2019さが総文

学校の理科室でエンジンを作る!

【物理】富山県立富山中部高校 スーパーサイエンス部

左から 恒田莉久くん、吉田行成くん、山田和幸くん、鷹栖光希くん(全員3年)
左から 恒田莉久くん、吉田行成くん、山田和幸くん、鷹栖光希くん(全員3年)

■部員数 21人(うち1年生10人・2年生5人・3年生6人)

■答えてくれた人 鷹栖光希くん(3年)

 

スターリングエンジンの熱効率向上へ -複数機連結のメリット-

みなさんは「エンジン」をご存じですよね。エンジンにはいくつもの種類があり、その仕組みも様々です。例えば蒸気機関車のエンジン(蒸気機関)は、燃えている石炭の熱で水を蒸発させ、その水蒸気を利用して車輪を回しています。もっと身近な例では、自動車のガソリンエンジンは、ガソリンが燃焼するエネルギーを使って車を動かしています。これらの共通点は「熱を動力に変換している」ということです。実は、このような装置を学校の理科室で作ることができるのです。

 

それが、「加熱されると膨張する」という気体の性質を利用した「スターリングエンジン」です。このエンジンは図のような2本の円筒(シリンダー)と車輪からできています。

 


片方のシリンダーは火で加熱されていて、そのシリンダーの中の空気が膨張することで車輪に固定された棒が押され、車輪が回ります。車輪が回ると加熱されているシリンダーからもう片方のシリンダーに空気が吸い込まれる仕掛けになっており、そこで冷却された空気が収縮することで、さらに車輪が回ります。この過程を繰り返すことで車輪が回り続けるというのが、スターリングエンジンの仕組みです。スターリングエンジンは熱効率が高く、与えた熱量をより有効に利用できます。

 

速く回る「スターリングエンジン」を作る  その鍵は「回転の安定化」

ところが、そう簡単にスターリングエンジンは動きません。今までに私たちの先輩がスターリングエンジンの製作に取り組んできましたが、それらのエンジンは点火してから車輪が回りはじめるまでに時間がかかり、また回転速度の向上も課題になっていました。

 


今回の研究の目的は、今までに制作してきたスターリングエンジンのエネルギー効率が悪くなっている原因を分析し、エンジンの性能を改善することです。

 


私たちが注目したのは、エンジンの車輪に取り付けられている「はずみ車」という部品です。

 

ピストンの前後運動で車輪を回そうとすると、図の赤い矢印の部分を回転するときに車輪が回りにくくなるのです。

 


そのため、多くのスターリングエンジンには「はずみ車」という重い円盤が車輪に設置されています。重い円盤は一度回転するとその回転を持続しようとする性質があるため、赤の矢印の部分で車輪を回転させているときも、車輪は勢いで回ってくれるのです。私たちの先輩が製作していたスターリングエンジンにも、この「はずみ車」が取り付けられていました。

 

ところが、「はずみ車」により回転を安定化するという工夫には問題点もあります。なぜなら、回転させる軸に重いはずみ車がついていれば、同じ力でピストンが動いていても車輪は重みで回転しにくくなるからです。そこで私たちは、「はずみ車を使わずにスターリングエンジンを回す方法はないか」と考えました。

 

 

「はずみ車」をなくすには?複数機連結で解決

そこで私たちが考案したのは、2機のスターリングエンジンを連結するという方法です。片方のエンジンが車輪を回しにくくなっているタイミングと、もう片方のエンジンが車輪を回しやすくなっているタイミングをそろえることで、「はずみ車」なしでも安定して車輪が回り続けるのではないかと考えました。

 


 

この方法を使えば、従来のスターリングエンジンでは「はずみ車」によって失われていたエネルギーを車輪の回転のために利用することができ、よりエネルギー効率が高まると考えられます。

 

 

さっそく、この新型エンジンの作製に取り掛かりました。私たちのエンジンでは、ガスバーナーで加熱する側のタービンには熱に強い試験管を、もう片方の冷却側シリンダーには注射器を使っています。

 

 

こうして完成した2機連結型のスターリングがこちらです。

 

 

2機連結したスターリングエンジンと、従来のスターリングエンジンが回転する様子を動画で見比べてみましょう。最初の実験では、両方のエンジンに「はずみ車」を取り付けています。

 

1機型では1秒あたり8回転だった回転数が、2機連結型では1秒あたり12回転まで速くなりました。

 

 

さらに、これらのエンジンからはずみ車を取り外してみました。従来のスターリングエンジンは「はずみ車」なしで回ることができませんが、2機連結型では、回転数が6回転/秒に減ったものの、はずみ車なしでも回りました。

 

 

以上の結果から、2機を連結することで回転を安定化することができたと言えます。

 

しかし現状の6回転/秒では、まだ「はずみ車」付きのスターリングエンジンよりも遅くなっています。これは、2機連結するだけでは安定化が不十分だったからだと考えられます。

 

 

そこで私たちは4機を連結することでエンジンの回転がさらに安定化されるのではないかと考え、4機連結型のエンジンを作製しました。

 


完成したエンジンがこちらです。

 

今までのエンジンではシリンダーを横に寝かせて使っていましたが、今回はシリンダーを縦向きに立てておくことで、中のピストンと管との間の摩擦を減らすといった工夫も施しました。その結果、「はずみ車」を使わずして、過去最高の13回転/秒という回転数を実現しました。

 

 

まとめと今後の課題

今回の研究では、スターリングエンジンを連結するという方法によって「はずみ車」を使わずにエンジンの回転を安定化することに成功しました。その結果、ガスバーナーの熱をより効率的に動力に変換できるようになったと考えられます。ただし、実際にガスバーナーからどれだけの熱エネルギーがエンジンに供給されていたのかはわかっていません。

 

今後は、エンジンのエネルギー効率の具体的な値を計測するとともに、さらなるエンジンの性能向上に取り組んでいきたいです。

 


■研究を始めた理由・経緯は?

 

本校の先輩方が数年前にスターリングエンジンの研究をしていたことを知り、その内容をさらに発展させようと考えました。先輩方の研究では、エンジンの出力の小ささが課題となっており、これを解決すべく研究を進めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

昨年7月頃から研究を始め、週5日、1日あたり2時間程度活動をしていました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

繊細なスターリングエンジンは、気象条件に影響されやすく、同じ実験操作を行っても、昨日は回ったのに今日は回らない、といったことがあり苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

高効率化を目指して、複数機のスターリングエンジンを連結した点です。

 このとき各エンジンの位相をずらして連結しました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

H27年度富山中部高校発展探究「立山の地熱と雪解け水を利用したスターリングエンジンの開発」

H28年度富山中部高校発展探究「立山の地熱と雪解け水を利用したスターリングエンジンの開発(続)」

大人の科学マガジン Vol.10

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今後はスターリングエンジンが生む出力を数値化し、単機の場合と連結した場合で、どのような違いが出るのか、調査していきたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

前年度末までは、空気抵抗についての研究を並行して進めていました。また、毎年行われている物理チャレンジや化学グランプリなどに参加し、本戦出場を果たす部員もいます。

 

■総文祭に参加して

 

この研究を進める上で自分たちの思い通りにならないことが頻繁にあり、たいへんでしたが、よい経験になったと思います。全国から集まった高校生によるすばらしい発表を聞き、改めて科学的事象の面白さを感じました。さが総文でお世話になった方々に感謝します。ありがとうございました。

 

⇒他の高校の研究もみてみよう

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