2019さが総文

手作り装置と物理実験室の機材で、風力発電の効率化・安定化を目指す!

【ポスター/物理】福島県立福島高校 スーパーサイエンス部プラズマ班

(2019年7月取材)

左から 澁谷佳輝くん、佐々木隼暉くん
左から 澁谷佳輝くん、佐々木隼暉くん

■部員数 7人(2年生5人・3年生2人)

■答えてくれた人 佐々木隼暉くん(3年)

 

プラズマによる流体制御の研究

風車の回転効率アップには気流の制御が不可欠

 

風力発電には、「発電効率の向上」と「安定的な電力供給」の課題があります。この課題の一因は、風車の羽根周辺の気流が剥がれることによって、「剥離領域」が発生することです。そこで私たちの研究では、プラズマを発生させることで気流を誘起する 「プラズマアクチュエータ」というデバイスを用いて剥離領域を減少させ、風力発電の課題解決を目指して研究を行ってきました。

 

プラズマアクチュエータは、電極となる 銅テープで絶縁体のポリイミドテープを挟み込んだ構造となっていて、薄く、シンプルな構造をしています。この電極間に高電圧を加えることによってプラズマが発生します。

 


プラズマ発生時には空気中の粒子が電離し、発生する正電荷の粒子は負極側に引き寄せられます。この時に空気中の粒子に衝突することによって気流が誘起されるという仕組みです。また、この時に誘起される気流は周囲の気流の向きを変化させる効果を持ちます。通常の風車の羽根(翼型)では、前方からの気流を受けると後方で気流の剥離が発生し、前方と後方の気圧差が抗力となってしまいます。これが風車の回転の効率を悪化させてしまいます。

 

 

自作の装置でプラズマアクチュエータの効果を測る

 

私たちの研究では、この効果を用いて剥離領域を減少させる実験を行いました。

 

実験では、翼型にプラズマアクチュエータを設置し、翼型の迎角とプラズマ発生位置を変化させて、プラズマOFF時とON時における剥離領域面積の変化を測定しました。

 

風の流れや風速を一定にするための風洞も自作しました。

 

 

図のようにプラズマアクチュエータを取り付けた自作の翼型に気流を送り、周囲の空気の流れを可視化するためにスモークワイヤー法を用いました。

 

 

迎角をαとした時の剥離領域面積と、翼型におけるプラズマ発生位置の表し方は下図の通りです。

 

 

実験動画から静止画を抽出し、画像処理ソフトを使用して剥離領域面積の測定を行いました。

 

プラズマ発生位置を翼型前縁に置くことで剥離領域が減少=気流が安定

 

まず実験1として、迎角とプラズマ発生位置を変化させながら、プラズマの有無による翼型周辺の剥離領域面積の変化を測定しました。その結果が以下のグラフです。

 

黄色い折れ線グラフはプラズマON時のOFF時に対する剥離領域面積の減少割合を表しています。このことから、いずれの場合においてもプラズマの発生によって剥離領域が減少したことがわかります。

 

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また、プラズマ発生位置が気流の剥離位置付近の場合は剥離領域が効率的に減少したことがわかります。この効果がプラズマアクチュエータの効果によるものなのか確かめるため、ストリーク図を作成しました。

 

この解析から、プラズマONにより流線が翼型へ接近していることがわかり、剥離領域の減少はプラズマアクチュエータの効果によるものであることが確認されました。

 

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続いて、実験2では気流剥離位置でのプラズマ発生が剥離領域面積を減少させる割合を測定しました。この結果から、気流剥離位置でのプラズマ発生が剥離領域面積を大きく減少させることがわかりました。

 

 

また実験1から、翼型前縁でプラズマを発生させると、迎角を変えても安定的に剥離領域が減少するとわかったので、これを用いて翼型に生じる揚力を測定する実験3を行いました。

 

その結果、どの条件においてもプラズマON時に揚力が増加することがわかりました。

 

 

実験4では、連続的な迎角変化をともなう場合の剥離領域面積を測定しました。迎角が上昇する場合と下降する場合の二つの条件で行いました。その結果、どちらの条件でも剥離領域が減少することがわかりました。

 

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プラズマアクチュエータを設置した風力発電装置の開発と発電電力の計測

 

以上の基礎実験を踏まえ、プラズマアクチュエータを設置した風力発電装置の開発と発電電力の計測を行いました。風車は高速で回転し、かつ高電圧を用いるため、3DCADを用いて精密に設計し製作しました。プラズマの発生位置は、安定的な剥離領域減少効果をもつことが基礎実験からわかった翼型前縁としました。風車から出力される電圧をオシロスコープで計測し、ピーク電圧の解析とFFTによる周波数成分の解析を行いました。

 

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すると、周波数帯がプラズマON時は高い方へ移動することがわかりました。これは、風車の回転数が増加したことを示します。そして実際に、プラズマアクチュエータの効果によって発電電力が増加していることを確認しました。

 

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ここまでの研究から、プラズマアクチュエータを風力発電に応用することで、風車周辺の剥離領域の減少に伴い、風車の羽根に生じる揚力減少を抑制でき、発電電力の増加と安定化を図ることが可能であると考えます。

 

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今後は周辺環境に対応したプラズマ発生の最適条件の考察や、実際に導入する上での取り付け方の検討などを行っていきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

再生可能エネルギーを利用した発電方法の普及が急がれる中で、欧米諸国に比べてあまり普及が進んでいない風力発電の普及の促進を目指したいと考えていまいた。そこで、プラズマアクチュエータという流体制御デバイスを、風力発電風車の課題解決に応用することができるのではないかと考えたことが研究の始まりでした。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2017年4月に、現在の3年生2名で開始しました。1週間あたり活動時間は約15時間で、2019年の7月まで約28か月間継続しています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

すべての実験を高校の実験室内で行うことをモットーとしていたため、実験装置の設計・製作にはとても時間がかかりました。また、データの処理・解析方法も工夫し、発表の際にはわかりやすさを意識しながらポスターのレイアウトを検討し、処理したデータの見せ方を何度も検討しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

実験装置は可能な限り自作した点と、画像や数値データをいくつかの方法で解析した点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・『プラズマアクチュエータを用いた流体制御における電極位置と迎角との関係』澁谷佳輝ほか (Journal of Science EGGS, 1-7. (2019))

・『絵ときでわかる 流体工学』(第2版)安達勝之・菅野一仁(オーム社(2014))

・『マンガでわかる流体力学』武居昌宏(オーム社(2009))

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

続けるとしたら、風車の羽根に対して最適なプラズマアクチュエータの取り付け方や、風車の回転速度、周辺の気候条件に合わせたプラズマの発生条件について検討し、プラズマアクチュエータを風車に取り付けた状態での実用的な発電を目指したいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

毎日の放課後の研究活動の他に、地域の小学生や小さな子どもたちに科学の楽しさを教える企画の実施や、海外の高校との交流の活動などを行っています。

 

■総文祭に参加して

 

化学や生物分野の発表が多い中で、研究内容を十分に理解してもらえるか心配でしたが、多くの人が説明に耳を傾けて様々な質問を投げかけてくださったことで、とても有意義な研究発表を行うことができたと感じています。これまで続けてきた自分たちの研究を多くの人に伝えることができて、とても嬉しかったです。この研究にご協力いただいた、東北大学大学院工学研究科の小室淳史先生をはじめとするすべての皆さんへ感謝の気持ちを伝えたいです。

 

※福島高校の発表は、ポスター発表部門の奨励賞を受賞しました。

⇒他の高校の研究もみてみよう

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