2019さが総文

身近な水辺の小さなエビに迫る遺伝子汚染の危機~ミナミヌマエビの形態調査から解明

【ポスター/生物】熊本県立東稜高校 生物部

 左から 荒川拓実くん(2年)、野間旭媛さん(2年)、坂本実優さん(2年)、東田愛美さん(3年)
左から 荒川拓実くん(2年)、野間旭媛さん(2年)、坂本実優さん(2年)、東田愛美さん(3年)

■部員数 15人(うち1年生5人・2年生4人・3年生6人)

■答えてくれた人 坂本実優さん(2年)

 

熊本にミナミヌマエビは残っているのか

日本各地で外来種が見つかっている

カワリヌマエビ属ミナミヌマエビ(Neocaridina denticulata)は、西日本で最も一般的な陸封型(一生を淡水で過ごす)のヌマエビ類です。近年、中国・韓国・台湾などから来たカワリヌマエビ属が日本各地で見つかっています。さらに、在来種のミナミヌマエビと外来種の交雑が行われ、遺伝子汚染の可能性も高く、問題となっています。

 

(図)ミナミヌマエビ
(図)ミナミヌマエビ

ミナミヌマエビと外来種の違いとして、額角の長短が挙げられます。額角の先端が、第一触覚第三節先端よりも長ければ在来種、短ければ外来種です。しかし、体長が2~3cmと小さく、外観での区別はとても難しいです。

 

(図)額角の長・短

(図)額角が長い在来種と、短い外来種

 

胸脚の形態を手掛かりに在来種と外来種を一体ずつ判別

 

私たちは、2016年に熊本市の江津湖でカワリヌマエビ属外来種を確認し、2017年には熊本市および周辺エリアに外来種が広く分布していることを報告しました。しかし、このときは各個体の識別は困難でした。

 

ところが、2017年に、エビの第三胸脚の湾曲という新たな識別(西野,2017)が示されたことで、識別が可能となりました。第三胸脚がまっすぐならば在来種、湾曲していれば外来種です。 

 

 

今回の研究では、熊本への外来種の侵入状況を調べて、ミナミヌマエビがどれだけ残っているかを明らかにするとともに、在来のミナミヌマエビと外来種の更なる判別基準を探すことを目指しました。

 

調査は2017年12月から2018年10月にかけて、熊本市近辺で行いました。

 

(図8)調査地点

 

(図9)江津湖の地点拡大図

 

 

手網で採集し、一体ずつエタノールで保存して標本にしました。そして体の各部を計測しました。

 

調査に用いたのは、今回採集した14地点159個体に加え、2016〜17年に25地点297個体、約10年前に八代高校生物研究部が採集した11地点65個体で、合わせて50地点521個体です。

 

(図12)計測部位

 

 

すでにほとんどが外来種、交雑も進んでいる?

 

その結果、額角が長い個体は2008〜09年には50%いたのに対し、2018年には10%まで減少していました。また、第三胸脚がまっすぐな個体は2008〜09年には8%いたのが、2018年には2%まで減少していました。これらを合わせると、すでにほとんどが外来種であることがわかりました。

 

※クリックすると拡大します。

 

次に、調査地点ごとに額角長を比較しました。長さは連続的に変化しており、どこかで分かれることはありませんでした。

 

※クリックすると拡大します。

 

また、この額角長の並びに対し、第三胸脚の湾曲を組み合わせてグラフ化したものが下の図です。

 

赤が完全に外来種の特徴を示しているもの、青が在来種の特徴を有するものです。外来種の特徴を有する個体のみを確認したのが46地点であるのに対し、ミナミヌマエビの特徴を有する個体を1個体以上確認できたのは、4地点のみでした。

 

※クリックすると拡大します。

 

下の図は、各地点での割合を地図上で比較したものです。

 

 

ヌマエビやアユの放流によって外来種が紛れ込んだか

 

これに加え、私たちは外来種に関する聞き取り調査も行いました。すると、琵琶湖由来のアユが過去に球磨川水系に放流され、その後球磨川にはいないはずのギギなどの魚が確認されたとわかりました。また、2017年にため池の水を抜いてブラックバスやオオカナダモの除去を行ないましたが、ブラックバスが再び放流された可能性が高いとの情報も得ました。

 

以上の結果から考察します。

 

江津湖では毎年、ヌマエビ類が放流されており、これにより外来種が侵入したと思われます。また、球磨川水系ではアユに混じって琵琶湖から外来種が侵入した可能性があります。

 

江津湖ではほとんどが外来種の特徴を持つ個体であったため、ここからほかの地域に拡散していると考えられます。10年前の標本からも外来種の特徴を有する個体が確認されたことから、少なくとも10年前には外来種が侵入していたようです。

 

今回調べた範囲では、熊本に在来のミナミヌマエビのみが生息する水域は残っていませんでした。これは危機的な状態であり、私たちは在来種の保全のために更なる調査を進めたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

3年前に先輩がエビを採集し同定を行ったところ、ミナミヌマエビに似ているが図鑑に載っている特徴と少し異なっていました。詳しく調べたところ、ミナミヌマエビと同じカワリヌマエビ属の外来種であることがわかりました。身近な水辺の小さなエビにも外来種が広がっていました。このことがきっかけで、熊本にミナミヌマエビが残っている場所がどこかにないかと研究を進めましたが、純粋なミナミヌマエビとなかなか出会うことができないでいます。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2016年から始まりました。

 

平日は1日あたり2時間程度、休日は1日あたり3時間程度活動しています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

私たちが研究しているヌマエビは2~3cm程の小さなエビなので、計測を行う際にとても細かい作業が続き、ヌマエビの扱いにとても苦労しました。2人で521個体を測定しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

カワリヌマエビ属の識別方法です。顕微鏡デジタル装置(JCAM)で、額角長の長短の測定や第3胸脚前節の湾曲の有無を判断しました。調査地点は、最初に外来種を見つけた地点を中心に広げていき、県内の高校からお借りした昔の標本も計測しました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「日本へのカワリヌマエビ(Neocaridina spp.)の侵入とその分類学的課題」西野麻知子(地域自然史と保全 = Bulletin of Kansai Organization for Nature Conservation 39(1),2017)

・「外来カワリヌマエビ属の侵入・分布拡大のプロセスと在来種との関係」西野麻知子ら(日本生態学会第56回全国大会(2009))

・「新たに琵琶湖へ侵入したシナヌマエビ」西野麻知子(琵琶湖研究所ニュース:オウミア 80, 3, 2004)

・「日本産エビ類の分類と生態II 小エビ下目(1)」林健一(生物研究社2007)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今後もミナミヌマエビとその外来種の研究を継続し、調査地点を増やしてミナミヌマエビを探していきたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

サーモグラフィーカメラを使用した、昆虫の体温の研究を行っています。また、学校に迷い込んだ鳥や窓に激突した鳥の調査や、自動撮影装置を使った校内の動物の調査も行っています。夏休みには自然豊かな場所に合宿に行って、日頃と違う生き物の採集・観察をしたりしています。

 

■総文祭に参加して

 

全国総文という大きな舞台での発表はとても緊張しましたが、たくさんの感想やアドバイスをもらうことができ、あまり体験することのできない貴重な経験をすることができました。また、全国各地からいろいろな研究を行っている生徒が集まり、ポスターを通して交流することで、研究方法やデータのまとめ方などを目で見て学ぶことができ、今後の研究を進めるためのヒントが得られました。今回の経験を生かして今後も研究を頑張りたいです。

 

⇒他の高校の研究もみてみよう

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