまいます。そこで私たちは、環境DNA調査に着目しました。環境DNAとは、河川などの生息環境中に存在する生物の皮膚やフン由来のDNAで、これを解析することで調査対象種の生息の有無や生物量を把握することができます。この手法を用いて長良川と揖斐川全域のアユの生息調査を行いました。

 

下図がその調査結果です。

 

※クリックすると拡大します

 

円の大きさがその地点でのDNA濃度の高さを表します。

 

既に知られているアユの生活史は、

・夏に上流域で生活をする

・秋に中流域で産卵する

・孵化した仔魚は降下し、冬を海洋で過ごす

・春になると遡上し再び河川へと戻ってくる

と知られています。今回の結果は、これらのアユの生活史と概ね一致したことから、通年の環境DNA調査によって河川全域のアユの分布状況を効率的に把握することができたといえます。

 

さらに、アユの産卵や遡上といった行動を追うことができるのではないかと考えて、狭い範囲で短時間に連続した環境DNA調査も行いました。この解析の結果、アユの産卵や遡上と一致する環境DNA濃度の変化が観察されました。これにより、環境DNA調査が生物の分布だけでなく、行動も把握することができるということを明らかにできました。

 

 

アユの天敵冷水病菌の生態も環境DNAで把握できないか?

 

さらに私たちは、冷水病菌についても調査を行いました。冷水病菌は、アユに冷水病という病気を引き起こします。冷水病のアユは、体表に穴が空き、死んでしまいます。梅雨の時期に流行し、岐阜県だけでなく全国で問題となっています。しかし、菌の生態について不明な点が多く、有効な対策は確立されていません。そこで私たちは、冷水病菌の生態を解明し、対策に貢献することを目指しました。

 

 

まず、アユと同様に冷水病菌の通年の環境DNA調査を行い、アユの生活史との関係性を明らかにすることを試みました。その結果が下図です。

 

※クリックすると拡大します

 

この結果から、冷水病菌は、アユが河川に生息していない冬の低水温時に河川中に多数生息する一方で、アユが河川で生息している夏の高水温時には少ないことがわかります。つまり、冷水病菌は、アユが多数生息すれば同様に多数生息するというわけではなく、水温に依存して河川中で増減していることが推測できます。

 

稚アユの放流時期をずらすことで、冷水病菌の感染を防ぐことができる?!

 

そして、秋の降下期と春の遡上期にアユと冷水病菌のDNAが同時に多数検出されていることがわかりました。これが、アユの冷水病菌感染期ではないかと私たちは考えます。

 

そして、実際に遡上アユを採集して保菌状況を調査したところ、冷水病の流行期以前にアユが保菌していることを確かめられました。

 

 

以上の結果をふまえ、私たちはアユの放流時期の延期を提案したいと考えています。現在、岐阜県ではアユの資源量回復を目的に、4月上旬から放流を行っています。しかし、この時期は水温が低く、多数の冷水病菌が河川に生息するため、感染期でもある可能性が高いです。そこで、放流を延期することにより、冷水病菌感染を防いで、被害を軽減できるのではないかと、私たちは考えます。

 

 

今後もこのような調査を継続し、放流延期の効果を調査するなど、水産資源管理に貢献していきたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

川で採集をしていたとき、体表に穴が空いたアユの死体が流れてきて、アユの死因について興味を持ちました。詳しく調べてみると、アユの大量死を引き起こす冷水病が原因であることがわかりましたが、冷水病に対する有効な解決策はまだ確立されていないことを知り、冷水病対策に貢献したいと思い、研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

この研究は今年で3年目となりました。平日は、研究を進める以外にも生き物の世話があるので、毎日活動しています。平日は、2〜3時間、土日は、調査などがあれば活動します。 

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

通年のアユと冷水病菌の河川水中での動態を把握するために、毎月、長良川10地点、揖斐川8地点の計18地点で合計300回以上採水を行いました。この調査は、丸一日かけてやるため大変でした。

 

また、越冬アユ調査では、2月の長良川で潜水調査を行いました。水温は、10度を切っており、とても寒く厳しい調査でしたが、寒いよりも越冬アユを見つけたいという気持ちが大きかったので、楽しく調査を行うことができました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

環境DNA調査による生物の在・不在の分布モニタリングだけでなく、産卵期や遡上期に狭い範囲の短期間での調査を行いました。環境DNAを用いて生物の行動モニタリングをすることが可能であることを明らかにすることができ、環境DNAの新たな可能性を示すことができた点です。

 

また、環境DNAの結果をもとに、遡上期にアユの冷水病菌保菌調査を行なったところ、アユの保菌を確認できた点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1)「日本の淡水魚」内山りゅう(山と渓谷社,66-79,2015)

2)「岐阜県の水産業」岐阜県農政部農政課水産振興室,2015

3)「河口堰がアユの生活史に与える影響」古屋康則(長良川下流域生物相調査報告書,5:54-67,2010)

4)「環境DNA分析の手法開発の現状~淡水域の研究事例を中心にして~」高原輝彦ら(日本生態学会誌,66:583-599,2016)

5)「アユ冷水病対策協議会取りまとめ」農林水産省アユ冷水病対策協議会,2008

6)「The use of environmental DNA of fishes as an efficient method of determining

 habitat connectivity,」H. Yamanaka, T. Minamoto,(Ecological Indicators, 147–153,

 2016)

7)「リアルタイム PCR を用いたアユ冷水病魚における Flavobacterium psychrophilum

  の定量性の検討」大原健一ら(日本水産学会誌,75(2):258-260, 2009)

8)「交付金課題アユ放流マニュアル」,国立研究開発法人水産研究・教育機構 2018

 

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

環境DNA定量解析によってアユと冷水病菌の河川水中での通年の動態を調査した結果から、遡上期と降下期にアユが冷水病に感染する可能が示されました。遡上期の稚アユの冷水病菌保菌調査を行ったところ、保菌していることがわかりました。今後は、降下期の孵化仔魚の保菌調査を行い、アユが冷水病菌に感染する時期の特定、発症する原因、根本的な外来性細菌の冷水病の対策を追求したいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

研究活動以外には絶滅危惧種であるヤマトサンショウウオの保全活動を行い、岐阜県の生態系の保全のために活動しています。岐阜県岐阜市のヤマトサンショウウオの産卵場に行き、卵嚢を保護、致死率が高い幼生を飼育し、変態上陸直前に生息地に戻す活動を行っています。また、GISと環境DNAをもちいて岐阜県内の新しい生息地を探しています。

 

■総文祭に参加して

 

今回の総文祭に参加して、研究内容をわかりやすく伝えつつも、自分の研究の面白さやアピールポイントなどを短い制限時間内で発表することの難しさを痛感しました。自分の伝えたいことを伝えるために何度も発表原稿を推敲して発表に臨みました。発表後、相手が面白い研究と感じてくれたときは大変嬉しくなりました。聞き手を意識し、悩んだ経験は大きな財産になったと思います。今後も研究活動に励み、研究発表の際には今回の経験を生かし、より多くの人に自分たちの研究を伝えていきたいです。

 

岐阜高校の発表は、ポスター・パネル発表部門の奨励賞を受賞しました。

 

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